聖子30周年、ユニバーサルは初の紙ジャケ復刻!
1996年、古巣のソニーからユニバーサル(当時はマーキュリー・ミュージックエンタテインメント)へと移籍。その後2002年にソニーへ戻り、昨年6月にはデビュー30周年を見据えてまたユニバーサルへと再移籍した松田聖子。
今回の移籍後、ライブのDVDのリリースはあったもののCD発売は延び延びになっていたようですが、満30周年に突入した4月以降は、矢島美容室とのコラボシングル「 アイドルみたいに歌わせて(DVD付) 」や久々のドラマタイアップがついた新曲「 いくつの夜明けを数えたら(初回限定盤)(DVD付) 」を含め、新作の発売も目白押し。
希代の歌姫、スーパーアイドルのアニバーサリーイヤーならでは、当然のように旧作の復刻を含む怒濤のリリースが決定しております。
ホントの記念日は4月1日ですが、今回、Happy 30th Anniversaryとして一挙リリース日に選ばれたのは5月26日。
ソニーからは海外版も含めた史上最強の73枚組コンプリートシングルBOX「 Seiko Matsuda Single Collection 30th Anniversary Box~The voice of a Queen~ 」(こちらで紹介)が既にアナウンスされておりますが、ユニバーサルからはニューアルバム「 タイトル未定(初回限定盤) 」(ユニバーサルらしく価格の違う初回盤は写真集ブックレット付きのスリーブケース仕様)とともに、旧マーキュリー時代のオリジナルアルバム10タイトルのSHM-CD&紙ジャケ復刻も初回生産限定盤として決定となりました。
最初のソニー後期から今日に至るまで、自身による楽曲制作を含むセルフプロデュースを進めてきた聖子にとって、海外再進出がきっかけになったマーキュリー時代はそれが結実した黄金期。個人的にはそう言い切ってしまうことに対して大きな違和感があるんですけど、少なくとも聖子ちゃん自身はそう確信しているような気がします。
事実、移籍第1弾シングル「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」は久々のNo.1に輝き、自己最高のミリオンヒットになるなど大成功を収めましたし。実績だけで判断してしまうと「自作による素晴らしい音楽を皆さんにお届けすること」がアーティスト聖子の使命だと思ってしまったのも無理からぬことかもしれません。
しかし、本当に聖子の才能を愛しているなら同情は禁物。まったくの私見偏見ですけど、この判断こそがボーカリスト聖子としての無限の才能と可能性を封じ込め、我々大衆から上質でプロフェッショナルなうたを聴く機会を奪ってしまったという思いを禁じ得ないんです。
むろんセルフ聖子が全然ダメだと言うワケではありませんし、好きなナンバーもチラホラあるのは確かです。でもですね、うたの神様が聖子を通して見せてくださった奇跡を一度でも経験している強突張りにとっては、それでは決して満足できないのですね。
どんな理由を並べ立ててようが、セルフ擁護派の“松田聖子ファン”にはナットクしていただけないことも十二分に存じておりますけれど、その思いは何年経とうが変わらなかったりして。
例えば移籍した96年、石になってしまいそうなメドゥーサヘアのジャケによるの「 Vanity Fair(紙ジャケット仕様) 」と、ロビー・ネヴィルがプロデュースし全米再デビューを飾ったA&M盤「 Was It The Future(紙ジャケット仕様) 」を聴き比べれば、その差は歴然としているように思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。
ワタシの耳や心には、言語や音楽の種類などに関係なく、ボーカリスト聖子に徹した後者は1の楽曲を1000にも10000にも変えるほどの輝きぶり。これぞ松田聖子にしかできないホンモノの錬金術に思えて仕方ないんです。このへん、聖子のうたが好きだという人で、まだ「Was It The Future」を未聴の方がいらっしゃいましたら、この機会にぜひお聴きくださいませ。
そうはいっても、聖輝婚にピリオドを打ちシングルマザーのママドル路線を強調した「 My Story(紙ジャケット仕様) 」や、ビビビ婚が自立マリアージュの先駆けスタイルであったことを痛感させるギターサウンドが魅惑的な「 Forever(紙ジャケット仕様) 」と、あざといまでに見事な自己演出力を見せつけられると、これが聖子の音楽なんだ、聖子はこれでいいんだと腑に落ちてしまいそうになるのも確かだったりして。
ところがですね、そうではない1作もちゃんと発表されております。それが、松本隆が復活し、楽曲のみならずプロデュースもセルフ撤回した99年の会心作「 永遠の少女(紙ジャケット仕様) 」。聖子信者の皆さんからはヒジョーに評価が低いみたいで残念なのですが…。
育ての親である元ソニーの若松さんのもとに身を置き、ホリプロ系のTOPで百恵ちゃん担当だった川瀬さんのディレクションのもと、リハビリに入ったボーカリスト聖子。気弱くなったゆえの心境の変化だったとはいえ、久しくなかった彼女を取り巻く環境が垣間見えて大いに期待してしまったものです。
最近、松本さんづいているオトナモードもカバー(提供作を含む松本作品集「 雨の色 風の色 」はとってもイイです!)したドラマ主題歌「哀しみのボート」は不朽の名作でしたし、セルフ作品ではどうあがいても再現できなかった心象や風景を絡ませたプロフェッショナルなスキルやストーリー性の高さは言わずもがな。
そして何より無意識下で楽曲に自然に同化してしまう聖子のボーカリストとしての才能がちっとも衰えていないことを確認できるアルバムだったのですね。
セルフで見せる自己陶酔型の単なる回顧とは異なり、松本さんならではの内省的で老成したテーマも多いし、聖子ちゃんの精神状態もマイナスモードだったようで、覇気のないボーカルと評されることもあります。
でも、それが陰影だとか含蓄という形に作用していて、マーキュリー時代では最高に味わい深いアルバムに仕上がっているのではないかと思うんですよね。一見空虚に見えるものこそがわびさびの極致、というとらえ方に似ているような…。
ただ、そこいらへんが本人がナットクできない部分だったのでしょうか。実際、急きょ発売が延期になりましたし、聖子ちゃん自身、気の迷いで不本意なアルバムを世に出してしまったと後悔してたみたいですしね。 しかし、個人的にはその事実こそが、普段の聖子が鉄壁の砦を築いて籠城していることの証明であり、このアルバムが素の聖子がのぞく希有な作品であることの証拠だと思っております。
とはいえ、なんだかんだ言ったとてワタクシもファンでありますから、そこまで本人が頑なに思っているのなら、やっぱり全部を受け入れて応援しようかという思いになるコトもあるのですが(ライブに行った時など)、やっぱりファンだからこそ首を縦に振ることができなかったりして。
今回も移籍にまつわるウワサや、消息筋のまことしやかな談話にも期待しちゃう事柄がありましたけど、2作に1作、いや3作に1作ぐらいでも結構ですので、ボーカリストに徹したお姿を見せてほしいなと切望しています(それでもユニバーサルお得意のカバーシリーズは最後の最後の手段にしてほしい…)。
往時の声が失せていたって、その分また別の表現力が身に付いていると思いますし、ベタつく歌唱になってしまっていても、セルフものとは180度異なる世界は、今を生きる聖子世代の人々にとって真に必要なうたになる気さえしておりますんで。
そういう声がたくさん上がって、きちんと本人の耳まで届いたら、ファン思いの聖子さんのこと、きっと心変わりをしてくれるのではないかと信じているワタシであります。
たとえ国内制作セクションでは無理だったとしても、今回の移籍で期待できる海外盤の新作に一縷の望みをつないで、ボーカリスト聖子の再来を待つことにしたいと思います。
なお、ほかにも小倉良に加え、大ファンだったという原田真二をブレーンに組み込んだ20周年記念アルバム「 20th Party(紙ジャケット仕様) 」(小倉さん作の先行シングル「Unseasonable Shore」は名曲ですね)や、原田さんと蜜月を迎えてシリーズ展開した「 LOVE&EMOTION Vol.1(紙ジャケット仕様) 」「 LOVE&EMOTION Vol.2(紙ジャケット仕様) 」もありますし、今回はミニアルバムというかクリスマスグッズだったBOXタイプの「 Guardian Angel(紙ジャケット仕様) 」(今ではすっかりウィルミナ・スレーターのイメージが強いヴァネッサ・ウィリアムスのカバーも歌っています)や、シブイ「Gone with the rain」や「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」の英語バージョンも入ったデジパック仕様の「 Sweetest Time(紙ジャケット仕様) 」も、今回紙ジャケ化されるとのこと。
果たしてシングルやベスト盤のみに収録されたナンバーが入るかも気になるところだし、SHM-CDのいい音で聴くと思わぬ再発見もありそうですが、注目すべきは今回が聖子史上初の紙ジャケットアルバム復刻だということ。
オリジナルがアナログでもなく紙ジャケでもないCDの紙ジャケ復刻に異論を唱える御仁もいらっしゃるでしょうが、熱心なファンの皆さんはこれを機にソニー時代のアルバムも紙ジャケで欲しくなってしまうんじゃないでしょうか。
そうなりゃ、発売中止になった幻のセイコプレミアム、あのシャンパンゴールドのボックスが日の目を見る日がやってくるかも。と、毎度毎度、しつこいオチですみません…。
(2010.4.6)