オススメ復刻盤「太田裕美／12ページの詩集」

　昨年末こちらでご紹介したBlu-spec CD2による名盤復刻シリーズ。まさに21世紀のCD選書と呼べる企画で、今後の活発なリリースに期待したいところですが、ラインアップを見るにつけ大ヒットしたオリジナルアルバムではあるものの、意外によく知らないという人も多いみたいです。
　それならば！というワケで、発売までの間、主立ったタイトルをアーティスト別にピックアップさせていただこうかと思っております。

　で、まず最初に取り上げますのが、今回のラインアップの中では個人的に最も聴いてきた太田さん。このたびBlu-spec CD2化されるのは、ブレイクアルバムにして最大のセールスを記録したサード「 心が風邪をひいた日 」（オリコン最高５位）から発売順に「 手作りの画集 」（３位）、「 12ページの詩集 」（９位）という3タイトルです。

　いずれも大ヒットを記録し太田さんがアイドル歌謡曲とフォークの中道路線を定着させ、アルバムアーティストと言われるようになったきっかけのアルバム群ですが、すべてCD選書で91年に初CD化されて以来、現在もカタログで生き続けるロングセラー。2008年にはBOXで紙ジャケ化されていますので、今回はいったいどう高音質になっているのかが最大のポイントといえるでしょう。

　太田さんの場合、アルバムごとに明確なコンセプトを貫いているためか、ハズレなしの名盤が多いといわれていますが、特にこの３枚は三者三様。甲乙つけがたい魅力を放っておりますが、希有なボーカリスト・太田裕美の魅力を堪能できるという意味でオススメなのが、76年12月リリースの「 12ページの詩集 」です。

　この年「木綿のハンカチーフ」「赤いハイヒール」とハンドマイクで明るく歌うアイドルっぽいシングルを連続ヒットさせ、大ブレイクを果たした太田さんですが、続く文芸フォーク「最後の一葉」ではガラリと一変、憂いをたたえたピアノ弾き語り路線に戻します。

　その流れで発売されたのがこのアルバムというワケで、ジャケットはフォーク系アーティスト御用達のTAMJINこと田村仁さん。拓郎みたいな雰囲気を意識したという目線が外れたカットからして、フォークの匂いプンプンですが、内容もまさにフォーク・ニューミュージックのカラーを打ち出たものとなっています。

　驚くのが豪華なメンツで、メイン作家の松本＋筒美のゴールデンコンビによる楽曲はシングル曲「最後の一葉」だけで、あとはDTBBや百恵ちゃんで一躍ヒットメーカーとなった阿木＋宇崎コンビや、ユーミン、正やん、チンペイ、イルカ、山田パンダ、田山雅充らシンガー・ソングライター勢が提供しているのです。
　白川隆三さんらスタッフの尽力によるものでしょうが、当時としては話題を独占、ホントに夢のアルバムでした。なお、当初は拓郎、こうせつ、さだまさしらの参加も予定されていたんですよ。　

　と、どうしても作家陣のことばかりが語られがちですが、忘れてはならないのが、力まずナチュラルでありながら強烈な個性たちをあっさり消化しきった太田さんのボーカル力と、アルバムとしてのトータル感を貫いた萩田光雄さんのアレンジ力。
　特に太田さんの歌は、それぞれにクセのあるナンバーを自分の世界へと引きずり込むのではなく、楽曲の個性に寄り添うようにして自分色に染め上げている感じで、感嘆してしまうのですね。これぞ真のボーカリストの才能というものでしょう。
　それまでの少女っぽいロリ声から大人の女性という感じのまろやかなファルセットも必聴です。

　名曲、名唱ぞろいのアルバムですが、当時から人気ナンバー1だったのが、風のバージョンがリリースされる前にプレゼントしてくれたという「君と歩いた青春」。5年後の81年にはシングルカットされたこともありますし、近年はなごみーずとして正やんと活動を共にしているので今もよく歌われております。
　また、近年ユーミンのネットライブでセルフカバーされ再評価が高まった「青い傘」や、後年イルカの妹分であった沢田聖子もカバーした「ミモザの下で」、太田さんの舌足らずな歌声を強調させた阿木＋宇崎作品「あさき夢みし」、後にデビューする筒美先生の秘蔵っ子・ケン田村の小品「カーテン」、太田さん自身「こんなにいい曲が書けた」と大喜びしていた「恋の予感」などなど、聴きどころ満載。未聴の方は、損はさせませんので、まず一度騙されたと思ってお聴きください。

　ちなみに「 心が風邪をひいた日 」は75年12月発売。かの「木綿のハンカチーフ」のオリジナル・バージョンを収録し、人気を決定づけたサードアルバムです。デビュー当初の路線が残るものの松本隆さんの本領が発揮され、ニューミュージックの流れに先鞭を付けた記念碑的な作品といえるのではないでしょうか。
　オリコンのカセットチャートでNo.1を記録したことも、大学生や会社員を中心にドライブミュージックとして重宝されていた太田さんの立ち位置を証明する出来事ですネ。
　収録曲も粒よりですが、何と言ってもユーミン作曲の「袋小路」と「ひぐらし」が出色。70年代を感じる「青春のしおり」や「七つの願いごと」などピアノをフィーチャーしたナンバーのほか、ドラマの挿入歌にもなった自作曲「水車（みずぐるま）」などアラカルトな名作となっています。

　続く「 手作りの画集 」は76年6発売。松本＋筒美コンビのワザが冴え渡った名盤で、大ヒットシングル「赤いハイヒール／茶いろの鞄」をベースに、色がテーマのものや絵画風の作品で構成されています。
　そのためジャケットも絵画風で歌詞カードには各曲の絵が付いていましたが、ザンネンながらCD選書ではカットされていたので、今回再現されるか気になるところです。
　ともかく作品のクオリティといい、あの歌声の伸びといい、上り調子の絶好調さを実感できることでしょうし、ロリ声フェチの方には「ハネムーン・ララバイ」をオススメしますぞ！
　あ、このアルバムの松本さんの詩は翌77年の「こけてぃっしゅ」へと続く流れで、松田聖子のベクトルに連なるものだと思いますので、ぜひ聖子ファンにも聴いていただきたい１枚です。

（2013.1.16）

＊太田裕美さんの2013年の新録曲は「希望」。NHKで放映されたテレビ60周年記念ドラマ「メイドインジャパン」の劇中社歌で、太田さんのバージョンはエンディングでオンエアされました。音源はサントラCD「 テレビ60年記念ドラマ『メイドインジャパン』オリジナルサウンドトラック 」または音楽配信（amazon「 希望 」など、いずれも単独ダウンロードで￥150）で入手できます。

　なお、太田裕美コンサート2013〜まごころ39〜は、2013年5月18日(土)の京都・呉竹文化センターをはじめ、6月7日(金)、7月5日(金)の東京・渋谷Mt.RAINIER HALL などで予定されています。


＊名盤復刻シリーズについての詳細は、特設サイトまたは   SonyMusicShop をご参照ください。
　復刻タイトルのリクエストもできます。