匠エンジニアのリマスタリング企画で名盤復刻!
吉田保さんといえば、1968年からキャリアをスタートさせ東芝EMI、RCA/RVC、CBS・ソニーなどのメーカーに在籍。大滝詠一さんの歴史的名盤「A LONG VACATION」をはじめ、錚々たるアーティストのレコーディングやミキシングを手がけてきたエンジニアでいらっしゃいます。
まさに名匠として現在も活躍されていますが、このたび、その偉業を称えるような名企画「吉田保リマスタリングシリーズ」がスタート。これはご本人がかつて手掛けたアーティストを中心に、それぞれの作品の原音に忠実なサウンドを蘇らせるべく自らリマスタリングを施し、高品質CDのBlu-Spec CD2仕様で復刻するという企画で、発表されて以来かなりな前評判を呼んでいるようです。
まずは第1弾として今月、杉真理さん84年の名盤「mistone」の30周年記念盤「 MISTONE-30th Anniversary Deluxe Edition-【初回生産限定盤】 」がSony Music Shop限定発売で登場。初回盤は当時のツアーパンフのCD-ROM付きとあって予約が殺到したようですが、なんと10月にはその続編というかプレリリースに次ぐ本編という感じで一挙13タイトルがリリースされるのだとか!
しかも、そちらは販売先にタワーレコードも含まれるそうで、タワレコだけと言えどもリアル店舗での展開はウレシイ限りです。
気になるラインアップには、吉田美奈子4作品「 MINAKO 」(タワレコは「 MINAKO 」)、「 MINAKO II 」(「 MINAKO II 」)、「 FLAPPER 」(「 FLAPPER 」)、「 TWILIGHT ZONE 」(「 TWILIGHT ZONE 」)、南佳孝4作品「 SOUTH OF THE BORDER 」(「 SOUTH OF THE BORDER 」)、「 Daydream 」(「 Daydream 」)、「 冒険王 」(「 冒険王 」)、「 LAST PICTURE SHOW 」(「 LAST PICTURE SHOW 」)、ハイ・ファイ・セット5作品「 Pasadena Park 」(「 Pasadena Park 」)、「 INDIGO 」(「 INDIGO 」)、「 Sweet Locomotion 」(「 Sweet Locomotion 」)、「 Gibraltar 」(「 Gibraltar 」)、「 Eyebrow 」(「 Eyebrow 」)という手堅いアーティストの手堅いタイトルがズラリ。
これを記念して、吉田保さん自身によるトーク&リマスタリング音源の試聴イベントも開催予定だそうです。
どれも素晴らしい名盤ばかりだと思いますが、75年から77年作品の美奈子さんはRCAのCD名盤選書や紙ジャケでCD化済みですし、80年代中心の佳孝さんやハイ・ファイ・セットはオリジナルリリースがCDだったものも多く、その後もCD選書などで復刻済みでしたので、名盤復刻シリーズ(こちらとこちらなどで紹介)と同様、ブルスペ2という高音質盤の買い換えや買い増しという人が圧倒的かもしれません。
むろんこのシリーズ自体がそういう目的であり、コアなファンがターゲットでしょうけど。
美奈子さんの代表作「 FLAPPER 」はもとより、佳孝さんの不朽のサマーリゾート大名盤「 SOUTH OF THE BORDER 」や、聖子ファンにテーマ共通の「Tinker Bell」とセットで聴いていただきたい「 冒険王 」もスイセンしたいのですけど、再評価の低さやタイミングから言って、やっぱりハイ・ファイ・セットをイチオシさせていただければと思います。CD選書も廃盤となっていましたのでね。
今年、山本潤子さんの休養、山本俊彦さんの急逝と、ファンには残念なニュースが相次いだハイ・ファイ・セット。俊さんの追悼盤という感じで7月には東芝EMI時代のベストをリニューアルした「ベスト・コレクション」(こちらで紹介)がリリースされたものの他が続かなかったので、今回のリリースはことさらうれしく感じます。
さて、今回出る5タイトルの中で必聴なのは、やっぱり「 Pasadena Park 」でしょう。84年、東芝からCBS・ソニーへと移籍した第1弾アルバムです。
ソニー時代のハイ・ファイ・セットは、東芝EMI時代の4ビート路線で鍛えたコーラスワークとジャジーな感覚を生かしつつ、アルファ時代への原点回帰もイメージ。時代の中心であったポップスのエッセンスをプラスし、アダルトで上質な楽曲づくりを展開していった時期。
このアルバムは、いわば円熟期のスタートとして、鳴り物入りで発表された作品なのです。
移籍第1弾シングルにしてスマッシュヒットなった「素直になりたい」に代表されるようにポップスの申し子・杉真理さんが中心となって、ソフィストケイトされたポップナンバーを提供。
南佳孝さんや、かつてバックバンドのメンバーであった伊藤銀次さんも参加していますし、書き下ろしではないもののユーミンからの提供曲「霧雨で見えない」や、後にシングルカットされる俊さん作曲の「水色のワゴン」など、極上のアダルトポップスがギッシリ詰まっています。
個人的には、このアルバムの成功によって古き良きジャズやポピュラーのエッセンスも取り戻した次作「 INDIGO 」(彼らのナンバーで最も好きな「Boy Friend」や、沢口靖子の目元にほうき星が流れたCMソング「星化粧ハレー」などを収録)の方が、本来のハイファイらしさが出ていると思いますので、ぜひそちらも聴いていただきたいし、ソニー時代のハイ・ファイ・セットが気に入ったというビギナーの方は、名盤復刻シリーズにラインアップされたアルファ時代の名盤(こちらで紹介)も併せてお聴きいただければと思います。
今回のシリーズは本来であれば、リーズナブルな名盤復刻の続編として出てほしかったタイトルではありますが(佳孝さんのタイトルはまさに続編そのものの順番ですし…。ちなみに佳孝さんはファーストの「 摩天楼のヒロイン 」が9月にSHM-CD化される模様)、残念ながら名盤復刻シリーズはセールスが思うように伸びずストップしたようですので、それを思うとこの企画が実現したこと自体、感謝感激ものですよね。
企画がスムーズに存続し、また新たなシリーズをドンドン追随させるためにも、まずは数字が伸びることを祈っております!
(2014.8.26)