真の美少女、初期は風街おとめちっく詩集!
昨夏、70~80年代女性アイドルファンの話題を独占したメーカー5社合同企画「ゴールデン☆アイドル」シリーズ(こちらなどで紹介)。
ドーナツ盤サイズでシングルジャケット復刻ブックが付くというグッズ的な豪華仕様が最大の魅力で、永久保存版として手にしたファンからは大好評を博しました。
ただ、その後は3社による中3トリオの一挙リリース(こちらなどで紹介)があったものの、キャンディーズ(こちらで紹介)に加え、国生さゆり(こちらで紹介)や南野陽子(こちらで紹介)のスペシャルな仕様を連発するソニー以外は、ちっとも後が続かない感じで、一部からは存続を危ぶむ声も聞かれていたのも事実です。
しかしですね、ここに来てポニーキャニオンがやってくれました!
そう、70年代のキャニオンを代表する美少女アイドル、木之内みどり「 ゴールデン☆アイドル 木之内みどり(UHQCD) 」と岡田奈々「 ゴールデン☆アイドル 岡田奈々(UHQCD) 」の2タイトルが発売されるのです!
ポニキャン編としては、まずシリーズを牽引するがごとく、各社第1弾のダイジェスト盤「 ゴールデン☆アイドル アナログタロウ・セレクション 」(発売中止となったピンク・レディーも収録)が先駆けてリリースされたのが印象的でしたが、本編ラインアップでも斉藤由貴、岡田有希子、堀ちえみ、岩崎良美に石川ひとみという80年代および80年代に開花した5人のアイドルを発売(こちらで紹介)。シリーズ最多となる5タイトル一挙リリースとなったのでした。
しかし、前述の中3トリオの森昌子(こちらで紹介)以外出る気配がなく、なんとなくフェイドアウトしちゃった感もあったりして…。そこにこのニュースですから、期待も大きくなるというワケなのです。
今回はキャニオンのアイドル専門レーベルと言っても過言ではないNAVレコード所属の2人ですからね。ビッグネームではあるけれど、トップ10ヒットのないアイドルがラインアップされるのは、これが初めて!
であるからして、これが数字的に成功すればきっと後が続く可能性も出て来るはずですので、ポニキャンの他のアイドルのリリースを望む方も、ぜひ予約していただければと思います。
さて、2人の場合、シングルAB面の音源はとっくに復刻されていますけど、2004年の「ぼくらのベスト アナログ・アルバム完全復刻 package」シリーズや、2007年の「SINGLESコンプリート」を持っている人でも、今回はシングルジャケット復刻ブック目当てに買ってもハズレなし。音質的にもHQCDからさらに進化したUHQCDとなっていますしね。
で、今回プッシュしたいのは、やっぱり奈々ちゃんの「 ゴールデン☆アイドル 岡田奈々(UHQCD) 」。最近はAKBに同姓同名のコがいたりして影が薄くなっているようですが、奈々ちゃんほど誰もが目を見張り、息を飲むお人形さんのような美少女はいませんでしたからね。
ホント、子どもの頃、グリコのCMで初めて彼女を見た時、こんな美少女がいるのかと驚きましたから。それはデビューからわずか1年ほどの間にライオン、月星化成、日立、フジカラー、ブラザーなど数々のCMに引っ張りだこだったことでも分かるでしょう。
さて、テレビ朝日の「決定版 あなたをスターに!」での優勝をきっかけに芸能界入りした奈々ちゃんですが、女優デビューが先で、歌手デビューは75年5月のこと。デビューシングル「ひとりごと/ひとりぼっちの幸福」から80年の「静舞-Quiet Danceー/不意打ち」まで、キャニオンからは15枚のシングルが出ています。
特筆すべきは、デビューから76年までのシングル7枚「ひとりごと/ひとりぼっちの幸福」「女学生/放課後」「くちづけ/青いめまい」「青春の坂道/恋はかくれんぼ」「若い季節/雨のテレフォン」「手編みのプレゼント/地図のない旅」「かざらない青春/プリーズ・プリーズ」。
そう、すべてが松本隆作品なのです。
ヒットや作曲の面から、どうしてもデビュー同期の太田裕美ばかりクローズアップされますが、松本さんがアルバムも含めデビューからトータルプロデュースしたという点では岡田奈々も同様。
「奈々のひとりごと」「憧憬」「握手しようよ」の3枚のアルバムもすべて松本作品ですし、むしろピュアな風街少女という観点からは、20才の太田さんより16才の奈々ちゃんの方がふさわしいと思える作品も多かったりします。そういう意味では、先月の「風街レジェンド2015」にぜひ登場させていただきたかった…と思いますね。
話はそれますが、奈々ちゃんの初期の松本作品は古めかしいというか、竹久夢二が描いた少女のような雰囲気も漂いますが、それは奈々ちゃんがデビューした75年が戦後30年で、エンタメ業界にも戦前回帰のようなムーブメントがあったことと無縁ではないような気がします。
人気ドラマ「時間ですよ」が舞台を昭和元年に移し、挿入歌の「昭和枯れすすき」や、レギュラー出演していたムッシュの「我が良き友よ」が大ヒットしていた頃。
松本さんも同ドラマで浅田美代子が歌った劇中歌「少女恋唄」を書いていますが、初期の奈々ちゃんのノスタルジックなイメージはその流れの延長線上にあるというか、昭和初期の女学生の感じがするんですよね、当時のナウな女の子ではなくって。
同じリルケの詩集を愛読していたとしても、太田さんがマキシ丈のドレスを着た夢見がちのヨーロッパの令嬢なら、奈々ちゃんはセーラー服でおさげ髪をした昭和の少女…。
というように、初期のレトロで純情可憐な乙女チック路線は奈々ちゃんのビジュアルにぴったりでしたが、惜しむらくは声質が今ひとつだったこと。そういう意味では、明星募集歌にして最大ヒットとなった「青春の坂道」以降の現代もの、出演ドラマ「俺たちの旅」に代表される青春ドラマの妹的存在といいますか、おきゃんで親しみやすい下宿屋の娘さんのイメージが合っていたように思います。
思い詰めたような乙女心が切ない「手編みのプレゼント」や、当時の松本さんお得意の“ぶきっちょ”を使って青春総括した「かざらない青春」もいいですが、ドラマの情景をそっくり映したような「若い季節」がベストではないでしょうか。
少女漫画のニュアンスも感じられる佳曲だと思いますが、それにしてもこのタイトルって、森山良子の「バス通り裏」とともに松本さんのNHKドラマへのオマージュなんですよね。
結局、77年は奈々の年ということで心機一転、アルバム「'77新しい日記帖」を最後に松本さんの手を離れていきますが、まるで作風の変化とリンクするようにあの事件が起こったりして、いまだにフクザツな気分になったりします。
なお、松本さんが手がけた奈々ちゃんのアルバムで今CDで聴けるのは「 Myこれ!チョイス 31 憧憬(あこがれ)+シングルコレクション 」だけとなっていますが、「風街レジェンド2015」で夢うつつの状態が続く風街詩民で未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会に。
ちなみに86年には、出演ドラマの挿入歌として「イッツ・フォー・ユー/長い夜」が出ていますが、コレはアイドルを卒業してからのナンバーでコンセプトに合いませんし、今はなきTDKレコードからのリリースですから、今回も見送り…と思っていたらさすがはポニキャン。
「ポニーキャニオン以降の他社シングルも可能な限り収録予定」とのことですから、今度は大いに期待できそうです。*
なお、一方の木之内みどりさんは、当時からファンの年齢層が高いイメージがありましたが、水原勇気や刑事犬カールのおかげで我々世代にもおなじみのアイドル。
あまりそのイメージはありませんが、風街少女でありまして、「学生通り/いじっぱりな私」から「グッドフィーリング/氷イチゴの頃」「東京メルヘン/ゆめまくら」「ジュ・テーム/ヨーヨー」「イマージュ」に次作につながるブレイクのきっかけを作ったドラマ主題歌「走れ風のように/愛に肩寄せて」まで、76年の77年にかけてのシングル6枚はすべて松本隆作品。
しかも、財津和夫や吉田拓郎とのコンビなど重要なポイントもありますので、詩民の皆さんは併せて要チェックですぞ!
(2015.9.14)
*残念ながらTDK音源は契約関係の都合で収録できなくなったそうです。