ラグジュアリー歌謡×タワレコで、名編曲家のソロが復刻!
大阪万博から最近のアイドルまで、80年代を中心にした洋楽感覚の歌謡曲を“ラグジュアリー歌謡”という斬新な切り口でチョイス。80年代のパーラー気分で楽しむという味わい方はとてもキャッチーで、ソフトロック・ドライヴィンや喫茶ロック、ディスコ歌謡、テクノ歌謡など数多ある再評価の流れの中でも特にアイドルポップスファンにピッタリではないかと思ったものでしたが、このたび、独自の復刻で賞賛を受けているタワーレコードの良盤発掘隊・Tower to the Peopleとのコラボによる復刻が始まるのだとか!
まずは伊藤つかさのジャパン時代の4枚「 つかさ 」「 さよなら こんにちは (+9) 」「 ふしぎの国のつかさ 」「 タッチ (+4) 」からスタートし、芸映で先輩の岸本加世子に瓜二つだった風見りつ子の豪華セカンド「 アヴァンチュリエ 」もラインアップされているようですが、大注目したいのが、70年代後半から80年代の歌謡界を代表するアレンジャーとして知られる萩田光雄さんの「 シークレット・ラブ 」です。
萩田さんと言えば、ヤマハ出身の作・編曲家ですが、我々太田裕美ファンにとっては74年のデビュー時から黄金期まで、ほとんどの曲を手がけたアレンジャーとしておなじみ。太田さんの復活後もインチキ25周年時のゴールデン・カルテットで久々の組み合わせが実現したほか、近年には日本作編曲家協会のイベントで作編曲家と歌手という立場で同じステージに立つという珍しい共演を果たしたほか、昨年の山口百恵トリビュートでも太田さんのアレンジ(「曼珠沙華」)を担当しています。
太田さんだけでなく、シンシアの「想い出通り」やヒロリンの「二重唱(デュエット)」など、先物買いでもある筒美先生のお気に入りアレンジャーの1人でもありますが、75年にレコード大賞編曲賞(「シクラメンのかほり」など)に輝いてからはオファーが殺到し、押しも押されもしない存在となったのはご存じの通りです。百恵ちゃんの「白い約束」以降の一連の作品など、とにかくヒット曲が多数ですので、編曲家の存在感を大きくさせた功績は余りあるものがあると言えるでしょう。
緻密な計算のもと、楽曲の個性を際立たせつつインパクトと品位を両立させるという離れ業をやってのけ、原曲の魅力を何十倍にも広げるというのが萩田さんのお家芸ですが、あらためて聴いても感嘆のため息がもれるばかりです。そのサウンドを同時代に自然に聴いてこられたのは、なんと幸運だったのでしょう。
当たり前すぎて意識してない人がいたら、一連のヒット曲、例えば「異邦人」「待つわ」「飾りじゃないのよ涙は」「恋におちて -Fall in love-」など、萩田さんのラグジュアリーなアレンジなくしては成立しなかったであろう個性的な作品群を聴けばお分かりいただけるはずです。
萩田さんの的確なサウンド作りとレンジの広さを知るには、一アーティストでシングルの変遷を追うといいかもしれません。
なお、太田さんの最大ヒット「木綿のハンカチーフ」の場合、シングルカットされたラグジュアリーなアレンジは筒美先生の調理によるもので、萩田さんのオリジナルアレンジは太田さん初期路線のフォーキーなイメージとなっております。
太田さんには早くから曲提供を行い、ヒロリンや百恵ちゃんらアレンジを手がけていたアーティストにも曲を書き、作曲家としての実績も磨いていた萩田さんですが、79年には「サンタモニカの風」(桜田淳子)でスマッシュヒットを記録。87年には「秋のIndication」(南野陽子)でオリコン1位という実績を残しています。
そういえばシンシアの復帰時など、一時は表記を「光男」さんに変えてらしたこともありましたけど、あれはどういう理由だったのでしょうか。
さて、今回復刻される「 シークレット・ラブ 」は、77年にリリースされたというソロアルバム。サウンド・プロデュース&アレンジメントによる「薬師丸ひろ子ソング・ブックvol.2」というアルバムもありましたが、ソロ名義としては唯一のようです。
当時はクロスオーバー・フュージョンがブームを呼び、80年代初頭にかけ、各社さまざまなアルバムが制作されていた頃。近年の復刻ではソニーのカタログが名盤復刻シリーズで多数再発されていますが、これは東芝EMIから出た“ニュー・インテリア・ミュージック”シリーズの1枚なのだそうです。
このシリーズは“音楽をジャンルに分けるのは、現代に生きる貴方らしくない。そこにクロスオーバーの真髄がある。Crossover Music”というコンセプトのもと、スタンダードナンバーをクロスオーバーサウンドで再構築するという企画で、萩田さんのほか、羽田健太郎「ホワット・ナウ・マイ・ラブ」、直井隆雄「イン・ザ・ムード」、川口真「ア・ソング・フォー・ユー」、新井英治「ムーンライト・イン・バーモント」といったゴイスーなラインアップだったとか。
収録曲は、タイトル曲のほか「マティルダ」「アクエリアス」「サンライズ・サンセット」「スプリング・イズ・ヒア」「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド」「ジョージア・オン・マイ・マインド」「エイント・ミスビフェブン」「ミスター・ロンリー」という9曲ですが、萩田さんが活躍した歌謡界こそ究極のクロスオーバーですからね。
バッキングは、歌謡曲のレコードでもおなじみの錚々たるスタジオミュージシャンが結集していますし、ファンキーなディスコ&ソウル全盛期の録音でもありますので、改めて聴けば思わずニヤリとするフレーズなども発見できることでしょう。
あ、プロデュースはかの渋谷森久さんですので、渋谷さんの秘蔵っ子・伊藤咲子さんや本田美奈子さんの音楽が好きだというアイドルファンもぜひどうぞ。
と、今後も目が離せない「ラグジュアリー歌謡 × Tower to the People」シリーズ。大いに期待したいものです。
(2013.10.17)