久世さん没後10年を記念し、超廉価再発!
放映から42年。数々の名ドラマを放ったTBS水曜劇場の中でも、ひときわ高い支持を集める「寺内貫太郎一家」。
向田邦子+久世光彦という黄金のタッグで1974年新春にスタートし、平均視聴率は30%超え。同年のテレビ大賞も受賞するなど、日本ドラマ史に残る傑作であることは皆さんご存じのことでしょう。
90年には2話分だけビデオ化され、2003年からはTBSチャンネルで何度か放送。そして2006年にはパート2も含めてDVD化され、好評を博しました。DVD化の際には記念イベントのトークショーも開催され、久世さんをはじめキャストが大集合。
それまでにも続編や、CM、舞台化などがあり、この時にも続編制作の話が出たり往年のファンを沸かせましたが、その矢先に久世さんが急逝。ドラマは永遠のものとなってしまいましたが、あれから10年。
昨秋には里子役の加藤治子さんもお亡くなりになって余計にノスタルジックな気分になってしまいますが、今回、久世さんの没後10年を記念して、そのDVD-BOXが廉価版として一挙再発されることになりました!
パート1(全39話)の「 寺内貫太郎一家 期間限定スペシャルプライス DVD-BOX1 」「 寺内貫太郎一家 期間限定スペシャルプライス DVD-BOX2 」「 寺内貫太郎一家 期間限定スペシャルプライス DVD-BOX3 」、キャストや設定を変えたパート2(全30話)の「 寺内貫太郎一家2 期間限定スペシャルプライス DVD-BOX1 」「 寺内貫太郎一家2 期間限定スペシャルプライス DVD-BOX2 」という5つのBOXですが、驚くなかれ! それぞれ税別5千円という驚きのプライス!
もちろん、初回盤特典だったはんてん柄特製寺貫Tシャツは付きませんが(久世さん出演の発売記念トークショーや久世さんを偲んで開催されたセミナーの様子は収録されています)、実にオリジナル盤の約4分の1というお安さですし、再販維持対象外のDVDにつきショップによってはさらにお安く買えますからね。
前回見送ってしまっていた人にはまたとない絶好のチャンス、一挙買いマストなタイミングではないかと思います。
向田さんの胸にしみいるストーリーやシチュエーションが素晴らしいのは当然として、このドラマの真骨頂はやはり久世さんの破天荒なキャスティングと演出の力でしょう。
人によっては、ホームドラマをぶち壊した張本人のように言う向きもありますが、小林亜星や西城秀樹の抜擢はもとより、収録開始時には30歳だった悠木千帆(樹木希林)に70歳のお婆ちゃん役をさせたり、横尾忠則さんや渋谷森久さんといった畑違いの天才たちを引っ張り込んで溶け込ませたり、その感覚と実行力には恐れ入るばかりです。
また、寺貫と言えば、ヒデキを骨折させた茶の間乱闘とかドタコメみたいなイメージを持つ人も多いようですが、個人的に惹かれてやまないのはそういう面白さだけではありません。
このドラマには昭和という時代まで確かにあった日本のこころ、言うなれば戦前から正しく生き抜いた日本人たちが大切に守ってきた日本の良心というものが、いろんな形できっちり表現されていると思うのですね。
坊主頭と半纏姿になるまでは向田さんと里子役の加藤治子が大反対していたという小林亜星の貫太郎はもちろん、「ジュリーッ!」を流行させたおきんばあさん、まんまヒデキの周平、さそりや修羅雪姫とは思えない美しく健気な梶芽衣子のシーちゃん。そして脇を固める伴淳のイワさん、とん平のタメさん、由利さんの花くまさん。
藤竜也演じるヘビーデューティーなファッションがカックイイ男やもめ・上条さんと、吉行和子の妖艶さにドキリとする元奥さん、ちっとも印象が変わらない野村昭子のアパートのおばさんに、ダンマリのお兄さん・横尾忠則も、篠ヒロコ(ひろ子)のお涼さんも、もちろんおさげの相馬ミヨコも…。みんな生き生きと、分相応に、それぞれの人生を立派に美しく生きているのですから。
大人になってあらためて見て思ったのですけど、このドラマの醍醐味というか本質は、あくまでも現実を直視し受け入れる視点のような気がします。
それは、当時主流だった心温まるホームドラマとは逆を行くもので、親子夫婦の情愛や嫁姑のイザコザも、年頃の娘の貞操や結婚問題も、住み込みや通いの労働問題も、バツイチやハンデキャップのことまで、すべての物事や人物が日常に存在しうる当たり前の出来事として描かれているからなのですが、大人になって見た時にはちょっと愕然としたほどでした。
もはや隔世の感がありますが、谷根千ぶらり散歩などがお好きな若い方にも、ぜひ見ていただきたいですね。
もちろん音楽も素晴らしく、大野克夫さんの劇伴や井上尭之バンドによるオープニングテーマも当時としては斬新だし、劇中歌は胸を打つナンバーばかり。
パート1は、ヒデキとミヨちゃんが屋根の上でのデュエットし、ベスト10ヒットとなった筒美京平作品「しあわせの一番星」をはじめ、明星募集歌の「虹の架け橋」、レコード化はヒデキのガールフレンド・マユミ役のいけだももこですが最初はミヨちゃんが歌っていた「リンゴがひとつ」など、水曜劇場の前作「時間ですよ」から引き続き出演となった浅田美代子が大活躍しております。
そして、設定がよりシリアスに変わり、キャストも異なるパート2では、浅田美代子の歌手休業に伴い劇中歌も風吹ジュンにバトンタッチ。静江から節子に変わった長女役ですが、それまでのエッチな路線から大イメチェンを図り、夕げの匂いが漂ってくるような「23才」を歌います。彼女もこのドラマで女優開眼し、向田さんのお気に入りとなるワケですからね。今や大女優の一人に数えられるようになったことを思えば、感慨しきりです。
ただ、ヒットという面ではミヨちゃんにはるか及ばず、後半では新人の石工見習い・白鳥哲に変更。男の子版・ミヨちゃんという立ち位置で吉田拓郎の書き下ろし「ひとりだち」を歌っています。
アイドル歌謡曲ファンの見どころを申し添えておきますと、まずは小料理屋「霧雨」の常連客として出演している渋谷森久さん。東芝で越路吹雪や加山雄三を手がけたディレクターとして名高い渋谷さんは、久世さんと仲良しということから出たそうですが、アイドルファンにとっては伊藤咲子の育ての親であり、本田美奈子のミュージカル転向時を担当した方としても知られています。
そしてもう1人、筒美系ディーバとして一部で熱狂的なファンを持つ小川みき。彼女はミヨちゃんの同郷の友人役でちょっとだけ出ておりますが、「時間ですよ」の中津川みなみ同様、ちょっと不良な役なのですが、あの何とも言えないしゃべり方と動く小川みきが見られる貴重な映像だと思いますので、ファンの方は必見です。
なお、5月上旬に日本橋三越で開催予定の「昭和のスターとアイドル展~テレビからヒット曲が生まれた時代~」には、特別展示として「昭和のテレビドラマと歌謡曲~久世光彦の世界」が設置され、このDVD-BOXの特別先行販売も行われるそうですよ。
最後に、当然ではありますが、活字として読んでも素晴らしいのが寺貫の世界。
向田さんのシナリオ「 寺内貫太郎一家―向田邦子シナリオ集〈5〉 」はもとより、小説家・向田邦子のデビュー作となり、直木賞作家への一歩となったノベライズ「 寺内貫太郎一家 」をぜひお読みください。ちなみに、ノベライズ化されていなかったパート2も全集の編集者が書き継ぎ、2013年には「 完本 寺内貫太郎一家 」として発行されておりますので、ぜひ愛蔵版として本棚にお収めください。
(2016.3.3)