オススメ復刻盤「ルー・フィン・チャウ/スター誕生 +2 コンプリート・コレクション」


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 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#798

ルー・フィン・チャウ/スター誕生 +2 コンプリート・コレクション

(2016.6.22発売、CDSOL-1729、¥2,500+税)

ベトナム難民のスタ誕アイドル、まさかの復刻!

我々世代では、アグネス・チャンが80年に発表した自作シングル「ぼくの海/CHILDREN OF THE SEA」によってボートピープルの存在を意識したという人が多いのではないでしょうか。

 アグネスが日本デビュー前の香港時代よろしく、このメッセージソングをフォークギターで弾き語りしながら、インドシナの難民救済を強く訴えかけた姿はとても鮮烈でした。ファンの一人であった12歳のワタシですらいたく共感を覚えたくらいですから、その効果は大いにあったのではないでしょうか。

 今となっては、この時こそが国際協力やボランティアも使命とする“文化人アグネス”の萌芽だったように思うとまた別の感慨を覚えたりもしますが、そういう流れがあったもので、2年後「スター誕生!」にベトナム難民の少女が出てきた時、アグネスの歌や話が重なって心を打たれたのは確かです。

 ルー・フィン・チャウ。彼女がボートピープルとして日本にわたってきたエピソードには思わず涙してしまいましたし、言葉も通じない日本に難民としてやって来たのにもかかわらず、我々と同じように百恵ちゃんにあこがれ、しかも「いい日 旅立ち」を日本語で立派に歌い上げる姿は、スモーキーな低音の響きも相まって、誰が見ても感動を誘うものだったと思います。

 当然、決戦大会でもスカウトの札がたくさん上がり、グランドチャンピオンに決定。デビュー曲は「いい日 旅立ち」の作者でありアジアでも人気者となっていた谷村新司が手がけ、レコード会社も同じポリスターのカサブランカレーベル。まさに鳴り物入りという感じで、その年のクリスマスイブにデビューを飾ることになったワケです。

 そして驚いたのがデビュー曲。「スター誕生」というタイトルや自らのストーリーを映した歌詞には、番組名とともにスタ誕が生んだ最大のスター・山口百恵の存在を漂わせていましたし、全盛期に比べると沈滞化していたスタ誕自体が全力を挙げてバックアップしている印象がありました。
 しかも曲調はチンペイさんお得意のスケールの大きなバラードで、百恵ちゃんのラストアルバムのオーラスを飾り、武道館でも最後に流れた「This is my trial(私の試練)」を彷彿とさせるような壮大なナンバーでしたから、まさに百恵の後にチャウあり、といいますか純正後継者の雰囲気すらあったのですね。

 それに加えて、ベトナム難民少女のデビューという話題性と、当時の日本の少女が失ってしまった素朴な雰囲気、およそアイドル歌手らしからぬ声質など、メディアもこぞって取り上げるなど、今思うとすごいメディアミックスプロモーションが繰り広げられたような気がします。

 ただ時代は花の82年組がブレイクに向けて競い合っていた最中。話題ほどにセールスにはつながらず…。結局はちょっと重たすぎたデビュー曲のイメージを払拭しようとしたのか、第2弾「愛をとどけて/浜百合のシルエット」では名曲ヒットを連発していた大津あきら+鈴木キサブローのコンビにチェンジ。
 同じコンビが放った渡辺徹の「約束」なんかを彷彿とさせる軽めの哀愁ポップスにシフトし、ファーストアルバムをリリース。第3弾シングルも出たのですが、最初に大きな話題性があった分どんどん失速してしまった感は否めず…。
 時を同じくして、スタ誕も放送を終了し、気がつくとチャウも引退していました…。

 いま思うと、苦難を乗り越え芸能界でサクセスするという感動秘話ドキュメント的ストーリーは70年代までの図式で、軽薄短小の80年代には白々しかったのかもしれませんし、同じアジア系でも出稼ぎアイドルとは異なる背景においそれとファンになれないような感じもあったようにも思います。

 というように、1年ほどの歌手活動で実績的にも乏しいのにもかかわらず、その出自と名前は伝説的に語り継がれるルー・フィン・チャウ。
 デビュー曲がスタ誕関連でCD化されたきりたったので、アイドルマニアから音源を求める声は多かったようで、このたび唯一のアルバムに、未収録シングル曲を加えたコンプリート・コレクションが登場することになりました!

 それが、おなじみの“Hotwax presents 歌謡曲名曲名盤1980sアイドル”シリーズにラインアップされる「 スター誕生+2 コンプリート・コレクション 」! 

 デビュー曲と第2弾シングルを含むファーストアルバムは、当然のごとく谷村新司プロデュース。「愛をとどけて/浜百合のシルエット」以外は全編にわたり関与していて、かなり力を入れた感じが伝わってきます。
 チンペイさん自身も後にセルフカバーした「ありふれた黄昏の街にて」をはじめ、「愛のプレリュード」「もしも神様がいるのなら」「イニシャルM.K」という書き下ろし曲にプラスして、サミュエル・ホイのナンバーにチンペイさんが詩をつけた「紙舟」や横山みゆきによるカバーヒットも知られるアリスの「秋止符」、そしてチャウの運命を変えたスタ誕受験曲「いい日 旅立ち」もしっかり入っています。

 今回はボーナストラックとして、アルバム未収録だったデビューシングルのB面「燃ゆる瞳」と、「愛のプレリュード」をカップリングにした第3弾シングル「北物語」の2曲谷村作品を追加。これにてチャウの音源コンプリートとなるワケですから、チャウのファンもチンペイファンも必携ですね。

 話はそれますが、個人的には、チャウのスタ誕の先輩にあたる柏原芳恵のファンにもオススメしたいところ。芳恵ちゃんは82年秋にチンペイさんから改名記念シングル「花梨/スノーバード」をプレゼントされ、アルバムにはスケールの大きな「君に捧げるアリア」の提供を受けますが、この曲こそチャウの「スター誕生」と同時期の谷村作品にして姉妹曲と言える仕上がり。

 このへん、百恵ちゃんの「ラスト・ソング」と「This is my trial(私の試練)」のペアと対比して聴くとさらに面白いかもしれませんので、百恵ちゃんファンにもオススメです。


(2016.4.15)


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