CD選書以来、24年ぶりの単品リリースへ!
今年デビュー40周年を迎えているのは75年組の皆さん。中でもこちらでも紹介したヒロリンの露出がダントツですが、一足先にアニバーサリーイヤーを迎えたアーティストといえば、太田裕美さんです。
デビューが74年11月1日と新人の年度始まりのタイミングだったため、記念アルバム(こちらで紹介)のリリースも、記念ライブの開催もすべて昨年の出来事だったワケで、メモリアル企画とはまったく関係ないようですが、このたびオーダーメイドファクトリーにおきまして、ファースト&セカンドアルバム2タイトル「 まごころ 」「 短編集 」の単品発売が企画されました!
OMFでは昨年末、太田さんの40周年を迎えたタイミングで2008年のアルバムBOX(こちらで紹介)がアンコールプレスされていますし、BOXにはこの2枚ももちろん入っていますが、今回復刻が実現すれば、単品でのCDリリースはなんと91年5月のCD選書以来、24年ぶりとなります。
また、今回は初のブルスペ2ということですが、サードからの3枚は大ヒットアルバムを対象にした名盤復刻シリーズ(こちらで紹介)でブルスペ2化されていますので、今回は市販では飛ばされた2枚がOMFでリリースされるという解釈が一番しっくりくるのではないかと思います。
ですので、既に名盤復刻シリーズの「 心が風邪をひいた日 」「 手作りの画集 」「 12ページの詩集 」をそろえている人にこそオススメしたいし、6枚目の「こけてぃっしゅ」以降もブルスペ2化を望んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひ後押しいていただければと思います。
むろん単純に、太田さんのファーストまたはセカンドだけを聴いてみたいという方も、ぜひこの機会に。
念のために、カンタンにご説明しておきますと、ザ・芸能界の渡辺プロ所属ながら、バリバリのアイドルっぽいカワイイルックスと、ピアノ弾き語りというアーティスティックな志向を兼ね備えていた太田さん。フォークと歌謡曲の中道を行き、ニューミュージックの流れを切り開いていった彼女にとって、この2枚は「木綿のハンカチーフ」以前のアルバムということになります。
各新人賞を総ナメしたデビューヒット「雨だれ」でも分かるように、「木綿のハンカチーフ」で大ブレイクするまでの太田さんは、乙女チックかつアンニュイ。いわばクラシカルなヨーロッパ路線だったワケで、この2枚はジャケットを見ても分かる通りまさにその雰囲気。衣装のマキシ丈のドレスがよく似合うアルバムなのであります。
プロデュースはコンセプトアルバムに定評があるCBS・ソニーの白川隆三さんですのでハズレなし。しかも、一部太田さんの自作品などを含むものの、メインは松本隆+筒美京平+萩田光雄というゴールデントリオですからね。さらに構成も松本さんが担当されておりますので、筒美フリークはもちろん、風街詩民も必携のアルバムといってもいいでしょう。
太田さんがピアノ弾き語りで登場した背景に小坂明子さんの成功があったのは周知の事実ですが、太田さんのデビューにあたり、白川プロデューサーがイメージしたのは当時ブームのドメスティックなポプコン的フォークというよりローラ・ニーロとかだったそうですし(詳しくは「 GOLDEN☆BEST 太田裕美 」のブックレットをお読みください)、太田さん自身はなんとリンジー・ディ・ポールのスタイルなんかを参考にしていたといいますから、そんな観点から聴いてみると新発見もありそう。
さて、ファーストの「 まごころ 」は、「雨だれ」がオリコン14位まで上昇しヒットのピークを記録した75年2月リリース。四季がテーマで、3曲ずつで乙女の春夏秋冬を表現しています。
アイドル歌謡的な「幸福ゆき」や、メロウサウンドが心地好い「あなたに夢中」、ソウルタッチで組曲と呼べるスケールの大きな「雨の予感」、デビュー曲「雨だれ」のクラシカルバージョンなど聴きどころ満載だし、自作の「グレー&ブルー」も名曲です。
特筆すべきは、異色の「やさしさを下さい」。演劇部出身の太田さんならでは(?)の朗読で綴ったナンバーなのですが、メロディーは後にセカンドシングル「たんぽぽ」のB面「リラの花咲く頃」へと発展したほか、詩には第3弾シングル「夕焼け」のフレーズも入っております。
一方、第2弾シングル「たんぽぽ」をフィーチャーしたセカンドの「 短編集 」は75年6月発売で、前作からわずか4カ月という驚異的なインターバル。
にもかかわらず全曲オリジナルで、初期の定番曲にしてプロモーションシングルとしてリカットされた「妹/レモンティー 」をはじめ、事務所の後輩にあたるザ・リリーズが後にシングルとしてカバーした「太陽がいっぱい」、初期の集大成的な「回転木馬」など、筒美作品の幅の広さが目立ちます。
そんな中で秀逸なのは、ソフィストケイトされた萩田作品 「ピアニシモ・フォルテ」というのも太田さんとこのアルバムのスゴさを象徴している気がします。
また、このアルバムはレコーディングの際、リアルなボーカルにこだわり、息づかいが感じられるほどの近さにマイクを置いたそうで、初々しい舌足らずのボーカルがさらになまめかしくなっていますから、ロリ声に萌える人にもオススメです。
1編1編は短編なのに、通して聴くと1つの大きな物語になっているというストーリーアルバム。まさに松本さんのお家芸の原型という感じですので、詩民なら一聴すべきアルバムといえるでしょう。
当時、筒美先生は既に大ヒットメーカーでしたが、松本さんはまだ駆け出し。もちろん松本さんらしいワザが光る詩もありますし、風街を感じさせるフレーズも見受けられますが、職業作家として歩み始めたばかりの頃ならでは、歌謡曲を意識したエチュードっぽいものもあったりして。
いずれにしても松本さんの作詩家としての評価を決定づけたのは、やっぱり太田さんの作品群ですから、この2枚では松本さんが太田さんとともにビッグになっていくその過程も検証できそうです。
ということで、今夏の「 風街レジェンド2015 」にお出かけになる詩民の方で、もしも未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会に。
もちろん松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート「風街であひませう」(こちらで紹介)限定盤のポエトリーリーディングアルバム「風街でよむ」で、太田さんによる拓郎の「外は白い雪の夜」の朗読に感銘を受けた方も。
なお、昨年のレコード・コレクターズでの特集「日本の女性アイドル・ソング・ベスト100 1970-1979」では見事「木綿のハンカチーフ」が第1位に輝いた太田さんですから、パブリックイメージ的にはアイドルポップスの雰囲気でしょうが、この2枚にそれを期待してしまうとちょっと拍子抜けするのではないかと思いますので、そこんところはご注意ください。
ただ、24年ぶりの単品再発、初のブルスペ2化とはいえ、CD選書盤は20年近くロングセラーを続けてかなり出回っておりましたし、アルバムBOXも3度もアンコールプレスされるなど、太田さんのファンには潤沢に流通しているはずですので、今回実現するかどうか、いささか心配。
コアなファンの皆さんで迷っている方がいらっしゃいましたら、太田さんアフター40周年のお祝いということで、ぜひご協力くださいませ。
(2015.6.4)