オススメ復刻盤「中原理恵／夢つれづれ ＜アンコールプレス＞」

　今年は松本隆さんの作詞活動四十五周年。
　ということで、記念のトリビュートアルバム「風街であひませう」（こちらで紹介）に超豪華なライブ「 風街レジェンド2015 」とお楽しみが目白押し。風街詩民以外からも大きな注目を集め、あらためて松本さんの歌詩の素晴らしさがクローズアップされています。

　思えば小１の頃、アグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」で初めて松本さんの詩を口ずさんで以来、太田裕美の一連の作品群に手を引かれて情緒を育み、思春期からは松田聖子の作品群に誘われて青春を謳歌してきた詩民の一人としては、こういう盛り上がりは喜ばしい限り。

　あちこちで特集が組まれることもあって、いつにも増して、大好きなうたたちをリピートしつつ松本さんの詩を読み返す機会が増えておりますが、１枚まるごと松本さんが手がける場合は、その構成というか、プロデュース力にも唸ってしまうんですよね。

　エイプリル・フールやはっぴいえんどの頃から作詩も手がけていた松本さんですが、全曲作詩といってもプロデュースアルバム第１弾として知られる南佳孝「 摩天楼のヒロイン 」やそれに続く岡林信康「 金色のライオン 」に加え、作詩は一部ですがプロデュースアルバムであるあがた森魚「 噫無情(レ・ミゼラブル) 」あたりはその延長という感じがします。

　ですので、「歌謡界に魂を売った」と揶揄されたという職業作詞家になってからのプロデュースアルバムというと、やはり75年の太田裕美「 まごころ 」からではないでしょうか。
　太田さんの成功によって松本さんの評価は決定的となり、押しも押されもしない存在となっていくワケですからね。

　奇しくもオーダーメイドファクトリーで太田さんの初期のアルバム２枚（こちらで紹介）が久々に単品復刻の可能性が出ておりますが、OMFにはもう１枚、松本さん渾身のアルバムがアンコールプレスの候補に挙がっております。

　そう、太田さんに続き、松本さんとCBS・ソニーの白川隆三プロデューサーがタッグを組んだ79年の傑作「 中原理恵／夢つれづれ 」！

　中原理恵という希有な素材には筒美京平先生とともに大いに触発されたのではないかと思っておりますが、実際、デビュー曲「東京ららばい」から、理恵ちゃんへの詩はとにかく傑作ぞろい。

　基本、太田さんのプラトニックな詩をはじめ、女性には乙女チックな世界観が多かったのに、翔んでる女・理恵ちゃんには、異なるスタンスで臨んだ松本さん。
　中でもこのアルバムではプラトニックとは180度異なるエロティックな世界を追求していて、東京・山手線沿線の裏通りから植南米の植民地までを股にかけ、悪女に妾、同性愛者、若いツバメに男狩りと何でもござれ。三角関係も不倫もいとわないさまざまなシチュエーションで、いろんな愛欲の形が描き出されています。

　ただ、そこはやっぱり松本さん。文学的な手法を駆使しているので、芸術的で美しいエロスという様相にまで昇華させていますし、エキゾチックでフォトジェニックなジャケットも相まって、ため息をつくほど官能的な世界となっています。
　むろんそれは筒美先生や穂口雄右さんのメロディー、矢野誠さんのアレンジの品格も大いに左右していると思いますけどね。

　シングル曲としては、日本テレビ音楽祭・金の鳩賞ノミネート曲にしてELO歌謡の傑作「SHOW BOAT」を収録。いろんな意味で充実した１枚といえるでしょう。

　という理恵ちゃんのサードアルバムですが、振り返ると最初のオーダーメイドも2004年に候補に挙がったもののなかなか数字が伸びず、ようやく２ndステージに進出しても延長に次ぐ延長の結果、どうにかこうにか復刻が実現したのは2007年でしたからね。

　今回も当時と同じく、山下達郎フリークに人気のファーストの「 TOUCH ME 」とともにアンコールプレスの候補となっていますが、前回あれだけ時間をかけたので欲しがっていた人はとっくに入手しているはずですし、OMFでは2013年に悲願の紙ジャケBOX「 中原理恵 PREMIUM BOX 」（こちらで紹介）も実現したことなので、今さらどうしてという感じが強いのも事実です。

　リクエストが多いと聞いて首をかしげたものだし、案の定伸び悩んでいるようですけど、松本さん45周年のお祝いもをこめて、未聴の方に少しでも門扉が広がればと思い、再プッシュしてみた次第です。

　とはいえ、セカンド、フォース、アルバム未収録シングル曲を含め松本作品の多い理恵ちゃんですからね。仕様や読み物も含め、単品ではなく、やっぱりケイゾク販売中のBOXの方をオススメしたいと思います！

　あと同じくケイゾク販売中で、筒美作品をまとめた「 GOLDEN☆BEST limited　中原理恵　筒美京平を歌う 」も、大半の詩が松本さん作なので、BOXに手が届かないという方はこちらを先にどうぞ。

　余談ですが、このエロティックなアルバムと双璧をなすプラトニックアルバムといえば太田さんの78年作品「エレガンス」。
　売れない詩人時代の“ぼく”が主人公の「煉瓦荘」に代表されるように松本さんの私小説という趣が強いのですが、幸せなカップルから、切ない別れのテーブル、感傷男に意地悪女、自殺や大災害、不倫までバラエティーに富んだテーマがずらり。シチュエーションも、あのキャンティから四畳半のアパート、雲の上やパーティー会場、中善寺湖の宿屋までとカオス状態なのですね。

　これに併せ筒美先生のメロディーも、ポップス、ロック、ボッサ、クラシカルな歌謡曲までと幅広くなっておりますし、何より太田さんの歌いこなしも良いので（声が本調子ではありませんが）、風街詩民の方でもし未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひお聴きください。

　と言いつつ、CD選書はとっくに廃盤、OMFの紙ジャケBOX（こちらで紹介）も昨年末３度目の再プレスが行われたものの現在では入手困難なのがツライ…。どうしてもと言う方は、どうぞOMFにリクエストをお寄せください。

（2015.6.15）