オススメ復刻盤「ラジ ソニーミュージック音源再発」


ナツメロ喫茶店

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 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#701

ラジ ソニーミュージック音源再発

キャトル(BRIDGE-230)、真昼の舗道(BRIDGE-231)、アコースティック・ムーン(BRIDGE-232)*2014.9.27発売、各¥2,500+税、Blu-specCD2

ハート・トゥ・ハート(BRIDGE-236)ラヴ・ハート(BRIDGE-237)2014.10.27発売!

幻のシティミュージックの女王、ソニー時代完結!

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 昨春、ソニー・ミュージックダイレクトとパートナー企業の共同企画という立ち位置で話題を呼んだブリッジの「大野雄二復刻シリーズ・ソニーミュージック音源再発」。
 パートナー企業専売商品という何とも時代がかった呼称もさることながら、ソニーミュージックが企業向けプレミアムディスクとか以外で供給するケースも珍しいことでしたが、ようやく一般流通も開始され、8月には第2弾として「 大野雄二/永遠のヒーロー 」もリリースされました。

 とはいえ、いずれもBlu-specCD2の紙ジャケ仕様へとグレードアップされたもののオーダーメイドファクトリーでCD化済みのタイトルでしたから、さほどのレア感はなかったようで気にもしてなかったのですが、なんとこの流れにラジの「ソニーミュージック音源再発」計画が持ち上がり、未CD化の3タイトルを含むCBS・ソニー時代の全5タイトルのリリースが決定したとか!

 ラジもエンジニアは吉田保さんですし、今回も吉田さんによる最新リマスタリングということですから、まさに「吉田保リマスタリングシリーズ」(こちらで紹介)に連なる感じですが、シリーズの本格開始と同時のタイミングに、袂の財布を探りつつウレシイともキビシイともつかない悲鳴を上げる人も少なくないような気がします。

 ムーンライダーズ系の出自を持ち、サディスティックスやYMOとの関係もあったり、昔からオシャレ系の人やギョーカイ人たちに支持されてきたラジですが、業界受けの印象(個人的な周辺でも今50~60才代のクリエイターの皆さんがこぞって応援してたイメージあり)に比べ一般的には今ひとつの知名度。

 しかしながらユーミンフリークには「昔の彼に会うのなら」(「 PEARL PIERCE 」収録)の原曲であり荒井時代に書いた「二人は片想い」や、名曲「瞳を閉じて」を歌ったポニーテールの1人として、ナイアガラフリークには「 A LONG VACATION 」の「Velvet Motel」のデュエットシンガーとして、ピンク・レディーフリークにはラス2シングル「Last Pretender」の原曲を歌った歌手かつ競作相手として、はたまたアイドルポップスをはじめポップスフリークにはコーラスのお姉さん・本田淳子として、いろんな角度のマニアックな人たちからは結構おなじみのアーティストだったりします。

 ファーストアルバムとセカンドの2枚は91年にCD選書シリーズで初CD化となった後、2005年にもCITY POP名盤復刻シリーズの「 Heart To Heart 」「 Love Heart 」として再発済み(ということでこの2枚は今回で3度目のCD化となります)。

 さらにポニーテール時代に残したアルバムも2008年にブリッジから「 GREETING CARD(紙ジャケット仕様) 」として復刻されていますから、折に触れ再評価されてきたと言えますが、ソニー時代は同じタイトルの再発だったので、残りを切望する人は多かったのです。

 ところで、ラジがソロデビューした77年、CBS・ソニーの女性ニューミュージックアーティストの2大巨頭といえば五輪真弓と太田裕美。70年代初頭のエポックメーキング的といいますか、それまでにない存在といいますか、いかにも新たな道を切り開いていたソニーらしいアーティストだったワケですけど、そんな中、ラジはひときわハイセンスで、唯一のシティポップス・シンガーとして登場したのであります。

 それは、当時の主流である大衆性とは無縁ということも意味しますが、ラジのほぼ同期といえる新人が、五輪さんの中曽根プロデューサーが手がけた渡辺真知子、太田さんの白川プロデューサーが手がけた中原理恵ということでお分かりいただけるでしょうか。
 ナウで新鮮なキャラクターや音楽性に、野暮な大衆感を重ねて売り出すという成功の図式に、ラジだけが当てはまらない…。

 やはり、ラジを担当したプロデューサーが高久光雄さんだったことが大きかったのではないでしょうかね。
 高久さんと言えばもちろんシティミュージック。国内制作部門では矢沢の永ちゃんを経て担当した南佳孝さんに尽きますが、ラジは音楽的にも佳孝さんとペアになる感じだったのですから、当時の大衆性とは違う次元というか、理解されるには時代の先を行き過ぎていた感があります。

 実際、ラジのファースト&セカンドアルバムに収録されていた2曲を“ラジ&南佳孝”名義でリカットしたデュエットシングル「クール・ダウン/ザ・トーキョー・テイスト」など、ラジはそういう高久さんの卓越したセンスが似合う人でもあったワケで、極めて洋楽的であり、玄人受けという雰囲気だったのです。

 であるからして、今聴くとなお素晴らしく再評価が高い…ということになるのだと思いますが、今回初CD化となり先に発売されるのは、ソニー時代の残りとなるサードからの「 キャトル[Blu-spec CD2] 」「 真昼の舗道[Blu-spec CD2] 」「 アコースティック・ムーン[Blu-spec CD2] 」という3タイトル。

 いずれも同時期の佳孝さんのアルバムと並行して聴いてみると、2倍も3倍も美味しいんじゃないかと思います。また、今回は紙ジャケ復刻なので、佳孝さんのアルバムと同様、高久さんならではのこだわりを満載した素敵なアートワークも堪能できると思います。
 しかもラジ本人とユキヒロや、高久さん、吉田さんのインタビュー・ライナーノーツも封入されるんだとか。これは即予約決定ですね。

 3枚をカンタンに紹介しますと、まずは79年10月発表のサードアルバム「 キャトル[Blu-spec CD2] 」。
 前2作に引き続き高橋ユキヒロがサウンドプロデュースを担当し、ユキヒロ自身にお兄さんや佳孝さんが楽曲を提供。リカットシングル「キャトル/わたしはすてき」を含む全10曲ですが、安井かずみ+加藤和彦コンビによる「一枚のフォトグラフ」をはじめ、ほのかに漂い始めたヨーロッパテイストが魅力です。
 出色は、後に岩崎宏美もカバーした大貫妙子・不朽の名曲「風の道」。昨年末のター坊トリビュート盤「 大貫妙子トリビュートアルバム - Tribute to Taeko Onuki- 」で初CD化されたばかりですが、個人的にはアルバムの流れでこの曲を聴けるのがウレシイ。
 あとは、矢野顕子+坂本龍一という愛を育んでいた2人の「わたしはすてき」。アッコちゃんがブレイク後、ことあるごとにラジオでかけていたことを思い出します。

 続いては80年11月のフォース「 真昼の舗道[Blu-spec CD2] 」。
 これももちろんユキヒロのサウンドプロデュースですが、世界でYMOがブレイクした後とあって、ラジの中では最もテクノ色が強いのですが、そこはホソノさんの金井夕子みたいな唐突感はなく、時代の音の中で収まっている感じ。同時期におフランス路線へとシフトした大貫妙子さんが4曲も関わっていることもあってか、ヨーロッパ色が最も色濃い印象ですね。
 また、時代の寵児だった糸井重里さんも作詞で参加し、彼が詞を書いた「ラジオと二人/ヨジレアン・ツイスト」、そして「偽りの瞳/霧の部屋」という2枚がシングルカットされています。そういえば、シングル「偽りの瞳」と同時発売で競作となったPLの「Last Pretender」はイトイさんの作詞でした。
 なお、ター坊の「アパルトマン」と杉真理さんの「ラジオと二人」、鈴木慶一さんの「ヨジレアン・ツイスト」の3曲は、2005年の「イエローマジック歌謡曲」と2007年の「ムーンライダーズのいい仕事!Sony Music編」というコンピ盤でCD化済みです。

 そして81年11月、サウンドプロデュースを当時、寺尾聰でノリにノっていた井上鑑に委ねたフィフス「 アコースティック・ムーン[Blu-spec CD2] 」。
 この年見事にブレイクを果たした佳孝さん作の「ブラック・ムーン」「薔薇のグラス」「パラダイス・ワイン」も験を担ぐように収録。さらには筒美京平先生も起用するなど歌謡ポップスのエッセンスも加えたラジ。
 より分かりやすく、佳孝さんに続くブレイクを狙ったように思えるのは穿ちすぎでしょうか。
 しかもですね、ちょうどこの時期、“磨かれて、ブラック。maxell”というキャッチコピーのもと、大貫妙子、吉田美奈子とともに3人娘(?)的にマクセルのCMに起用。スカイラインジャパン以来とも言える大型タイアップがついたのに…。
 そのシングル「ブラック・ムーン/パズル・ヌーン」と、「Do You Wanna Dance/Rosy Blue」の2枚のシングルを含む渾身のアルバムですが、最大のチャンスに乗り切れなかったのでした。

 結局はこれにて終了、ソニーから新譜を発表することがなかったラジですが、高久さんが制作畑を離れたタイミングと時を同じくするように、84年に東芝EMIへと移籍。
 シングルは強力なタイアップ付きで、柳沢きみおの漫画が原作のドラマ主題歌「瑠璃色の恋人達」と、タイ国政府観光庁のCMソング「夢色伝説」という2枚をリリース。アルバムも、それぞれのシングルを収録した「午後のレリーフ」と「エスプレッソ」という2枚をコンスタントに発表しましたが、大きなヒットにはなりませんでした。
 87年にはそれらをまとめたベストCD「ニュー・ベスト・ナウ」が出ていましたが、当然廃盤となっています。

 ソニー時代の全復刻が叶った今、それに続けとばかりEMI時代も復刻が待たれるところですが、ベストCDはデジタル配信(amazon「 ニュー・ベスト・ナウ/RAJI 」、iTunes「 New Best Now/Raji - ラジ 」など)されていますので、待ちきれない方はぜひダウンロードを。

 なお、今回はまず初CD化3作が発売された後、翌月にファーストの「 ハート・トゥ・ハート[Blu-spec CD2] 」とセカンドの「 ラヴ・ハート/ラジ・2[Blu-spec CD2] 」が3度目のCD化となりますが、この2タイトルは2005年盤がまだ入手可能ですし、既発CDを持っているという方もかなりの数に上るはず。
 ちょっと躊躇してしまうでしょうが、統一感を考えると同じ紙ジャケでそろえたいし、ブルスペ2だし、インタビューも入ってるしで、やっぱり買い換え、買い増ししたい感じですね。であるからして、願わくば大野さん同様、一刻も早く一般流通してほしい限りです*。


(2014.8.28)

*2015年1月11日よりタワーレコードでの取り扱い開始が決定しました!

*2015年3月11より一般流通も開始され、 HMV icon などでも取り扱いがスタートしています。


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