完売紙ジャケが5年の時を経て、Blu-spec CDで再発!
皆様、覚えておいででございましょうか。関連モノを含め、純ちゃんのアルファ時代のレコードが一挙に紙ジャケ復刻された日のことを。
そう、あれは忘れもしない2006年2月のことでございました。当然の如くほとんどが即完売し、その後は中古市場であっと驚くプレミア価格で取引される状態が続いておったのでございます。
2008年にはゲルニカの「改造への躍動」とソロ1stの「玉姫様」の2枚がアンコールプレスされ、約25年におよぶキャリアをまとめた究極のベストアルバム「 TOGAWA LEGEND SELF SELECT BEST&RARE 1979-2008 」も延期の末に発売となるなど、渇望する皆様もちょっとは溜飲を下げたのではないかしらんなどと存じておりましたけど、紙ジャケをうっかり買い逃してしまった御仁たちの購買意欲をかえって刺激してしまったようで、再発を求める声は高かったようなのでございます。
純ちゃんのアルバムは発禁本のような扱いもふさわしいと密かに思っていたワタクシではございますが、このままでは家畜海峡の藻屑となりそうな皆様も少なくないのではと心配しておりました。しかし、しかし、乳飲み子も泣き叫ぶようなこの飢餓状態を救ってくださるかのように、うゐのおくやまけふこえて、有り難き便りが届けられました。
なんと、純ちゃんの関連アルバム7タイトルが、5年の時を経て高品質のBlu-spec CD、紙ジャケット完全生産限定盤として復活を遂げるのでございます! あゝこれぞ奇跡でありましょう。
思わず「ありがとうございます、ありがとうございます、私は…嬉しいです」と口走ったり、涙ながらに孵化してしまったり、あるいは隣の印度人のマハラジャーにガネーシャの絵を差し上げてしまったり、中には頬に涙を浮かべ勅使河原美加様に御礼を述べる方々もいらっしゃいそうな気がいたします。
何よりの慶事でございますし、ワタクシの10代後半は純ちゃんとともに…みたいな感じでございましたから、かつて「倒錯乙女の魑魅魍魎、いま懐古する怒濤の恋愛」と題してしたためたものをコピペしつつ、ご紹介して参りましょう。
純ちゃんとワタクシの出会いは、82年、中3の時でございました。
友人から借りた1枚のLPレコード。それがゲルニカの「 改造への躍動 」だったのです。メンバーの戸川純は、ビートたけしのドラマ「刑事ヨロシク」に出てたことから興味を持ち、聴くに至ったという不純な動機でございました。
そしたらば、ゲルニカの音楽は大陸的な懐古趣味なんだけどもとても前衛的。躁鬱気質の中に上品な狂気と不協和音が充満していて、15歳のワタクシは「工場見學」や「動力の姫」などの歌とギリギリ廻る歯車の音に吐き気を催し卒倒しそうになりました。
それでも恐いもの見たさで何度か聴くうち「夢の山嶽地帯」のワインを詰めた水筒に憧れたり、♪ワンダアフオゲル ヨヲレリホヲなどと歌うほど魅了いや洗脳されてしまったのでありました。CD化に際しシングルの「銀輪は唄う」「マロニエ読本」が追加収録となっており、復刻もそうなっております。
そんな衝撃の出会いから1年、純ちゃんはいよいよソロデビューとなるのです。それが84年の不朽の名作「 玉姫様 」。ホソノさんのご寵愛は頂点に達し、TOTOの“おしりだって、洗ってほしい”のCMも評判を呼び、時代の寵児と騒がれた純ちゃん。
テクノ、ニューウェイブ、パンクが渾然一体となって、そこは魑魅魍魎の夢の世界。樹液すする蛹化の女が怒濤の座敷牢で悶絶するうち、一塊の肉塊になるような感動作だと、隣りの印度人や森の人々も絶賛、みたいな仕上がり…などという意味不明な比喩が適当だと思います。ハルメンズや、当時は太田裕美さんのバックもしていた岡野ハジメ氏らPINKのメンバーも参加なさっています。
アンデス民謡「諦念プシガンガ」も打ち震えるほど素晴らしいけれど、やっぱパッヘルベルのカノンの「蛹化の女」がイチバンかな。実は下校の音楽がコレだったんで、よく純ちゃんの詞をのせて歌っておりました。
そして84年当時、カセットテープのみで発売されたのが、ヤプーズと繰り広げるライブ盤「 裏玉姫 」。
ワタクシは故郷で行われたこの玉姫様ツアー初日に出かけ、その夜は眠れなくなるほどえらくコーフンしましたけど、その感動がよみがえってきます。だってランドセル背負って横断旗を持った小学生女児、一心不乱な巫女、蜻蛉の羽根を付けた女などが次々と憑依した光景を目の当たりにしたのですから。
ともあれ前述の「ありがとうございます」を繰り返すMCや、「電車でGO!」のカワイイこと。ラストの「パンク蛹化の女」も大好きでした。スタジオ録音とは比べものにならない純ちゃんのイッちゃってる加減が素敵でございます。
もう1枚、これまた大好きなアルバムが84年、飯尾芳史、吉川洋一郎との戸川純ユニットによる「 極東慰安唱歌 」。
最初のCD化の際に「家畜海峡」「人間合格」が追加収録されちゃって、フルアルバムみたくなりましたが、ホントはミニアルバムだったんですよね。
エーンエーンエーンと目の玉から涙がこぼれ落つるやふな「眼球綺譚」、沖縄民謡風の「海ヤカラ」、ゴビへの思慕を歌った「無題」をはじめ、純ちゃんの母校の運動会応援歌などなど、ぐんとソフトになっていて聴きどころ満載です。
ワタクシめはこのアルバムの告知ポスターが印象に残ってまして、アルバムを聴くたび、英字新聞柄のワンピースを着た泣きそうな純ちゃんを思い出します。
と、まあ、ゲルニカ以降のソロ3枚をご紹介いたしましたが、この後のソロ名義による85年の「 好き好き大好き 」もイイ。
京子ちゃん作詩のアイドルチックなシングル曲「遅咲きガール」や、“愛してるって言わなきゃ殺す!”と叫ぶタイトル作「好き好き大好き」、幽霊になって帰って来ないでほしいフレンチカバー「さよならをおしえて」のアルバムバージョンなどなど、聴きどころ満載です。
87年発表のベスト「 東京の野蛮 」は、ニューミックスも多数。アルバム未収録のシングル「レーダーマン」とうたノートにも綴った「母子受精」も入っております。
また関連作として、84年にCM企画から誕生したホソノさんプロデュースのユニット・アポジー&ペリジー「 超時空コロダスタン旅行記 」も復活。
アポジー&ペリジーはユーミンの「不思議な体験」が流れたニッカCMのキャラクターロボットですが、純ちゃんと三宅裕司とのコンビをはじめ、越美晴、テストパターンらYENオール・スターズによる企画アルバムでした。シングルカットされた「月世界旅行/真空キッス」と「ペリジーのテーマ」では純ちゃん戸川さんのボーカルが聴けます。
前回はゲルニカの相方・上野耕路さんの「Music For Silent Movies」や、今はなき妹・京子ちゃんのソロ「B.G.~NEO WORKING SONG~+」も復刻されましたが、今回は見送りです。
なお、我ながらしつこいのですが、ワタクシはつくば博のダイエー館パビリオン・テーマ曲だったシングル「ポエジー」がいつの日か再びCDで聴けますよう切に願っております。20世紀の花が散ってしまった今も、本当に待ち続けているのでございます。
ついでに、太田裕美さんと共演した森田芳光監督による映画のないサウンド・トラック「だって」も。
(2011.3.4)