なんとDVD付き!佐野元春監修の60周年記念ベスト
1953年、15歳でビクターレコードより「想ひ出のワルツ」でデビューして60年。
ひばり・チエミ・いづみの三人娘も今やただ一人となってしまったものの、現役歌手として第一線で活躍。御年76歳にして変わらぬキュートな魅力を振りまいているトン子こと雪村いづみさん。
今年はお祝いムードの中、佐野元春さんとデュエットした新曲の配信や、三人娘のナンバーの新録音を含む2枚組の記念盤「 思い出のワルツ tribute 三人娘 」をリリースするなどますます精力的な上、旧譜も90年代のEMIから出た3タイトル(中島みゆき、さだまさしらから提供を受けた「 アイム・ア・シンガー 」=ヒロリンがカバーした「虹~Singer~」収録=、パリ・ミュゼット界の大物アコーディオン奏者と共演したデビュー40周年記念ライブ「 ミュゼットを唄う 」、脂の乗り切った歌声で三人娘のレパートリーに挑戦した「 三人娘を唄う 」)がタワレコ限定で再発されたり、10年ほど前だったか、ピチカート・ファイヴも大推薦した「 フジヤマ・ママ 雪村いづみ スーパーアンソロジー1953-1962 」以来とも言える再評価の機運もまたまた高まっているようです。
そこに届いたうれしいニュース! なんと佐野元春監修による、レーベルを超えた初のオールタイムベスト「 スーパー・シック~雪村いづみ オールタイム・ベストアルバム(DVD付) 」の発売が決まったというのです。しかも2枚のCDに、歌唱映像のスペシャルDVDも付くという3枚組豪華版!
デビューが戦後まもない昭和の28年ということも、レコードがSP盤だったということも、もはや我々50歳近くの人間にさえ想像はできても実感できないほどの歳月が流れていますので、ここでワタシなどがいろいろと語ることなど言語道断なのですが、雪村いづみという不世出の歌手のファンの一人として、存在の偉大さを次代へと伝えるという意味でご紹介させていただきたいと思います。
で、今回の3枚組。CDは自身によるセレクションとのことですが、Disc1はMONO Yearsと題し、「想い出のワルツ」(Live)から「はるかなる山の呼び声」「オー・マイ・パパ」「青いカナリヤ」「マンボ・イタリアノ」「チャチャチャは素晴らしい」「ビバップ・ルーラ」などなど、1953年から60年まで全盛期のヒット曲を網羅。
Disc2はSTEREO Yearsで、1962年から現在まで、ビクターからアルファ、コロムビア、ソニー、EMIと渡り歩いたレーベルを超えてを総括。作曲家志望だったユーミンの作家デビュー作になるはずだった「ひこうき雲」や、キャラメル・ママとの共演による歴史的名盤「スーパー・ジェネレーション」の収録曲も入っておりまし、元春さんと共演した「もう憎しみはない」「トーキョー・シック」も収録とサービス満点。
戦後のジャズといいますか古き良きポピュラーソングから、ミュージカル、シャンソン、日本の歌謡曲まで、本物のシンガーの技量が余すことなく堪能できるでしょう。
ブックレットにはNHK-FMでの元春さんとのトークの紙上再現や、楽曲解説、ディスコグラフィーなども付くそうですが、今回の目玉は何と言ってもスペシャルDVD。新東宝映画や60年代以降のNHKライブラリーから出演映画やテレビの歌唱映像(16曲予定)を収録したという、ファンならずとも見ておきたい貴重映像集です。
ちなみに映画は「娘十六ジャズ祭」「東京シンデレラ娘」「乾杯!女学生」「トラン・ブーラン 月の光」「浮かれ狐千本桜」とすべて54年作品で、いくら映画が娯楽の時代とは言えその売れっ子ぶりが分かるラインアップ。
またテレビ映像は、63年の紅白から「想い出のサンフランシスコ」、74年の「ビッグショー」からキャラメル・ママ演奏による服部良一名曲集のほか、77年の「ビッグショー」、85年の「思い出のメロディー」など、見どころ満載。昨年好評を博した「SONGS」の映像も入るとのことで、まさに時代をまたにかけた構成です。
ご本人は「おへちゃ」などと謙遜なさいますけど、かの中原淳一がお気に入りだったことでも分かるように、あの時代には希有だったプロポーションとセンスを兼ね備えていたトン子さんですから、そういったスーパー・シックな出で立ちもしっかり拝見してみたいものです。
ところで、「世紀にひとりのシンデレラ」とラッキーガール的なうたい文句に象徴されるように、全盛期をリアルタイムでは知らない我々が見ても、お嬢、ノニの分かりやすい天才ぶりと比べるとどうしても小粒な印象がありましたし、ご本人も昔から「今の私があるのは三人娘に加えてもらったおかげ」と語っているせいで誤解してしまいがちなのですが、もしかしたら本当の天才はトン子の方だったのかもしれないと今は思います。
なぜなら、才能もない少女があの2人と並んで立てるはずがないし、もし運命のいたずらで一瞬立てたとしても、何年も続けられるはずがありません。進取の精神を持ち、大変な努力家であることは知られていますが、天才的な才能がなければあの2人に努力などでついていけることなど到底あり得ないのですから。
つい先日読んだ「 サライ 2013年 12月号 」のチャーミングでユーモアたっぷりのインタビューにも感銘を受けましたが、その姿勢は、今では想像もつかないほど貧富の差があった戦後まもなくの日本で少女の頃からスターだった人とは思えないほど謙虚かつ庶民的で、まっとうでいらっしゃるんですよね。
それは裕福なご家庭から極貧へと、幼い頃からご苦労なさったことも大きいでしょうが、個人的にはやはり戦前の日本人の美しく素晴らしい価値観の元で成長されたことがかなり関係しているのではないかと思っています。
またその一方で、娘のマリアさんもあきれるほど自由奔放な生き方をしてきたと言われていますし、確かにあっけらかんとして爛漫に見えるのですけど、その実とても冷静で明晰な印象もあったりします。
認知症の老女役を好演した主演映画「 そうかもしれない [DVD] 」を見た時にも感じましたが、それは戦後という激動の時代で、濁流といわれる芸能界で、心の声に忠実に、誠実に生きてこられた姿が反映されているのではないでしょうか。
そういう意味でも、60年の軌跡をしっかりと追うことができるであろうこのオールタイム・ベスト。元春さんは「戦後モダニズムの精神を最も純粋なかたちで生き抜いた女性」と評しておられるそうですが、彼女はアメリカナイズドをめざすことから始まった戦後ニッポンの文化や生活様式と同じ和魂洋才という立ち位置で、平成の現在までの日本の変遷を歌で体現してきた唯一のシンガーとも言えそう。ホントに歴史的価値がある貴重なコレクションだと思いますので、ぜひちゃんと聴いたことがないという人にオススメしたいと思います。
なお、元春さんとのコラボ集大成となる「 トーキョー・シック(DVD付) 」も豪華限定仕様で同時リリースされるそうです!
(2013.11.25)