11年ぶりのベスト! 必聴は松本隆プロデュースの1年目!
やばせばび。リピート・アフター・ミー、やばせばび。なーんて、みんなでモノマネの練習をしたことも懐かしい思い出。そう、ご存じ山瀬まみ。榊原郁恵ちゃんから始まったホリプロ・タレントスカウトキャラバンの、記念すべき第10回目の優勝者です。
いかにもホリプロ好みとでもいうべきルックスでしたが、意外にも歌は本格的。86年3月のデビュー時は、そのギャップと大々的なプロモーションに驚いたものです。
“国民のおもちゃ、新発売。”というキャッチフレーズにも大きな違和感を覚えたほど、山瀬の最初のイメージって、すごくマジメな感じでしたよね。声とかしゃべり方はヘンテコぶりっこで80年代的ホンネアイドルっぽい雰囲気もあったんですけど、無垢なんだか世間知らずなんだか、いろんなシーンで羞恥の表情もよく見せていたように思います。
松本隆さんがリードした上質な作品群の出来映えと相まって、不思議な魅力を漂わせていましたよね。
そんなヘンテコな個性は、あの名番組「テレビ探偵団」をきっかけにバラドルとして開花。歌の方もそのイメージへシフト。デビュー当時の様子を思い出すにつけ、バラドルキャラをムリして作ったのか、とても健全に壊れてしまったのかと不思議に思えて仕方ありませんでした。
そんな山瀬もデビュー25周年。今回、歌手としての山瀬の記念ベストがリリースされるという知らせが、音羽の杜のキングレコードから届きました。それが「 山瀬まみ-25th Anniversary Best Album-(DVD付) 」!
山瀬のベストとしては、99年のキングCD文庫アーティスト・コレクションシリーズ以来11年ぶり。今回は、なんとCD+DVDの2枚組となっています。
今年のキングと言えば、パーフェクト・ベストシリーズ(こちらで紹介)や、今や参議院のセンセイとなった三原順子の超豪華「 JUNKO BOX(完全限定生産CD13枚&DVD1枚) 」(選挙前、渋谷での街頭演説に出くわして耳を傾けたりたりしたんですけど、BOXの紹介はスルーしてしまいました。リクエストを下さった方、スミマセン!)とか、AKB並みのリリースが続く旧譜復刻。
といっても、この山瀬は井森美幸の「 井森美幸シングル・コレクション 井森美幸に2,000円!! (DVD付) 」みたく、ホリプロからの永年勤続のご祝儀的な意味合いもあるような気がしてならないんですけど。
どうであれ、結局四半世紀も活躍し続けているのですから、大したものですよね。実は歌声も「新婚さんいらっしゃい!」で毎週チラッと聴けるという状況が続いていますし、そう考えるとホント歌手活動も息が長い! ホリプロではもしかして、和田アキ子よりテレビで歌が流れているアーティストなんじゃないでしょうか。
山瀬の歌手活動と言えば、正統派アイドルだった1年目より、やっぱり2年目からのバラドル路線、コミカルな「怪傑ぶんぶんガール」や、オリジナルはクック、ニック&チャッキーのディスコヒットですけど我々世代にはレイジーやヒップアップでおなじみの「可愛いひとよ」のユーロビート風カバー、キングレコード所属ならではのアニメ主題歌などが知られてたりして。
または、バンドブーム全盛の89年には山瀬ロック化計画とかなんかで、筋肉少女帯がバックアップして制作したアルバムとか。
この時はユニコーンの民生を初め、パール兄弟のサエキけんぞう、矢野アッコちゃん、吉田美奈子、スカパラら豪華な布陣がすごい話題だったし、プログレやパンクというよりオペレッタみたいなロックに挑戦した山瀬は、かつてないほどクローズアップされましたからね。
「ゴォー!」とかはCMでもオンエアされ、時代の寵児のようになってましたし、アイドルマニア以外の方にとって山瀬の歌というと、この頃の印象が強いんじゃないでしょうか。そういえばその後、ソニーへと移籍したこともありましたっけ。
今回のベストではそういう流れもしっかり堪能できると思いますし、同じキングで同じバラドルの枠にくくられることの多かった森口博子とは比べ物にならない、山瀬の多才ぶりを実感できることでしょう。
とオチをつけたいとことですが、ホントに聴かなければならない山瀬は、1年目の松本隆プロデュース作品なのです。
シングルでいえば、ユーミンとのコンビで臨んだデビュー曲「 メロンのためいき/今夜はフェアリー・テール 」、宮城伸一郎と組んだ「 セシリア・Bの片想い/水晶球 」、そして南佳孝との「 Heartbreak Cafe/ガラスの部屋 」「Strange Pink/Modern City」という4枚。アルバムでは、ファーストの「RIBBON」、ミニアルバムの「リセ」の2枚。
これらのシングルは成果という点では今一歩でしたが、ほとんどがオリコントップ30に食い込むスマッシュヒットになったし、テレビでの歌披露もかなりありましたし、新人賞レースにもガッツリ出ていましたんで、ホントはもっと記憶に残ってしかるべきなんですけど。バラドルイメージが強烈過ぎたせいか、一般の人には全く忘れ去られているようでとっても残念です。
山瀬デビュー1年目の86年は、心血を注いだ松田聖子が結婚によって休業し、第一線から退いてしまっていた時期。そのため、聖子へとぶつけるはずだったアイデアや創作意欲を、すべて山瀬に注いだかと思われる出来なのです。作曲陣も松本人脈で、この年の聖子が出したアルバム「SUPREME」とかぶっているのにも注目です。
聖子作品でいえば、「Tinker Bell」「Windy Shadow」で展開したコケティッシュ・メルヘンがベースになっている感じありますが、聖子が早くも魔女っぽい年齢不詳さを感じさせたのに対して、山瀬は正真正銘のミドルティーン。バラドルイメージがウソのようにテレビでは羞恥の表情も見せていた頃ですから、ルイス・キャロル系ロリータっぽい風情もあってあの世界観の見事な表現者としての素質は十二分。
また、彼女のボーカルの太さとやや過剰気味の媚びは普通なら鼻についてしまうはずなのに、松本マジックなのか、それを感じさせないほどキュートな世界になっているんです。
松本さんはまったく違う意識で書かれたのだとしても、我々聞き手がつい重ねてしまう松本的聖子世界。
同時期、芳本美代子や水谷麻里に書いた作品の主軸は内向的で、どちらかといえば太田裕美的でありましたから、山瀬に書いた詩が余計に聖子っぽく感じられたのかもしれません。
しかもリアルタイムで当の聖子の詩は、実生活にふさわしく常識にのっとった品行方正なヤングミセス、みたいな一面をクローズアップさせていましたから。
といいつつ、翌年、松本さんはそのタブーを破り、聖子を年齢不詳のメルヘンワールドへと放った「Strawberry Time」を制作します。そういう流れで言えば、山瀬の松本作品は「Strawberry Time」へのエチュードとして、スルーされていく運命だったのかもしれません。
この辺、もう一度ちゃんと通して詩を味わい歌をよく聴いて、再確認してみたいものです。
というワケで、今回のベストでシンガーとしての山瀬に注目が集まり、松本全作品(再録の「メロンのためいき(NEW VERSION)」も含む)の復刻へとつながっていけばいいな、などと思っております。
コレをお読みの皆さんはそんなコト今さら言われなくても…という感じでしょうし、きっと前のベストをお持ちでしょうけど、もしあの奇跡のような1年目の山瀬を未聴の方がいらっしゃいましたら、今回のベストでシングル曲(DVDにロック時代の映像じゃなく、もしも初期のビデオ「CANDY」が全部入れば、一部アルバム曲も聴けることになります)をまずお聴きいただき、音羽の杜に向かって松本作品の復刻を叫んでもらえると、とってもウレシイです。
(2010.12.23)
*CDは全シングル曲に新録音曲をプラスしたものになるそうです。またDVDの内容について多数のお問い合わせをいただきましたが、残念ながら山瀬まみロック化計画時代の映像となっており、1990年に発売された「LIVE AT TERADA SOKO F-GO」と1991年の「LIVE TOUR 1991 AT POWER STATION」の2作品に加え「ゴォ!」と「BURICCO」のプロモーションビデオをボーナス収録した内容とのことです。
商品についてご意見などがある場合は、こちらではなく発売元のキングレコード(HP内のよくある質問のページにお問い合わせフォームが設置されているほかテレフォンセンターの電話番号も記載されています)へお願いします。
*DVDの収録内容に変更があり、めでたく「Candy」(セシリア・Bの片思い/ピンクのマニキュア/くちびるにマスカット/Heartbreak Cafe/月夜のカーニバル/メロンのためいき/小夜子)も収録されることになりました。