30周年第2弾! ミッチョンが歌う“風街詩集”
今年、デビュー30周年を迎える85年組。新作や復刻CDのリリースから、記念ライブの開催まで、各人いろんな企画がゾクゾクと登場していますが、復刻もので活発なのが“輝け!ミッチョン”というキャッチフレーズで85年3月21日にデビューした芳本美代子。
ミッチョンの30周年記念企画はリマスタリング復刻で、今週ライブ盤の再発(こちらで紹介)で口火を切りましたが、発売日を迎えたタイミングで続く第2弾の発売もアナウンスされました!
第1弾は「芳本美代子、松本隆を歌う」とでもいうべきライブ盤でしたが、今回はオリジナルアルバム。いずれも松本隆さんが関わった「 SURF WIND 」「 パラダイス・パーク 」「 WING 」という初期3タイトルの一挙再発です!
当時の松本さんは松田聖子ワールドを確立させ、押しも押されもしない御大という感じでしたが、85年はその聖子が結婚休業で不在となった年。
引きも切らぬオファーがあったのは想像に難くありませんし、事実、松本さんがデビュー曲から詩を書いた85年の新人は斉藤由貴と中山美穂と、鳴り物入りの大型新人、それも両巨頭が顔をそろえているほど。
しかしですね、シングルだけでなくアルバム曲も手がけた女性アイドルはミッチョンだけだったのです(男性では野村宏伸、なお「セプテンバー物語」の児島未散はアイドルとはとらえていません)。
そういう意味でも、ミッチョンは松本さん渾身のアーティストであり、アイドルとしてのミッチョン像を構築したのはほかならぬ松本さんと言えるのではないでしょうか。
中でも86年7月発表のファースト「 SURF WIND 」は、デビュー曲「白いバスケット・シューズ」を含む10曲全部を作詩しているという、まさに松本隆プロデュースアルバム。
作曲陣は、2枚目までのシングルを共作した井上大輔さん(「ムーンライト・クルーズ」「First Impression(第一印象)」)のほか、おなじみのチューリップの財津和夫さん(「微風(そよかぜ)のハンモック 」)と宮城伸一郎さん(「クレープ・シュゼット」「ハイビスカスの夏」)、名アレンジャー・萩田光雄さん(「月影のシルエット」「リボンのない贈り物 」)、おニャン子クラブでアイドルポップスを席巻することになる佐藤準さん(「透明なエレベーター」「P・I・N・K」)と多彩。
ミッチョンの可能性を探った結果、声質も含め、キュートでありながら豊かなボーカルの魅力が証明できました!という感じでアイドルのファーストとしてはハイレベルな好盤という印象ですが、あらためて聴いてみると、ミッチョンには松本さんの描いた風街少女の詩世界を大きく広げる力があったことを確認できるのではないかと思います。
太田裕美ファンなら「やさしい翼」「ピアニシモ・フォルテ」「ガラスの腕時計」を手がけた萩田さんとのコンビに注目したいところですが、ミッチョン的にはやっぱり盟友・財津さんの起用がポイント。
松本さんの聖子作品は、ひと足先に提供を始めていた財津さんとのコンビがスタートでしたので、どうしても聖子の成功体験を狙ったように穿ってしまいますが、新人賞レースを控えたミッチョンにとって松本+財津コンビは非常に重要な意味を持っていたように思います。
スペクター風のデビュー曲にしても、ジョニー・ティロットソンの「キューティ・パイ」みたいな第2弾シングル「プライベート・レッスン」にしても、ネアカな60年代オールデイズテイストで進んだ路線を、財津さんとのタッグで知的でソフィストケイトされた80年代ポップスへとシフトさせたのですからね。
それは、この後に出した第3弾シングル「雨のハイスクール」の出来栄えが実証しているように思います。
余談ですが、あくまでリスナーとしての当時の印象を言うなら、ミッチョンの楽曲にはアメリカンスクール的なイメージコンセプトがあって、最初に井上大輔さんが起用されたのは、忠夫時代にやったフィンガー5のアメリカンポップス的な学園もののイメージと重なったように推測していました。
事実、素のミッチョンはそういう大胆な感じだったと思いますし、後にはその本性を現すのですが、デビュー当時ブラウン管やグラビアを通して感じていたイメージは、もっと大人しくって、どちらかといえば内気な子ぽかったんですよね。
そういう印象に「雨のハイスクール」はぴったりマッチし、大村雅明さんの匠アレンジの効果と相まって、いまだに名曲として支持されているのではないかと思います。
さすが松本さんの作詩家デビュー曲にして初ヒットとなったチューリップの「夏色のおもいで」からのコンビですよね。
話がそれましたが、デビュー2年目の86年にかけても、メイン作詩家は松本さん。第4弾「アプリコット・キッス」、第5弾「心の扉」というシングル曲はもちろんアルバムも同様で、4月発表のセカンド「 パラダイス・パーク 」では全6曲を作詩。
財津さん(「心の扉」「乙女の祈り」「水玉模様のラブレター」) 、宮城伸一郎さん(「パラダイス・パーク」「渚のジェット・コースター」)、そしてた佐藤準さん(「ラビット語でささやいて」)というファーストアルバムで共作した3人と引き続きタッグを組んでいます。
この年の松本さんは、新人では山瀬まみに尽力する一方で、聖子の復帰作、薬師丸ひろ子の名作と、奇跡の名盤を次々にプロデュース。詩のクオリティを落とすことなく、同時期には小説書いて映画を撮ってという離れ業もやってのけていますから、ただただ驚くばかりです。
さて、デビュー以来スマッシュヒットは続くもののトップ10の壁を越えられなかったミッチョンですが、6枚目のシングル「青い靴」では作曲に筒美先生を迎えてイメチェン。ついにオリコン10位を記録するのです。
さすがはゴールデンコンビ。ちなみに、おニャン子を除く85年組の女性アイドルでトップ10入りしたのは斉藤由貴「卒業」「初戀」「情熱」、本田美奈子の「Temptation-誘惑-」、中山美穂「生意気」「BE-BOP-HIGHSCHOOL」。そう、いずれも松本隆+筒美京平コンビの作品でしたから、年度が変わったとはいえミッチョンがトップ10入りしたのは当然といえば当然なのでした。
ゴールデンコンビは引き続いてトップ10入りシングルとなった「Auroraの少女」も手がけましたが、この2曲を収録したサードアルバムが86年10月発売の「 WING 」。
ここでの松本作品はあと2曲あり、盟友・南佳孝さんもついに仲間入り。大村雅朗さんアレンジの布陣で「ストライプのソックス」「Magic Garden」を提供しています。
というミッチョンのオリアル3タイトル。
いずれも当初からCD発売されていたものなので、今回はアルバム未収録の全曲をボーナストラックとして収録していただければ言うことなしなんですけど…。*
特に12インチのミニアルバム「MIYOKO WAVE」に収録されていた「霧のタートル・ベイ」「真夏のシーソー」は未CD化のようですしね。
ちなみにアルバム未収録の松本作品は「海辺のテレフォン・ボックス」「プライベート・レッスン/Endless Love Song」「雨のハイスクール/ワンサイデッド・ラヴ」「アプリコット・キッス」「天然色の夏」「Feel So Fine」、そして「青い靴(ロング・バージョン)」「霧のタートル・ベイ」と結構多いですが、「霧のタートル・ベイ」以外は2枚組ベスト「 芳本美代子:コンプリート・80’sシングルズ 」(こちらで紹介)で補完できます。
思えば99年の松本隆作詞活動30周年記念企画「風街図鑑」はもとより、2007年の松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」(こちらで紹介)にも、2009年の「新・風街図鑑」(こちらで紹介)にも、ミッチョンの松本隆作品は一切セレクトされておらず残念に思いましたが、ミッチョンは80年代後半を代表するれっきとした風街少女の1人。
松本さんのファンで、まだミッチョンの詩を鑑賞したことのない方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会にどうぞ。
(2015.3.18)
*ボーナストラックとして、オリジナルアルバム未収録のシングル曲などが追加収録されるそうです。
*芳本美代子の歌手デビュー30周年記念企画は、第1弾が2015年3月18日発売の「
ミ・ヨ・コ~Friendship Concert ’85~
」、第2弾が5月20日発売の「
SURF WIND
」「
パラダイス・パーク
」「
WING
」、第3弾が6月17日発売の「
I’m the one
」「
YESTERDAY’S
」「
Miss Lonely Hearts
」、第4弾は7月22日発売の「
Power of Love
」「
「MY」
」となっています。
*芳本美代子30周年復刻企画第5弾として、映像ソフトもDVD「
ミ・ヨ・コ~Friendship Concert’85~ [DVD]
」(TEBN-32065、¥2,963+税)、「
EXPLOSION [DVD]
」(TEBN-32066、¥2,963+税)として2015年8月19日に復刻されることになりました。