オススメ復刻盤「天地真理／ゴールデン☆アイドル」

　ソニー、コロムビア、ビクター、ユニバーサル、ポニーキャニオンの5社共同企画として、アイドルファン話題の的となっている「ゴールデン☆アイドル」シリーズ。

　コロムビア編はこちら、ビクター編はこちらで紹介してきましたが、ドーナツ盤時代のAB面曲をデジタル・リマスタリングの上、Blu-spec CD2などの高品質CDに完全収録ということもさることながら、アナログシングル・サイズの紙ジャケット仕様のパッケージに、ドーナツ盤のジャケットのレプリカブックが付くという点も実に魅力的ですよね。

　個人的に感慨深いのは、かつてレコード店の店頭で繰り広げられていたアイドル商戦の様相を呈していること。
　70年代、アイドルポップスというジャンルを開拓したのが新進レコード会社のCBS・ソニーであったことは今さら言うまでもありませんが、今回の企画はそのソニーが先鞭を付けた往年のアイドル商戦を彷彿とさせるんですよね。

　パッケージとして販売するのは、音源を入れたレコード盤と歌詞と写真を配したジャケットという単なるモノではなく、ビジュアルやデザインも重視した総合商品という考え方。それはルックスが重要な意味を持っていたアイドルなら今や当たり前のことだと思いますが、当時は何かにつけ揶揄されたりしたものです。
　しかし、その中でCBS・ソニーの場合はとにかくセンスが飛び抜けていて、中身（うた）が３割増しで良く聴こえたり、時には中身よりも重要と思えたりしたのでした。
　LPを買うともらえたメーカー純正のポスターやカレンダーだけでなく、封入特典としてお楽しみ袋などのグッズを用意したり、レコード盤にサインを刻印した特別仕様にこだわったり、帯に打ったラッキーナンバーによるプレゼント企画があったり…。
　山勝のくじ引きアイドルカードに近いクオリティのメーカーもある中、燦然と光って見えたものです。

　そんなアイドル商戦を牽引したCBS・ソニーのアーティストといえば、やっぱり今日まで続くアイドルシンガーの元祖・南沙織と天地真理。ともに71年デビューの国民的アイドルですが、今回の「ゴールデン☆アイドル」シリーズでもソニー編はこの2人が先陣を切ることに胸熱です。

　シンシアは「17才／島の伝説」から「 グッバイ ガール／Good-bye Girl」まで3枚組の「 ゴールデン☆アイドル 南沙織 」、真理ちゃんは「水色の恋／風を見た人」から「私が雪だった日／今は想い出」までの2枚組「 ゴールデン☆アイドル 天地真理 」という2タイトルですが、ここは一つ、2006年までAB面のCD化が叶わず、その後も通販BOX「 天地真理プレミアム・ボックス 」でしか聴くことができない真理ちゃんをプッシュさせていただきましょう。

　だって、シンシアの場合、シングル両面とも94年の通販BOX「 Cynthia Memories」を皮切りに、2000年の30周年BOX「CYNTHIA ANTHOLOGY」、2006年の紙ジャケBOX「Cynthia Premium」と何度もCD化されてきましたし、2004年にはオーダーメイドファクトリー第1号商品として、ドーナツ盤の仕様をマキシシングルで復刻した極めつけの「ドーナツ盤型12cmCDコレクション」も出ていますからね。

　さて、国立音大の付属中高を出て早稲田のフォークソング部に在籍し、ヤマハのボーカルスクールにも通っていたという真理ちゃん。
　当初は森山良子や本田路津子のようなカレッジ・フォーク志向だったんですよね。それはデビュードラマ「時間ですよ」のギターの弾き語りや、レコードデビュー曲がヤマハのナンバーだったことにも表れていますが、デビューシングル「水色の恋／風を見た人」を一聴すれば明らか。特に村井邦彦さん作曲B面の茫洋とした雰囲気は異彩を放っています。

　しかし、可愛すぎたせいでアイドル人気が爆発。あれよあれよという間にトップアイドルとなり、オリコンでは第2弾シングル「ちいさな恋／ある日私も」がナンバー1を記録。なんとCBS・ソニー国内制作部門初の1位獲得アーティストとなったのです。

　その後も「ひとりじゃないの／ポケットに涙」「虹をわたって／トンガリ屋根の教会へ」と連続１位をキープ。ソニーの中曽根皓二さん、ナベプロの中島二千六さんというディレクターコンビが築いたメルヘンの世界は確固としたものとなります。みんなに口ずさまれることを前提にした森田公一さんの曲は“うたいうた”としての魅力にあふれていると思いますし、それは真理ちゃんのあの歌唱法があってのことでしょう。

　途中「ふたりの日曜日／真冬のデイト」が、宮史郎とぴんからトリオ「女のみち」とちあきなおみ「喝采」というメガヒット2曲に阻まれ3位止まりだった以外は、「若葉のささやき／海にたくした願い」「恋する夏の日／花ひらくとき」と、当時では異例の５作1位という新記録を樹立しています。

　このことからも真理ちゃん人気がいかにスゴかったかが分かるでしょう。ホント国民的人気を博し、社会現象と呼ばれたアイドルは70年代前半では彼女をおいていないでしょう。

　ただ、あまりの人気ぶりに楽曲としては冒険ができず、単調になっていったのも否めません。けれどれが功を奏し、ピークを過ぎてからのシングルも佳作ぞろい。ノンスマイル路線の「想い出のセレナーデ／わたしの場合」や「木枯らしの舗道／ブランコ」しかり、初主演ミュージカルの臨発「初めての涙／君よ知るや南の国」しかり。
　特に、ディレクターが太田裕美チームの白川隆三＋原正志コンビに交代した後の筒美作品「夕陽のスケッチ／小さな人生」「矢車草／一杯のレモンティー」はさりげないのに得も言われぬ気品があって素敵です。

　真理ちゃんの軌跡をたどるとさまざまな思いが去来しますけれど、当時の真理ちゃんファンだけでなく、栄華を知らない世代にこそ、その存在と功績をしっかり認識してもらえればと思います。天地真理は、日本の高度成長の最後を象徴する存在として、国民の夢と希望と幸福を体現した希有なアイドルだったのですから。

　なお、シンシア編には臨発の英語盤「カリフォルニアの青い空／雨に消えた初恋」を、真理ちゃん編には復帰時のプレゼント盤「夏を忘れた海／ひとかかえの愛」もボーナス収録予定だとか。

　という感じで「ゴールデン☆アイドル」の複製シングルジャケットを楽しんだ後は、懐刻盤シリーズの「南沙織／GOLDEN☆BEST コンプリート・シングルコレクション」（こちらで紹介）と「天地真理／GOLDEN☆BEST」（こちらで紹介）のチェックもお忘れなく。
　シングルジャケットの別カット写真が満載で見比べて楽しめますし、シンシアには原盤制作の日音の担当ディレクターだった小栗俊雄さんによるシングル・ヒストリー、真理ちゃんにはご本人によるセルフ・ライナーノーツという読み物がそれぞれ付いていますのでね。

（2014.5.27）

＊ SonyMusicShop で予約すると先着オリジナル特典として、「 ゴールデン☆アイドル　南 沙織 」はポストカード2枚セット、「 ゴールデン☆アイドル　天地真理 」は直筆サイン色紙がもらえるそうです！


＊ビクター編のみ2014.8.27に発売延期となりました。ご注意ください。