87年の傑作ライブが紙ジャケSHM-CD化!
1987年の矢野顕子。といえば、80年の「 ごはんができたよ 」以来定着した“ほんわかお母さん”のイメージ通り、母親業の真っ最中でした。
矢野誠さんとの長男・風太くんや、坂本龍一さんとの長女・美雨ちゃんのお母さんとして、登校時の母親当番やPTAの地域委員など学校関係の任務もピーク的に忙しかったのは、当時のファンなら誰もが知っていることだったと思います。
事実、家事や育児のため出前コンサートもやめざるを得ないという状況で、ついには音楽とは両立できないと決断し、暮れには家庭の事情という理由で休養を宣言。今なら育休ということで何の疑問もないことでしょうが、アグネス論争以前だった当時は大問題。
写真週刊誌には引退と書き立てられ、ツアーに至ってはさよならコンサートとまで言われるなど、ご本人もそれを否定しない中、ファンの方も相応の覚悟をもって応援していたのでした。
その美雨ちゃんも昨年結婚し、先日には1年遅れのウエディングパーティーも開かれたようで、なんともはや歳月の早さというものを実感しますが、その時に出たアルバムというのが昨年、紙ジャケ・SHM-CD化された「グラノーラ」(こちらで紹介)。
そしてその時のツアーが「グラノーラ・ツアー」だったワケですが、このたびそのツアーのライブ盤も紙ジャケSHM-CD「 グッド・イーブニング・トウキョウ(紙ジャケット仕様) 」としてリリースされることになりました!
「グラノーラ」はアッコゃん自らが「矢野顕子の集大成、身辺整理」と語ったアルバムでしたから、そのツアーもまさに集大成であり、セットリストを厳選したライブ盤は、さらに凝縮させたエッセンシャル・アッコちゃんという内容。
バッキングも、坂本龍一をはじめ、高橋幸宏、小原礼、吉川忠英という盟友諸氏から、当時若手で目をかけていたパール兄弟の窪田晴男までという豪華な布陣。さらにはゲストとして大村憲司も参加するという、ベスト・オブ・矢野顕子にふさわしいメンツでした。
このライブ盤は、87年12月20日、21日に今はなき東京厚生年金会館で行われた東京公演の実況録音盤ですが、初期の「電話線」「クマ」から、「いもむしごろごろ」「ちいさい秋みつけた」といったおなじみのピアノ弾き語り、当時の最新曲であり知名度の高いCMソング「わたしたち」「花のように」など、気心も技量も知り尽くした仲間たちと純粋に音楽に向き合う様子は、時には緊張感たっぷりでスリリングであったり、時にはほのぼのムードに包まれ微笑ましくあったり。
いずれにしても、真摯に楽しんでいる様子はライブ盤からもしっかり伝わって来て、なんだか聴いているだけで愛に満たされ、気分も弾んできます。
ベストパフォーマンスは、NHK「みんなのうた」として知られる「ふりむけばカエル」。
あれから27年以上経った今も、忠英さんのバンジョーに合わせてタンバリンを持って踊る様子が目に浮かぶようです。
ラストに収録された大村憲司参加のアンコール曲「また会おね」も、涙なしには聴けませんね。
余談ですが、このライブのパンフレット。ビックリハウスの花編アッコこと高橋章子さんが監修したモノなのですが、とにかく素晴らしくて、巻頭にはペーター佐藤やナンシー関がアッコちゃんを描いたイラストも載っていたり、読み終えればアッコちゃんの嗜好と思考が分かる感じで、個人的には色んな意味でバイブルでした。
また、このライブ盤はヘタウマなジャケットが印象的ですが、そのイラストを描いたのは、当時12歳ぐらいだった風太君。当時坂本家が一家で可愛がっていた野良猫・モドキもいたりして、何とも味のある絵ですよね。
そういえば当時の予約特典はこのイラストのバンダナだったことを思い出します。
当時、これでポップスでやるべきことはすべてやり尽くした、もう今までのことには興味がないと語ったアッコちゃん。
結局、この後約1年間休業し、自らの音楽のコアでもあるジャズへと回帰。89年の春には、パット・メセニーらも参加した超傑作アルバム「WELCOME BACK」を発表するのですが、今回はコレも紙ジャケSHM-CD「 ウェルカムバック(紙ジャケット仕様) 」として同時発売。
個人的には、ライブ盤と甲乙付けがたい感じで愛聴しておりますので、未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひお聴きいただきたいと思います。
今はNY在住で、アメリカと日本を行ったり来たりしてホント精力的な活動をなさっているアッコちゃん。
今月には、デビュー前からの付き合いであるTIN PAN(細野晴臣、林立夫、鈴木茂)と昨年末に共演した「さとがえるコンサート」の2枚組ライブ盤(初回盤はブルーレイ付きの3枚組「 さとがえるコンサート(完全生産限定盤) 」)もリリースされましたし、5月には昨年出た最新アルバム「 飛ばしていくよ 」のピアノ弾き語りバージョンのライブツアーも予定されています。
天才なのに鍛錬を欠かさない努力の人ですから、ますます進化していますが、近作をこの87年のライブ盤と聴き比べてみるのも楽しそう。
ともあれ何百回いや何千回と聴いたアルバムがリマスタリングの音でどうなっているか、愛聴盤のリイシューならでは、今から期待感が高まっております。
(2015.3.21)