祝125周年！貴重音源満載の伊勢丹70〜80年代コンピ！
97年に京都駅に大きい伊勢丹（直営ではなくジェイアール京都伊勢丹）ができて以来、関西圏でもなじみのある百貨店となり、今年の５月には大阪・梅田に初の伊勢丹（といってもJR三越伊勢丹ですけど）が登場しますが、伊勢丹のない地方で育ったワタシにとって、子どもの頃は我が家にやってくるお中元やお歳暮でしか知らない包装紙のデパートであり、その中身であった佃煮のイメージが強かったりして。
むろん現在は、新宿に出かけた際はメンズ館をよくのぞきますし、超充実の地下で進物を買ったりすることも多々ありますが、太田裕美が84年に伊勢丹夏のキャンペーンソングを歌うまで、好みのデパートという感じはありませんでした。
それからしばらくして、とても大好きな百貨店になるのですが、それはコピーとか商業的な文案広告について学んでいた時、お手本というかバイブルのようにしていたキャンペーン広告がきっかけでした。そう、コピーライターの神様的存在だった土屋耕一さんがお書きなった名コピーの数々に、大きな感銘を受けたからなのです。
土屋さんをご存じない人でも「君のひとみは10000ボルト」「A面で恋をして」など、資生堂のCMからうたになってヒットした元のコピーなんかもたくさんお作りになっていますので、よく知っているフレーズがきっとたくさんあると思います。
さて、当時はライトパブリシテイにいらした土屋さんが手がけた伊勢丹のコピーといって真っ先に挙げられるのは「こんにちは土曜日くん。」。時は1972年。土曜日が働く日から休む日になろうとしていた時代、週休二日の世の中がいよいよやってくると言ったキャンペーンです。
ここから始まって、「も・め・ん・と・木。」「土曜日には汗をながそう。」「なぜ年齢を聞くの。」「ああ、スポーツの空気だ。」「あ、風がかわったみたい」「テレビを消した一週間。」「甘えずに生きていきたい」「どのくらい異性なのだろう。」「鳥になる人、草になる人、」「肩のチカラを抜くと、夏」「女の記録は、やがて、男を抜くかもしれない。」などなど。順不同でキャッチのみを挙げましたが、何より胸を打ち、ハッとさせられたのはボディーコピーの素晴らしさでした。
高度成長から一億総中流へと繁栄していった時代。あの頃の伊勢丹のウインドーが見せたのは、手の届かない夢ではなく、生活者に寄り添うように半歩先を行き、憧れを現実に変える意識提案の数々。
特に土屋さんのお書きになった新しいライフスタイルに対する概念は、爽やかな風が吹き抜けるように自然で、もったいぶってなくって、さりげないのに説得力があって、マーケティングとかアナライズとかが見え隠れするイヤらしさなんかは微塵も感じさせないコピーでした。
平易でわかりやすく的確で端的なのに、心のキャンバスの存在を実感させるほど情緒的。同じ時代を生きる人々がみな心から共感でき、すがすがしく前向きな気持ちにさせる美しいメッセージでした。
そんなキャンペーンを音声で表現したうたの数々がよみがえるのですから、コーフンせずにはいられません。
伊勢丹125周年のアニバーサリーイヤーを華々しく飾る、初CD化ナンバーテンコ盛りのコンピレーション「 ISETANキャンペーンソングコレクション
」！前述の72年“こんにちは土曜日くん。”の成田賢「こんにちは土曜日くん」から、山本潤子「友だちみつけよう」、やまがたすみこ・喜多嶋修「も・め・ん・と・木」、ハイ・ファイ・セット「甘えずに生きていきたい」、酒井俊「この夏、思い切ってぶつかってみるか」、桑名正博「ああ、スポーツの空気だ」、大滝裕子「真あたらしいか、君の夏。」、当山ひとみ「鳥になる人、草になる人、」、泰葉「セクシー28℃」、庄野真代「肩のチカラを抜くと、夏」、谷山浩子「息を深く吸う森」、りりィ「どのくらい異性なのだろう」、1986年の創業100周年“空想実現百貨店。”キャンペーンのスターダスト・レビュー「素敵に空想実現」まで、錚々たるアーティストたちの初CD化どころか初商品化（非売品ソノシートとかはあったようです）となる音源がテンコ盛り。
伊勢丹のＣＭソングの一部は、濱田高志さん監修のTV AGEシリーズでちょこちょこCD化されてきていましたが、店内で流れていたナンバーを中心にココまで揃うのはもちろん初めてのことだと思います。
収録予定の中で商品化＆CD化済みだったのは78年の「戻っておいで・私の時間」のオリジナル、81年の須藤薫「花いちめん夢いっぱい」、84年の太田裕美の「夏へ抜ける道」ぐらいだったので、その貴重さに驚くほどですよネ。山本潤子＆ハイ・ファイ・セットとか、谷山浩子（近年のセルフカバーライブ盤「タマで弾き語り」で披露）とか、根強いファンがいらっしゃるので、かなり売れそうな気もしますネ。
ともあれ、このCDは70年代から80年代にかけての、日本の生活意識の変遷を辿るものといえそう。不況下で厳しい状態が続き合併や業務提携が進む百貨店業界ですが、デパートを愛する者の心情としては、いつまでも夢を見せてくれる存在であってほしいなと思います。
このCDを聴きながら、今日より明日、明日より明後日というように、向上心を持つことが素晴らしいとされていた時代へと思いを馳せ、伊勢丹をはじめ百貨店の本来の良さと必要性をちゃんと知って、支えていける生活者になれたらな、なんて思っています。
余談になりますが、ヒイキ目なしで伊勢丹のCMソングで印象に残っているモノといえば、87年のEPO「夢見ちゃいなタウン」あたりを思い出しますが、外せないのがユーミンが荒井時代に手がけた'76伊勢丹ファッションテーマ・ソング「You are my Sunshine」。
のちに「避暑地の出来事」としてレコード化（「 14番目の月
」に収録）された曲のサビだけで構成されたものです。３コーラスあって、「避暑地の出来事」とは１番、２番が入れ替わり、幻の３番（太陽みたいに燃えるその手で／私をつつんで幸せにして／かがやく色にそまってみたい／そうよきっとそうよきっとYou are my Sunshine；作詞・荒井由実「You are my Sunshine」より）もあるのですが、コレが日の目を見ることになる日が待ち遠しい限りです。
あと、伊勢丹とミュージシャンといえば、昔から伊勢丹新宿店好きとして知られる矢野顕子もいますね。糸井さんの「おいしい生活。」が鮮烈だっただけに西武のイメージが強いアッコちゃんですが、CMソングでもキャンペーンソングでもない「ISETAN-TAN」（「 GO GIRL
」に収録）という歌まで作っているほどですので、伊勢丹フリークの皆さんはチェックしてみてください。（2011.2.4）
＊収録予定曲は、こんにちは土曜日くん（成田賢）／土曜日には汗を流そう（小坂忠）／友だちみつけよう（山本潤子）／もめんと木 （やまがた すみこ・喜多嶋 修）／いっしょに暮らさないか（加橋かつみ）／なぜ年齢をきくの （吉田美奈子）／YOU ARE MY SUNSHINE（荒井由実）／甘えずに生きていきたい（ハイ・ファイ・セット）／（この夏。思い切って。）ぶつかってみるか（酒井俊）／戻っておいで私の時間（竹内まりや）／ああ、スポーツの空気だ（桑名正博）／LIVING IN THE CITY （JUDY ANTON）／EVERYTHING NEW（松原みき）／真あたらしいか、君の夏。（大滝裕子）／花いちめん春いっぱい （須藤薫）／鳥になる人、草になる人（当山ひとみ）／アップル畑であいましょう（須藤薫）／セクシー28℃（泰葉）／肩のチカラをぬくと、夏（庄野真代）／息を深く吸う森（谷山浩子）／夏へ抜ける道（太田裕美）／どのくらい異性なのだろう（りりィ）／On The Road～そこにいてくれ （山本達彦）／素敵に空想実現（スターダスト・レビュー）となっています。
