歌手デビュー30周年記念、初の自選２枚組ベスト！
去る2008年、女優デビュー30周年を迎えた際にもNHKの名番組「SONGS」に出演し、昨2010年には映画「今度は愛妻家」公開記念イベントとして20年ぶりのライブを開催。
いずれの回も相変わらず透き通り、日本語の美しさが際立った歌声を聴かせ、歌手としても衰えない魅力をハッキリ見せましたから、薬師丸さんの新曲リリースを待ち望んでいた人はホントに多かったことと思います。
近年では大ヒットした「ALWAYS 三丁目の夕日」に代表されるように、すっかりお母さん役が定着してしまいましたが、「野性の証明」で一風変わった子役としてデビューした姿をリアルタイムで見て以来、「お父さん怖いよ」から始まり「カ・イ・カ・ン」とか「ドジな探偵さんね」とか、「あ～！ 私、おじい様を刺し殺してしまった！」とか「ちゃん・リン・シャン」とか、あめくみちこを含め誰でも一度は真似したことのある我々世代からすれば、やっぱり歳月の早さを実感せずにはいられません。
さて、今度の新曲「 僕の宝物
」はシングルとしては11年ぶりなのだとか。青森の人気“ブサカワ犬”をモデルにした３月公開の主演映画「わさお」の主題歌で、Kiroroの玉城千春が作詞を担当。まずは先行配信というスタイルとなり、CDのリリースは公開に合わせ３月になることがアナウンスされていました。薬師丸さんは記者会見で「自分がやってきた集大成を、そのうちみなさんにお届けしたい」と語っておられましたが、その言葉通り、なんと初の自選ベストが出ることになりました！
それが２枚組の「 歌物語
」。新曲のシングルと同時発売になるとのことです。彼女らしいステキなタイトルのこのベスト、ディスク１はシングル曲を中心に構成されるようで、81年の歌手デビュー曲「セーラー服と機関銃」から、なんと「僕の宝物」までの16曲を選曲。同発となる新曲を入れてくれるなんて、なんと太っ腹なことでしょう
そしてディスク２は、アルバムにも名曲の多い薬師丸さんならでは、アルバム曲を中心に14曲。合計30曲が収録されるとのことです。
振り返ると86年の「薬師丸ひろ子ベスト・コレクション」以来、２枚組を含め10タイトル以上のベスト盤が出され続けてきた薬師丸さんですが、EMI編集ではデビュー曲の「セーラー服と機関銃」が東芝移籍後の新録バージョンだったりで、あの曲を聴きたくてベストを買ったのにガッカリという方は昔からかなりの数に上っていたようです。
今みたいに音源の貸し借りなんて夢のまた夢、メーカーの垣根が高かった時代ですのでしょうがないことなのですが、当時出た角川映画の主題歌集でさえオリジナルバージョンではありませんでしたから。
コアなファンはCDシングルやBOX、ファンハウス時代のベストやコンピ盤などで入手なさったようですが、今回、あれがオリジナルで入っていたとしたら、ひろ子ファンにとってはこの上ない編集盤になりそうですネ。
さて、今さら言うまでもなく歌手としても偉大な実績を残している薬師丸さん。シングルでは、「メイン・テーマ」が聖子・マッチ・トシちゃんの発売日戦争に敗れオリコン２位止まりだったものの、「セーラー服と機関銃」「探偵物語／すこしだけやさしく」「Woman〜Wの悲劇より」の３枚がNo.1を獲得。角川から独立後も歌はコンスタントに大ヒットを記録し、「あなたを・もっと・知りたくて」「ステキな恋の忘れ方」「ささやきのステップ」「紳士同盟」まで軒並みトップ5入りを果たしました。
その後も「胸の振子」「終楽章」「時代」「語りつぐ愛に」まで、12インチを除きすべてがトップ10ヒット。映画主題歌をはじめ最初に企画ありきのタイアップ物が多い割には聴き応えたっぷりなのは、やはり石坂敬一さん、鈴木孝夫さんといったEMIの優秀なスタッフの皆さんがきちっと支えてきたからこそでしょう。
もちろん、シングル以上に素晴らしいのが、アクトレスシンガーとしての真価がより発揮できるアルバム。84年の初の歌入りにして唯一のオリコンNo.1を記録した大ヒット作「古今集」以来、上質なアルバムを発表し続けてきた薬師丸さんならでは、粒よりの作品群は目が離せません。
ニクイほど秀逸なコンセプトアルバム「夢十話」、麗しき松本隆プロデュースの「花図鑑」、中島みゆき提供作が傑出した「星紀行」、女性シンガーソングライターによる作品群とともに自ら作詩作曲にも挑戦した「Sincerely Yours」、スタンダードの日本語カバーやセルフカバーも入った「LOVER'S CONCERTO」などなど、シングルに勢いがなくなった後も軒並み大ヒット。アルバムアーティストとしてめざましい活躍を遂げてきたことは、皆さんご存じですよね。
作家陣も豪華で、松本隆さんイニシアチブ（花図鑑は名作ですね）の大瀧詠一、南佳孝、松任谷由実、細野晴臣、井上陽水といった大御所はもとより、大貫妙子、竹内まりや、中島みゆき、吉田美奈子、矢野顕子、尾崎亜美、大江千里、ASKA、KANら力あるシンガー・ソングライターを中心に才能あふれる多彩な顔ぶれを起用してきた薬師丸さん。
個人的には、デビュー曲のB面で小椋佳の詩をノートに書き写したぐらい大好きだった「あたりまえの虹」から始まって、ユーミン作曲の「冬のバラ」、CMでの神がかり的な歌声と表情に鳥肌が立ってしまった「胸の振り子」、みゆきサン提供作の中でも屈指の名作「空港日誌」（今聴くと打ち込みがツライんでリアレンジしてほしい）、スタ誕生出身の高橋美枝が作詞家となり風堂美起という名で作詩し、楠瀬誠志郎が作曲したナンバー「手をつないでいて」、大江千里クンと坂本キョージュのコラボ「ふたりの宇宙」とか、今さらですが余りの名作の多さに驚きます。
同時期のアイドルもよく似た布陣で楽曲制作を行ってきましたが、明らかに彼らたちとは一線を画す丁寧な仕上がりで、まさしくひろ子ブランドとでもいうべき知的な気品に満ちていたのは確かです。
それは、当初は歌う予定がなかったという来生姉弟によるデビュー曲からそうでした。
松田聖子が聖子ちゃんカットを左右に大きく揺らしながら「風立ちぬ」を熱唱し、河合奈保子は「ムーンライト・キッス」でカスタネットをタンタタタンタンと鳴らし（ただし当時は事故で休養中）、柏原よしえが腰を突き出し「ハロー・グッバイ」を踊り、松本伊代が「センチメンタル・ジャーニー」をあの振り付けて歌っていた頃。
そんな中にあって、ザ・ベストテンに登場し、直立不動で恥じらいながらの合唱部的唱法で歌いきった姿は、カドカワ家の長女・薬師丸ひろ子の立ち位置そのままに別世界的で、ホントに後光がさすほどでしたね。
むろん初期はカドカワ的プロモーションの賜物といってしまえばそれまでですが、薬師丸さんの場合、確固とした自分の意思が感じられていましたし、それが歌にも色濃く表れていたのだと思います。
本当にボーカリストとしても希有な存在ですけど、ファン層も実に幅広かったこともあってか、アイドルマニアや復刻盤フリークからはどうもスルーされ、マストアイテムからは外される傾向にあるみたい。
アイドルものの復刻に消極的な感じのEMIなので、オリアルの紙ジャケが２タイトルしか出ていないことも要因かもしれませんけど（そのワリに映像商品は出てますよね）。
かく言うワタシも、2003年に出た通販限定の100曲入りCD-BOX「 薬師丸ひろ子 PURE SWEET
ともあれ、殺伐とした世の中の邪気を洗い流し、傷ついた心を癒やすかのような、薬師丸さんの優しくて清らかな歌声。それは小さい頃からきっちりと自分の人生を歩いてこられた、彼女の生き方が歌ににじみ出ているからにほかなりません。
角川映画35周年記念の主題歌集（こちらで紹介）と併せ、今回のベストで名曲の数々が再評価されるとともに、歌手・薬師丸ひろ子に再び注目が集まって、新作もどんどん企画されることを祈っています。
薬師丸さんのうたって、どんな嗜好の旧譜ファンの心にも訴えかけるほど、オトナの鑑賞と感傷に堪えうるものだと思いますから。
（2011.1.17）
＊初回特典はメッセージサイン入り・オリジナルポストカード封入。収録予定曲は以下の通りです。お問い合わせのあった「ごきげんよう」のサイコロソング（？）「ハードデイズ・ラグ」や、中島みゆき作品「未完成」も入るようです。
●Disc-1：SONGS＆STORIES
セーラー服と機関銃（オリジナル・バージョン）／探偵物語 ／すこしだけ やさしく ／メイン・テーマ／Woman "Wの悲劇"より／あなたを・もっと・知りたくて／ステキな恋の忘れ方 ／ささやきのステップ／瞳で話して／紳士同盟／ハードデイズ ラグ／時代／語りつぐ愛に／風に乗って／夕暮れを止めて／僕の宝物
●Disc-2：HEARTS＆STORIES
PRIMAVERA／A LOVER’S CONCERTO／紅い花、青い花／DESTIN／さみしい人にならないで／未完成／100粒の涙／バンブー・ボート／うたかた／天に星、地に花／雨は止まない／雨にさらわれて／元気を出して／時の贈り物
