リマスタリングによるHQCD-BOX、待望の第2弾!
まずは、件のNHK連続テレビ小説「マッサン」主題歌と、ももいろクローバーZに提供した「 泣いてもいいんだよ 」のセルフカバーをカップリングしたシングル「 麦の唄 」。
続いて、今年の夜会用のナンバーを中心に、中島美嘉への提供作「 愛詞(あいことば) 」のセルフカバーも収録した40作目となるニューアルバム「 問題集 」。
そして、2012年から13年にかけて行われたツアーのライブCD「 中島みゆき「縁会」2012~3 - LIVE SELECTION - 」に映像ソフト(Blu-ray「 中島みゆき「縁会」2012~3 (Blu-ray) 」&DVD「 中島みゆき「縁会」2012~3 (DVD) 」)と、近年まれに見るオールメディアそろい踏みの連続発売となっています。
さすがはヤマハ、販売店施策も万全で、大手を中心にショップ別で異なるアルバム購入特典が付いたり、Loppi・HMV ではCDと映像ソフトの同時購入(Blu-rayセットは「 【HMV・Loppi限定特典DVD付】「問題集」(CD)+「中島みゆき 縁会 2012~3」(Blu-ray) 」、DVDセットは「 【HMV・Loppi限定特典DVD付】「問題集」(CD)+「中島みゆき 縁会 2012~3」(DVD) 」)で「スペシャル・サンプラーDVD」が付くキャンペーンも実施されるなど、往年のユーミン並みの盛り上がりという感じもします。
コレは追いつけないスピードで走り去るワゴンのようで、普段からみゆき預金を積み立てていなければちょっと乗り切れない感じもいたしますが、追い打ちをかけるようにさらなる大型商品の発売の知らせが届きました!
そう、ヤマハの通販限定で完全受注生産、しかもリマスタリングとなる10枚組BOX「中島みゆきBOX2 寒水魚~夜を往け」の発売が決定したのです。
コレは「中島みゆきBOX 私の声が聞こえますか~臨月」(こちらで紹介)に続くBOXですが、まずは一般に先がけFC(ファンクラブ会員 限定申込ページ)で10月15日より受注を開始。一般受注は1カ月後の11月15日からになるそうです。
ちなみにFC会員には特典として印刷のサインと名入れサービスが付くそうですので、いち早く欲しい方、自分だけの外箱が欲しいという方は今からでもなみふく・でじなみにご加入ください。
さて、肝心のBOXの内容としては、82年から90年まで、すなわち「寒水魚」「予感」「はじめまして」「御色なおし」「miss.M」「36.5℃」「中島みゆき」「グッバイガール」「回帰熱」「夜を往け」の10タイトルをHQCD化し、豪華BOXに収納。
これに詩集としても重宝しそうな112ページの歌詞ブック付きで、まさにコレクターズアイテムという体裁です。
でもでも何より注目なのは、やっぱりリマスタリング。前にも書きましたが、みゆきサンの旧譜は2008年に35タイトルが紙ジャケ再発(こちらで紹介)されてはいますし、BOXとしてはポニーキャニオンから通販限定で10枚ずつのセット「 中島みゆき 1976~1983 」「 中島みゆき 1984~1992 」「 中島みゆき 1993~2002 」が出ていましたが、いずれもリマスタリングされていない音源であり、ファンの間からはリマスタリング再発が求められていたのです。
実は近年、1枚97,200円也のクリスタル・ディスク化が進み、毎年少しずつリマスタリングが進んでいますが、超富裕層ではなくエレーン層の我々にとってはお金貯めて3日泊まる夏休みをあきらめても手が届かず…。
そういう意味では、今回の10タイトルはクリスタル・ディスク用に昨年末リマスターが済み、そのおこぼれを頂戴するかのようにHQCD化されたというワケなのですね。
さて、過去のアルバムを振り返ると、ファッションやヘアメークをはじめとするジャケットの装いのみならず、サウンドも劇的な変化を遂げてきたみゆきサンですが、今回のBOXにはいわゆるご乱心時代を含み、激変期といえる時代の作品が並びます。
一般的にはネクラフォークのイメージが強いようですが、初期は牧歌的で骨太なロックテイストを基本に、カントリーやブルースを下敷きにしていたみゆきサン。81年の「臨月」からは憑き物が落ちたようになって、マンタさんのアレンジもあってか“松任谷みゆき”的な匂いも漂わせたり、シティポップス的なサウンドを取り入れたシングル「悪女」を大ヒットさせるなど、かつての五寸釘イメージは払拭されつつあったのですね。
それには、ちょうどユーミンが久々のシングルヒット「守ってあげたい」を放ったタイミングと重なり、ニューミュージックの2大女王としてクローズアップされたことも功を奏したのではないでしょうか。
この81年という年は2人にとって記念碑的で、ユーミンは第2次ユーミンブームによってファン層の世代交代が行われ、みゆきサンの場合も金八先生効果もあって、ファン層が一気に若返りしたのです。それは、オールナイトニッポンやコンサートでも顕著でしたけど、アルバムにも如実に反映されたのではないかという気がします。
余談ですが、この2人、なんだかんだ言っても陰陽一組のように、今もって時代の変遷に併せ交互浮沈を繰り返していますけど、その図式はちょうどこの時期にスタートしたものでありました。
また、ソングライティング力にも長けた2人は世間的にブレイクした経緯も似ていて、ユーミンはバンバンのNo.1ヒット「『いちご白書』をもう一度」で下地を築いた後に自らも「あの日にかえりたい」で1位を獲得し、みゆきサンは研ナオコのNo.1ヒット「あばよ」(みゆきサンの提供作品をコンプリートした「 中島みゆき作品コンプリート 」はこちらで紹介)で地ならしをして「わかれうた」で1位を獲ったという軌跡を歩んでいるんですよね。
ということで、80年代という軽い時代を反映させるように聴きやすくなって、「寒水魚」は大ヒットを記録。自ら「入水」と例えていたジャケットも素敵ですが、流麗なストリングスとぐっと力を抜いたボーカルのマッチングが絶妙です。
「傾斜」や「歌姫」の影に隠れ地味ではありますが、個人的には「鳥になって」がイチバンの聴きどころではないかと思っています。
続く「予感」では、みゆき的悲観主義の王道「この世に二人だけ」や前作の流れをくむソフトな「夏土産」などもありますが、ロックに力点が置かれる仕上がり。「テキーラを飲み干して」のカッコよさは、ステージにおけるたたずまいの変化にもリンクしていったように思います。
そういえばみゆきサンの詩世界は、恋愛弱者だけでなく社会においてのそれにもスポットが当てられてきましたが、マクロ的なものが「世情」とすればミクロ的な形で極まったのが「ファイト!」ではないでしょうか。
続いては、ロックンロールをベースにした新生みゆきサウンドのように見えて核は初期っぽい「はじめまして」、第1弾に続き実験的サウンド満載の続くセルフカバーアルバム第2弾「御色なおし」。
この流れの中で一つの到達点を見せたのが、シンセサウンドとバランスが取れ、クオリティ的にも円熟の境地と言える「miss.M」であり、スティーヴィー・ワンダーが参加した12インチ「つめたい別れ」であったと確信しています。
そして、甲斐バンド解散直後の甲斐よしひろと組んだ「36.5℃」、アルバムタイトルからして突き詰めた感があった問題作「中島みゆき」と、熱病にかかったようなコンピュータサウンドが満載で、ご乱心の極致ともいえるアルバムを発表。
日清ならともかくNYのパワーステーションとカップ麺みゆきの組み合わせが象徴するように、70年代からのファンの多くが戸惑いを見せたものですが、それはバブリーな世の狂乱の影響もあったでしょうし、日本のミュージックシーンの変化や、ハードも含めデジタルへと移行した制作過程の変化も大いに関係していたように思います。
とはいえ個人的には、みゆきサンに限ったことではなく、70年代のアコースティック系シンガー・ソングライター勢がこぞって苦悩した踏み絵だと考えていますので、今となっては非常に感慨深く聴けそうです。
これにて、みゆきサン的メタモルフォーゼは終了し、「グッバイガール」では今日まで添い遂げている瀬尾一三さんとタッグを組みます。そうして工藤静香への提供作のヒットでまたまた作家として脚光を浴びた頃のセルフカバー第3弾「回帰熱」、90年代のスタートダッシュを飾った「夜を往け」と続いていきますが、そこにはもはや迷うことなく突き進むみゆきサンがいました。
バブル崩壊後、歌でしか言えないことを一心に言い続ける姿は、まさに迷える世の中にご神託を告げようとする時代の巫女、いえMEGAMIそのものでありました。そして、たとえ世界が空から落ちても100年も続かないドラマを歌い続ける姿勢は今日まで続いていると思います。
というワケの分かんない紹介でしたけど、みゆき信者の皆さまには待望のBOX2。完全受注生産につき、商品の到着は初回が10月末日までの入金で12月25日以降(対象はFC会員のみ)、一般に開放される11月からは注文が完了した月の翌々月25日頃だそうです。
なお、80年代のみゆきサンはアルバム未収録のシングルもバラエティー豊か。「誘惑/やさしい女」「横恋慕/忘れな草をもう一度」「あの娘/波の上」など作風の全く違うアルバム未収録も多いですので、初期のシングル集「 Singles 」「 Singles II 」なんかもリマスタリングの上、HQCD化されれればこの上ないですよね。
この時代のマイフェイバリットは「波の上」を筆頭に「どこにいても」「空港日誌」とアルバム未収録のシングルB面ばかりだったりしますので。
(2014.10.15)