美しきソフトロックの名盤、15年ぶりに再発!
進駐軍のキャンプ回りから数えて、昨年で歌手生活60周年をお迎えになった伊東ゆかりさん。
そのキャリアには戦後ニッポンがたどった道筋がしっかり刻まれるとともに、生粋の職業歌手にして、丁寧かつ完璧な歌唱力には昔から定評がありますし、個人的にも「日本にはこんなに素敵な歌手がいます!」と胸を張って言える代表の1人だと思っていますが、昨今は70年代に移籍したコロムビア時代、それもニュー・サウンズ系レーベルだったデノンに残した音源にまたまた注目が集まっております。
今月には筒美作品集(こちらで紹介)が出ますが、コレに続き、けだし名盤の「 LOVE 」も再発も決定いたしました!
オリジナル盤のリリースは1971年ですが、ソフトロックブームの兆しが見えた99年にVIVIDが初CD化し、凄まじい再評価を集めたこのアルバム。あれ以来15年ぶりの再発となりますが、今回はW紙ジャケット仕様で、最新デジタル・リマスタリングとのこと。お値段がチョイ高くなってはいますが、前回のCDをお持ちの方でも、思わず買い換えを考えてしまうことと思います。
キング時代はカバーポップスを経て、ドメスティックな歌謡曲や本場&和製カンツォーネで大ヒットを飛ばしたゆかりさんですが、コロムビア・デノン時代は洗練へとシフト。
中でもこのアルバムは、国内制作の洋楽レーベルとでも言うべきデノン・インターナショナルから出たことでも分かる通り、全曲英語によるまったくの洋楽テイスト。
“ゆかりとニュー・サウンズ”というコピー通りの世界で、うたの森林浴のような傑作「グリーン・ジンジャー・フライング」と「アンド・ナウ・アイ・ノウ」というオリジナル2曲を除き、当時の洋楽ヒットのカバーがズラリ。
タイトル曲でもあるジョン・レノン「愛」をはじめ、ジョージ・ハリスン「マイ・スウィート・ロード」、エルトン・ジョン「僕の歌は君の歌」、カーペンターズ「ふたりの誓い」「遥かなる影」、フィフス・ディメンション「悲しみは鐘の音と共に」、アンディ・ウイリアムス「ある愛の詩」、CSN&Y「僕等の家」などなど、選曲のセンスもグーですが、エバーグリーンなのは、やっぱりアレンジとバッキングです。
東海林修先生が全曲を編曲なさった上、バックを含めすべて同時録音の総指揮を執られたそうですので、グルーヴィーな一体感と緊張感の中に、プロとして音楽を楽しむ余裕さえ感じられて、とても心地が良いのです。
名義は、伊東ゆかりとグリーン・ジンジャーとなっていますが、グリーン・ジンジャーとはコーラスユニットで、スターゲイザーズの岡崎広志さんと、シンガー・スリーの伊集加代子さんというフォー・シンガーズにいた2人(今ではお二人とも大御所中の大御所)に、東海林先生が加わったものだとか。
このアルバムのためのグループだったようですが、昭和40年代半ばにここまでハイレベルでお洒落なコーラスが日本であったということに驚きです。むろんゆかりさんのクールで確かなボーカルがあってこそですけれど、そのへんはお洒落なバカラックナンバーよりも、ショウビズっぽく濃くなりがちな「マイ・ウェイ」あたりの方が如実かもしれません。
先ごろ初CD化となった布施明さんのバカラックアルバム「 布施明がバカラックに会った時(紙ジャケット仕様) 」も素晴らしいですが、やっぱりボーカルは濃いですもんね。
なお、プロデュースはデノンに原盤供給していたマッシュルーム創設者でもあった村井邦彦さんと川添象太郎(象郎)さんですから、お洒落なのは推して知るべし。ミュージカル「ヘアー」の香りもそこはかとなく漂っていますし、ソフトロックといいますか、あの当時のラブサウンド好きなら、未聴のままであっても迷わず買って損はないと思います。
CDショップが元気だった15年前の初CD化の時は、タワレコの日本のソフトロックコーナーのみならず新星堂の片隅でも平積みや面出しされていましたが、状況が一変した今回、その光景を見ることは難しいでしょうね。残念な限りです…。
イレギュラーシングルとはいえ「グリーン・ジンジャー・フライング/遥かなる影」がリカットされたのも驚きですが、よく考えると当時はレコード音楽はまだ大人のものでしたし、アメリカン&ブリティッシュロックはもちろん、フレンチポップス、フォーク、カンツォーネ、映画音楽などの洋楽も一体となって、歌謡曲と一緒にヒットチャートに上り、テレビやラジオはもちろん、お茶の間でも街角でもごく普通に流れていたんですよね。
そういう意味では、至極トーゼン、時代を反映させたアルバムと言えるかもしれませんし、ゆかりさんがまたこういう新作を出してくれることに期待しつつ…再発盤を入手したいと思います。
(2014.5.9)