名盤の誉れ高いファースト、3度目のプレスへ!
今や三人の跡継ぎを産み育てた梨園の良妻として、押しも押されもせぬ存在となった三田寛子さん。
先日の「徹子の部屋」でも堂々とした振る舞いで、本格的な仕事再開への意欲も見せていらっしゃいましたが、今となってみれば、花の82年組を代表するアイドルだったこともまるで夢のようです。
思い返せば81年のTBSドラマ「2年B組仙八先生」でシブがきトリオとともに注目を集め、年季が明ける82年3月に歌手デビュー。
百恵ちゃんとバトンタッチするように聖子が大ブレイクしたCBS・ソニーにおいて、ポスト百恵の後継者争いに敗れたご本家・酒井政利プロデューサーが大いに期待し、久方ぶりに力を注いでいたアーティストでした。
暗い瞳や出自もさることながら、はんなりおっとりの京都弁が抜けきらぬ感じは薄幸かつ亡羊。確かに百恵ちゃん以来の大物の風格がありましたし、わかりやすい同期のアイドルたちとは明らかに一線を画していたものです。
あのドラマシリーズの不文律である番組終了のタイミングを待ってのデビューは、沖田ヒロくんの時よりはタイミングも悪くなかったと思いますし、事実、熾烈な3・21デビュー戦争では一歩先行く知名度や本人出演のカルピスソーダとのCMタイアップなどを武器に、トップの期待度だったのです。
それを証明するように、楽曲の布陣も超豪華。阿木燿子+井上陽水によるイメージ通りのデビュー曲「駈けてきた処女」( レコード・コレクターズ 2014年 11月号 の「日本の女性アイドル・ソング・ベスト100 1980-1989」特集では64位にランクイン)から、アイドルポップスを突き放したような唯一無二の路線を進んだのですから。
他の82年組がファンシー文具だとしたら、三田寛子はブランドのステイショナリー。篠山紀信撮影のポートと相まって、南沙織から山口百恵へと継承されたCBS・ソニーの由緒正しいDNAを、聖子よりも正当に受け継いだアイドルシンガーとして活躍するはずでした。
そんな最中に出たファーストアルバムが、今回オーダーメイドファクトリーのアンコールプレス候補として、再々エントリーされた「 16カラットの瞳 」。
全アルバムがOMFで復刻済みの彼女ですが、このファーストアルバムが候補に挙がるのは実は3度目。
最初は2005年で、当時はOMFが2部制だったのと、企画自体がまだ市民権を得てなかったため、1st STAGEクリアにも時間がかかり、翌年ようやく2nd STAGEに進出したものの難航。青息吐息でどうにか初CD化が実現したのでした。聞くところによると、この時は1人の尽力による滑り込みセーフの達成だったとか。
2度目は、それから4年後の2010年。この時はアンコールプレスにつき即予約だったので余裕で達成。セカンドアルバム以降の復刻がトントン拍子に進む追い風になりましたから、やっぱりタイミングというものを感じずにはいられませんでした。
そしてまた4年後の今。これまで2度のチャンスがあっても買わなかったのか、後になって欲しくなったのか、持っていない人たちも結構存在していたようで、中古市場ではかなり高騰していた模様。今回、再びのアンコールプレス候補として、3度目のエントリーとなった次第です。
肝心の内容は、デビューシングル「駆けてきた処女/何故ですか」を含む全10曲。女優デビューの彼女らしく台詞が入るところもポイントですが、アナログ盤のA面はやっぱり作詞家・阿木燿子の独壇場。
阿木さんならではの冴えわたった感覚が、青い性も交えつつ、つかみどころのない三田寛子のイメージをしっかり構築しています。当時売れっ子だった網倉一也さんのメロもキャッチーですよね。
これに拮抗するようにB面では黒住憲五、兵藤未来、安藤芳彦ら当時注目されていたシンガー・ソングライターやミュージシャン勢の作品も粒よりで、ラスト2曲「Mission In the Midnight -私を愛したスパイ-」「Bon-Voyage 眠りの海へ」で見せた危ういけれどもクセになる表現力には驚かされます。
それと、忘れてはならないのがドラマの恩師2人、担任の伊達仙八郎先生と、副担任・安子先生の後任を務めた榊原解子先生からのプレゼントです。
仙八先生のさとう宗幸が書いた「忘れかけた子守唄」もおっとり素朴な一面を映していて良い出来ですが、特筆すべきは解子先生こと川口雅代作の「ジャパニーズ・ガール」。
三田寛子というボーカリストは、パブリックイメージの哀愁漂うミディアム系ではなく、意外にもアップテンポでこそ生きるグルーヴ感の持ち主であることをこの曲が証明しております。
これが、キョージュアレンジにしてテクノ歌謡の名曲と称えられる第2弾シングル「夏の雫」での路線変更へとつながったような気がしますが、どうでしょうか。
という鳴り物入りのデビューアルバム。未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会にどうぞ。
なお、南沙織とブレッド&バターをカバーしたシングル「色づく街/ピンク・シャドウ」をフィーチャーしたセカンドアルバム「 メランコリー・カラー +3 」(こちらで紹介)をはじめ、村下孝蔵の競作カバーヒット「初恋」を含む京女のはんなりサード「 夢路 +1 」、のちに開花するバラドルの素質も垣間見えるハーフベスト的4th「 Mosaic +1 」、中島みゆき書き下ろしのシングル「少年たちのように/愛される花愛されぬ花」やカレッジフォークのカバーで構成したラスト「 少年たちのように +4 」(こちらで紹介)の4枚もケイゾク商品として販売中です(残念ながら映像商品「 三田寛子 アイドル・ミラクルビジョン 」は商品化が実現していません)。
これまで食指が動かなかった皆さんも、この際コンプリートしてみては。意外とよろしおすえ。
(2014.10.15)