見てから聴くか、聴いてから見るか。35周年記念盤!
あれは確か、昭和51年の夏休みでございましたでしょうか。
当時、小学校のプールは児童たちのために毎日開放されておりましたが、坊っちゃまたちの間ではある遊びが大流行していたのでございます。それはプールの中で逆立ちするという他愛もないものでございましたが、多くのお嬢様方に戦慄の悲鳴を上げさせておりました。
いいえ、お嬢様たちは逆立ちを怖がっていたのではございません。水面から両の足を出すというおぞましい光景が、あのポスターを連想させたからなのでございます。
ええ、左様でございます。公開の随分と前から大がかりな宣伝がなされ、噂が噂を呼んだあの映画。そう、角川春樹様が製作なさった初めての角川映画「犬神家の一族」でございます…。
と、何とも面妖な書き出して失礼しましたが、あのプールで繰り広げられた犬神家の一族ごっこから早35年。角川映画も35周年を迎えるんですね。
お家騒動やらいろんなことがありましたが、鬼才・角川春樹氏が目の覚めるような手法で人々をトリコにし、一世を風靡した事実に変わりはありませんし、当時を知る者の胸に角川だけが持っていた新しさや魅力はしっかりと刻みつけられているのではないでしょうか。
やっぱりですね、角川ってメディアミックスという手法が優れていただけでなく、文庫の装丁や書店での展開など、ビジュアル的なクオリティやラインアップが総じて他を圧倒していたのは確かです。
我々世代のような当時、小中学生だった者にとっては、文庫と言えばきっと新潮ではなく角川。同じ名作を読むなら角川文庫で、というブランド意識を抱いていたのはきっとワタシだけではありますまい。
そしてほぼ同世代のアイドル、薬師丸ひろ子、渡辺典子、原田知世の存在。他のアイドルとは一線を画した角川3人娘。その知的でピュアなイメージや歌はまさに好みで、それぞれにファンでしたし、ほとんど公開初日に見に行きましたね。全盛期には「バラエティ」という角川系芸能誌も愛読していたほどです。
元から好きではありましたが、大林宣彦監督に心底ハマり、尾道を何度も訪ねるようになったのも角川映画がきっかけでした。
と、あらためて思い返すと見事にカドカワの洗礼を受けていることに愕然といたしましたが、そんな思い出をつい語ってしまうのも、35周年を記念した角川映画ヒット主題歌ベストが発売されることになったからなのです。
それが、EMIから発売されますズバリのタイトル「角川映画主題歌集」。
スペシャルパッケージで2枚組の限定盤と、1枚もの通常盤の2種類が出るようですが、オススメは何と言っても1万セット限定盤「 角川映画主題歌集~デラックス 」です。
初回盤の2枚のCDは、ディスク1が通常盤と同じ主題歌集で、薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」「探偵物語」「メイン・テーマ」「WOMAN~Wの悲劇より」、原田知世「時をかける少女」「愛情物語」、渡辺典子「晴れ、ときどき殺人」という角川映画の主題歌ヒットを支えた3人娘のナンバーをメインに、「犬神家の一族」の「愛のバラード」からジョー山中 「人間の証明のテーマ」、町田義人「戦士の休息」、前野曜子「蘇える金狼のテーマ」、松村とおる「戦国自衛隊のテーマ」、ジャニス・イアン「You are love」、南佳孝「スローなブギにしてくれ」、松任谷由実「守ってあげたい」、ジョン・オバニオン「里見八犬伝」、ローズマリー・バトラー「汚れた英雄」「光の天使」まで厳選18曲を収録の予定。
ディスク2はサウンドトラックをはじめ、挿入歌など12曲を選りすぐり。インストテーマのほか、薬師丸ひろ子「すこしだけ やさしく」、ジョン・オバニオン「八剣士のテーマ(White Light)」、原田知世「地下鉄のザジ」などが予定されています。
これにプラスして、CDに主題歌が収録された角川映画18作のポスターや詳細データなどの資料をまとめたオールカラーブックレット(48ページの予定)をセットした豪華版です。さらには 封入特典として、お好きな映画の復刻ポスターが3枚セットで当たるというプレゼント応募ハガキ付きと、角川映画&角川3人娘のファンにはたまらない内容ですよね。
なお、通常盤「 角川映画主題歌集 」はディスク1の主題歌集のみとなっていますので、お好みに合わせてお選びください。
さて、一時期までは角川レコードというレーベルも立ち上げていた角川。そういえば98年にはワーナーから3人娘のヒット曲を集めた「角川映画・女優ヴォーカル・セレクション」というコンピも出ていましたが、主題歌集といって思い出すのは85年、角川春樹事務所創立10周年の記念リリースです。
今回の35周年盤は、その10周年時の焼き直しの印象も強いので、ここでちょっと振り返ってみましょうか。
まず、3人娘の1人ながらなんだか不遇だった渡辺典子が在籍していたコロムビア(そういえば薬師丸ひろ子初のナレーションLPもコロムビアだった!)から出たのが「角川映画メモリアル」。「犬神家の一族」「人間の証明」「悪魔が来りて笛を吹く」「復活の日」「野獣死すべし」のインストテーマを中心に、主題歌は渡辺典子の「少年ケニヤ」「晴れ,ときどき殺人」など全10曲を収録。
なぜか「守ってあげたい」が原田知世バージョンで収録されておりましたが、95年にQ盤化され今もカタログに生き続けています。
そしてもう1枚、3人娘のうち薬師丸ひろ子、原田知世という2大スターが移籍したEMIから発売。おなじみの「角川映画スペシャル」。
知世ちゃんは84年にソニーへと再移籍しましたんで、このアルバムには知世ちゃん唯一のNo.1ヒット主題歌「天国にいちばん近い島」は入っていませんが、ジョー山中「人間の証明のテーマ」から薬師丸ひろ子最後の角川映画主題歌にしてユーミン作品「Woman〜Wの悲劇」まで、全12曲を収録。
「セーラー服と機関銃」や「時をかける少女」はEMIで再録されたバージョンで、特に「セーラー服〜」はオリジナルの音源が未CD化だったりして不満の声も多かったようでしたけど、圧巻のボーカルもの主題歌が勢ぞろい。
むろんワタシもずーっと愛聴しておりますが、こちらはなんとオリジナルのまま25年を経た現在まで廃盤にならず、驚異のロングセラーを続けています。
この2作と比較すると、今回の記念盤は10周年EMI盤をバージョンアップさせつつ、コロムビア盤のエッセンスも少し加えた増強補完盤と言えそう。「ねらわれた学園」の「守ってあげたい」も、今回はユーミンのオリジナルバージョンが入ることですしね。
それと何よりの違いは、デジタル・リマスタリングでグーンといい音になること。根強い人気を誇る既発の主題歌集ですが、なにせいずれも25年前の音質ですから…。そういう意味では、今回の大きな特長は収録曲ではなく 音質といえそうです。
ともあれ「人間の証明のテーマ」に「母さん、僕のあの帽子…」と西条八十詩集を暗唱したり、「野性の証明」に「お父さん、こわいよ…」とつぶやいたり、「セーラー服と機関銃」を聴きながら「カ・イ・カーン」と叫んだり、「時をかける少女」に思わず「誰!?誰なの?…深町くん?ゴロちゃん?」と口走ったり、聴いてたら頭に刷り込まれた映画のシーンやセリフなんかがどんどん出てきそう(いま目に浮かんでいるのは、峰岸徹さんの星の魔王子)。
そうなりゃ、肝心の映画もまた見たくなってきますよね。昨年、角川映画への出演が多かった松田優作の没後20年記念として、彼の出演した角川映画のデジタル・リマスター版DVDが多数出ていましたが、この35周年を機にまた随時、デジタル・リマスター版DVDが発売されるとか。
CDと同時期に、10作品が第1弾としてラインアップに挙がっています。
さあ、見てから聴くか、聴いてから見るか。狼は生きろ、豚は死ね。どっちがいいかは、星よ、導きたまえ。ということで…。
(2010.11.15)