日本語で歌う洋楽ヒット!80年代の舶来カバーズ!
ヘンテコリンも多いけど、それも楽しくいとおしい。昔から舶来カバー歌謡すなわち洋楽カバーを、聴くほどに味わい深いものとして偏愛しているワタシ。それにはいろんな要因がありますが、やはり幼少時、大好きだった70年代アイドルたちのLPで親しんだことがイチバン大きかったと思います。
70年代前半までは、演歌、歌謡曲、アイドルポップス、フォークなどに混じって、洋楽、それもアメリカだけでなく、ヨーロッパの音楽も当たり前にヒットチャートに入り、しのぎを削っていました。
今振り返っても本当に贅沢な時代だったのではないかと思いますし、物心ついたのがその時代だったことは本当に幸運だったと実感しますが、その様相はアイドルのLPにもしっかり映し出されていたものです。よく言えばバラエティーあふれるヒット曲集、悪く言えば曲数揃えのための寄せ集め、いずれにしてもカバー曲が中心という構成が主流だったのですから。
原語で歌うシンシアやアグネスで洗礼を受けたワタシにとって、70年代によく聴いた洋楽カバーといえば、日本語で驚異のグルーヴ感を出したフィンガー5のジャクソン5などが挙げられますが、究極の存在はそのベクトルに続くピンク・レディーでした。
彼女たちはライブ盤では、オールデイズから最新ディスコヒットまで、PLはとにかくさまざまな洋楽をカバー。
シングルとしては79年にヒデキの成功を追う形でヴィレッジ・ピープルの「IN THE NAVY」を「ピンク・タイフーン」として臨発しヒットさせましたし、アメリカ進出を果たした後はビルボードにチャートインした自らの英語オリジナル「Kiss In The Dark」を日本語でセルフカバーしたり、「Strangers When We Kiss」を「うたかた」としてシングル化したりという、なんだか舶来カバー好きには最高到達点みたいな偉業を達成してくれちゃったりして。
アイドルポップスと洋楽の垣根をぐーんと低くして、日本の中高生の間で人気を誇った洋楽ガールグループやキャンディポップスを受け入れる土壌を作った存在であることは、誰も言いませんけどPLではないかと思っています。
そういうPLチルドレンは多いと思いますし、ピンクの振り付けを幼少期や小学生時代で覚えて踊りの楽しさを実感した人は、きっと中高生時代にディスコデビューを果たしていそう。そして、ディスコチューンやダンスナンバーをきっと愛しているんじゃないかと思います。
さて、前振りが長くなりましたが、なんで長々と書いたかというと、そんな世代に大受けするんじゃないかと思えるコンピ盤が出るからなのです。80年代の洋楽ヒット(一部70年代、90年代アリ)の日本語カバーを37曲も集めたという2枚組「 J-COVER 80’s ダンス&バラード 」。
なんとなくオサレなタイトルではありますが、開けてビックリ、名カバーだけなく迷カバーも揃い踏み。といっても、決してふざけてるワケではなくマジメなカバーばかりでございます。
気になるDISC1は当時のディスコでもおなじみ、ヒットチューン中心の選曲。フィーバー世代よりも下、竹の子に憧れるサテンチャイナの姐さんから、ヤンキーの兄ちゃんすらもバブリーなDCブランドでキメて繰り出した頃まで、80年代を象徴する洋楽ヒットの日本語でカバーがずらりと並びます。
オープニングは、79年前半のメガヒットなんで厳密に80年代ではないんですが、おなじみヒデキのヴィレッジ・ピープル「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」を筆頭に、出るわ出るわ、80年代ディスコ流行史。
サーファーディスコにローラーディスコが大流行した時代から、マハラジャに代表される黒服、VIPな高級ディスコ、ハテはウォーターフロントのトレンディーなお立ち台ディスコまで、その変遷も体感できそう。
それを象徴するかのように、このコンピの冒頭はヒデキと、ダンスに夢中なアメリカン・ヤングアイドルNo.1だったレイフ・ギャレットをカバーし「哀愁でいと(NEW YORK CITY NIGHTS)」でデビューを飾った田原のトシちゃん。新御三家とたのきんというトップアイドルの交代劇からスタートします。
そういえば、ヤングマンの日本語詩を書いたあまがいりゅうじさんは、「明星」読者にはおなじみ、ヒデキのマネージャーでハウスのポテチCMでは“イモだち”として出演した方ですが、この成功を受けて、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ(AI NO CORRIDA)」のカバー(ビッグ・バン)も担当されてますね。
あと、レイフ・ギャレットは、もう1曲ジャニーズの先輩、川崎麻世「レッツ ゴー ダンシング」も収録されていますし、80年ではキャンディポップスの代表格、ノーランズの石野真子「恋のハッピー・デート(Gotta Pull Myself Together)」、初ベストも待ち遠しい鹿取洋子「ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ」(ディーゼル)も入ってます。
で、時代は下がって主流は80年代後半。カバーも大ヒットした有名どころでは荻野目ちゃんのブレイクヒット「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」(オリジナルはアンジー・ゴールド「素敵なハイエナジー・ボーイ」)、男女7人シリーズの石井明美「CHA-CHA-CHA」(フィンツィ・コンティーニ)、森川由加里「SHOW ME」(カバー・ガールズ)という時代です。
ユーロビートといえば、やっぱり女王のカイリー・ミノーグに尽きますが、もちろんカバーでも人気。「LUCKY LOVE」(カバーは和田加奈子)なんか、体がひとりでに踊り出すという人が多いはずだし、WINKの出世作となった「愛が止まらない-Turn It Into Love-」は楽曲の良さがピカイチでしたよね。
また、その双璧に立つのがマイケル・フォーチュナティで、「Give Me Up」(BaBe)、「イントゥ・ザ・ナイト」(成田勝)など、めちゃくちゃ久しぶりに聴いても体に染みついてしまってるナンバーではないでしょうか。ポール・レカキス「BOOM BOOM BOOM」(勇直子)なんかもそうですよね。
ほかに、ローマン・ホリディ「涙のラスト・クルーズ」を歌うミスターCBS・ソニーの竹本孝之や、キム・ワイルドのリメイクヒット「KEEP ME HANGIN’ ON ~誘惑を抱きしめて~」をか弱く歌う松本典子&マイアミ・サウンド・マシーン「ホット・サマー・ナイト」を蓮っ葉に歌う網浜直子のバロー・ギャングなミス・セブンティーン2人にも注目です。
一方、DISC 2には、映画やドラマ、CMなどで使用されたナンバーを中心に、ぐっとメロディアスなバラードもたっぷり。
ガゼボのメロディーとユーミンの日本語詩が秀逸、オリコンNo.1の小林麻美「雨音はショパンの調べ」でスタートです。
ヘアスタイルとともに大人のひろみをイメージづけたバーティ・ヒギンズをカバーして大ヒットさせた「哀愁のカサブランカ」と、「愛と青春の旅だち」の2大バラードも素敵です。
ひろみも別歌詞で歌ったワム!は、ヒデキバージョン「抱きしめてジルバ-Careless Whisper-」で収録。ゴローがないのが残念ですが該当作がないので当然です。
また、ミュージカル映画というか音楽重視のロック映画がもてはやされ、主題歌や挿入歌がたくさん入ったサントラが大ヒットを記録したのも80年代の特徴だと思いますが、その中で突出した存在がアイリーン・キャラでした。
80年の出世作「フェーム」を解散前のピンク・レディーが「リメンバー(フェーム)」として、また、83年に世界中で大ヒットした「フラッシュ・ダンス」は麻倉未稀が「What a feeling(ホワット・ア・フィーリング)~フラッシュダンス~」としてカバー。特に麻倉さんのバージョンは大映ドラマの迷作「スチュワーデス物語」のテーマになりヒットし、その後洋楽カバーがドラマテーマ曲になるブームを作ったように思います。
1つの映画から何曲も大ヒットしたものもありましたが、その代表が「フットルース」。ここでは、まずムーヴィング・ピクチャーズの「NEVER」。ドラマ「不良少女とよばれて」の主題歌として、MIEのソロ初ヒットに。また、ケニー・ロギンスの「 I'm Free」は、ミス・セブンティーコンテストで圧倒的な歌唱力を見せつけた大型新人・渡辺美里のデビュー曲となりました。
ほかに「ストリート・オブ・ファイア」のダイアン・レーンの口パクには無理がありましたけど、椎名恵のカバー「今夜はANGEL」は秀逸。杉浦幸の二重人格メイクがトラウマになりそうだった「ヤヌスの鏡」テーマ曲でした。
トム・クルーズが本格的人気を集めた「トップガン」は、ベルリンのメインテーマを石井明美が歌う「死んでもいい TAKE MY BREATH AWAY」。「アメリカ物語」からは、リンダ・ロンシュタットの名曲「こころの炎–Somewhere out there- 」を小林明子が歌います。
なお、麻倉未稀の成功に続いたドラマ主題歌では84年の「青い瞳の聖ライフ」の谷山浩子「DESERT MOON」(デニス・デ・ヤング)、“姉さん、事件です!”の流行語を生んだ「HOTEL」シリーズからは92年の島田歌穂「FRIENDS〜THE LIVING YEARS」(マイク&ザ・メカニックス)がチョイスされています。
あと、きっと皆さん興味津々のアイドル系も充実していまして、マドンナを歌ってしまったサリナバチタ「トゥルー・ブルー」やエイス・ワンダーに挑戦した国生さゆり「こわれた太陽」など、トンデモ系もまた楽し。
そういえば、石川秀美「LOVE COMES QUICKLY~霧の都の異邦人~」は、当時ペット・ショップ・ボーイズが書き下ろしたという触れ込みでしたねえ…。
このグループに属しますが、このコンピイチバンの超レア音源で目玉といえるのが、坂上忍の「 I Was Born To Love You」。今となってはしーくんの歌というだけでレアだし、しかもフレディ・マーキュリーのおなじみの名曲ですからね。
振り返ると、戦後すぐから1960年代までは、日本の流行歌はカバーポップスいえるほど、豊かな大国への憧れを映していました。
続く70年代は、欧米コンプレックスをバネに、洋楽に追いつき追い越せとばかり日本独自の解釈による和製ポップスが確立されていったように思います。そして80年代は、日本経済が世界のミュージックシーンを所有していったように、洋楽も邦楽も遜色ないところまで成熟していった…そんなふうに検証することも可能ではないでしょうか。
そしてその事実は、大まかでもこのコンピできっと実感できそうに思います。もちろんそんな聴き方をする必要はないのですけど、白盤を聴いてたらどんどん70年代の洋楽カバー集が聴きたくなってきた。続編も大いに期待したいものですね。
(2011.4.1)