2007年の作品集にプラスして、追悼リニューアル
昨年10月25日、97歳で他界なさった岩谷時子さん。昭和を代表する作詞家の一人であり、生涯で作詞した曲はシャンソンやミュージカルの訳詞も含め、3000曲を超えるとか。
戦前からきちんと生きてらしたせいなのか、品の良さと情熱をほどよくブレンドさせた詩は、今味わってもとても普遍的。越路吹雪のマネージャーとしても有名ですが、宝塚の出版部にお勤めしていた岩谷先生の作詩の才能を引き出したのは、やはりコーちゃんにほかならないでしょう。
1960年代が最も華々しかったようですが、我々世代ですと、初めて触れたのが「恋の季節」で、最もよく聴いたのが郷ひろみの初期のヒット曲、という人が多いのではないでしょうか。
作品集というと、近年では2003年に充実の2枚組「岩谷時子作品集~サン トワ マミー」が出ていましたが、実はコレ、かのCCCDだったことから、2009年には「 愛の讃歌~岩谷時子作品集 」としてリニューアル発売されております。
全盛の67年にコーちゃんといた東芝から出た「 愛の讃歌 岩谷時子作品集 」も紙ジャケ復刻されていますが、先生のキャリアから言えば、大きなアンソロジーが出るべきだと思いますので、今後に期待したいものです。
また、渡辺プロが全盛だった時代に活躍なさったということは、当然ナベプロタレントへの提供も多いことを意味しますが、それを象徴するのが2007年に発売された「 詩こそわが人生-岩谷時子の世界-君といつまでも~愛の讃歌」でした。作家別のベスト・ワークス・コレクションシリーズの1枚で、テイチクからのリリースでしたけど、個人的にはナベプロ音源を中心にしたこの選曲がとても良かったのです。
こたびの追悼としてオススメしようとしたこともあったのですが、既に入手困難となっており残念に思っていましたら、なんと徳間ジャパンから収録曲がプラスされ「 時を超えて生きていく歌-作詞家・岩谷時子の世界- 」としてリニューアル発売とのこと! これはスイセンさせていただくしかないという感じです。
収録曲としては、越路吹雪のシャンソンカバー「サン・トワ・マミー」「愛の讃歌」、自作自演の若大将・加山雄三の「君といつまでも」「旅人よ」「ぼくの妹に」という岩谷先生に欠かすことのできない2大スターを筆頭に、宮川泰先生とのザ・ピーナッツ「恋のバカンス」「ウナ・セラ・ディ東京」「ふりむかないで」、園まり「逢いたくて逢いたくて」、梓みちよ「お嫁さん」、西田佐知子「あの人に逢ったら」、沢田研二「君をのせて」、いずみたく先生とのピンキーとキラーズ「恋の季節」、佐良直美「いいじゃないの幸せならば」、布施明「これが青春だ」、岸洋子「夜明けのうた」といったヒット曲が満載。
中でも見逃せないのが天地真理と小柳ルミ子、同じ新3人娘でナベプロ所属というライバル2人に、花をテーマに書いた2曲。ヒット曲ではないけれど、真理ちゃんが起死回生をかけた「矢車草」(筒美京平作曲)、ルミちゃんのデビュー5周年記念盤となった「夾竹桃は赤い花」(宮川泰作曲)は、どちらも先生らしさがあふれる叙情的な名曲で、甲乙つけがたい名唱となっています。
偶然なのか作為的なのかは存じませんが、2人がターニングポイントを迎えていた76年の同時期にシングルとして発売されているのがとても興味深いですよね。
なお、今回のリニューアルによる追加としては、岩崎宏美のレミゼ人気曲「夢やぶれて」、最後の愛弟子・本田美奈子による名唱「つばさ」(太田美知彦作曲)や絶唱「アメイジング・グレイス」といった晩年の交流を代表するナンバー、さらには70年代の岩谷作品の代表歌手・郷ひろみが「男の子女の子」が入ることになったようです。
ところで、先生が書いた歌詞を歌って育ってきた者として思い出すのは、ひろみが「よろしく哀愁」を歌っている頃だったでしょうか。ひろみの歌詞を書いている人ということで、テレビで先生のお姿を拝見したのです。幼かったゆえ、教育ママゴンのような眼鏡をかけていらしたのが何より印象的で、厳しい学校の先生のように見えたものです。
それからは先生の歌詞となると、国語の授業みたいに詩を読み込もうとしたり、道徳の時間のように襟を正される思いでいたりしていましたけど、それが品位というものだと気づくのは大人になってからのことでした。
厳しくて、寂しくて、優しくて、希望に満ちた歌詞の数々は男と女の子の絆に見えて、実は大自然と人間とのそれをうたった、永遠の愛の讃歌だったのかもしれません。
そんなことを考えながら、ご本人による自選百詞集「人生はすぎゆく」、田家秀樹さんが書かれた「歌に恋して:評伝・岩谷時子物語」なども併せ読むと、先生への思慕はまたまた深まりそう。でもやっぱり、大がかりな全集を望みます。
(20114.1.29)
*タイトルと内容の一部に変更がありました。ご注意ください。