「音痴」と呼ばれた伝説のアイドル、17年ぶりの再発か?!
新3人娘の後を追うようにティーンアイドルたちが続々デビューし、空前のアイドルブームがピークに達した73年。この年にレコードデビューを果たしたフォトジェニックアイドルが栗田ひろみちゃんでした。
ドラマや映画、グラビアで人気を博した後の歌手デビューだったのですが、とにかくその歌の下手さにはスゴイものがありました。デビュー曲「太陽のくちづけ」は、レコードなのに音が狂っていたのですから。
シンシアや真理ちゃんだって歌が下手と言われていた時代ではありますが、今のようにカンタンに修正できるピッチ補正ソフトがなくとも、パンチングの技術はあったはずです。ひろみちゃんと歌手デビュー同期で音痴のレッテルを貼られてしまった浅田美代子だって、レコードで音をハズすことはなかった(没テイクを使ったであろう4ch盤「ヒット全曲集」ではややハズしてます…)のに。
ちなみにミヨちゃんとひろみちゃんは、この年の映画「ときめき」で共演して以来大の親友だったそうですが、そんなミヨちゃんが唯一自分より音痴な歌手として名前を挙げるのがひろみちゃんなのでした…。
再生が安定しないことがあるソノシートではなく、れっきとした新品のレコードで音程が狂っているという事実は、当時の子どもにとって天地がひっくり返るほどの衝撃で、宝物だったモジュラーステレオが故障したのではないかと心配したことを思い出しますが、その栗田ひろみの唯一のアルバム「 太陽と海とオレンジ 」がオーダーメイドファクトリーの候補に挙がりました。
実はこのアルバム、ワーナーの“70's smile”シリーズの1枚として97年に紙ジャケ復刻されていますが、今回はその再発というイメージ。
W紙ジャケット仕様しかり、「初恋の散歩道/黒い瞳」「愛の奏鳴曲(ソナタ)/蝶々と雪だるま」という残りのシングルのボーナストラックしかり。
ただ2014年最新デジタル・リマスターということですから、音にこだわる方(音程にこだわらず音質にこだわる人っているのか…)は買い換え、買い増しというのもアリかもしれません。
さて、レコードデビューからわずか3カ月、73年5月に出たこのアルバムは、“太陽が好き!海が好き!オレンジが好き!明日があるものなら ひろみは なんでも好き!”という言葉通り、歌唱力もなんのその、全肯定で前向きなLP。オープニングが波音にかぶさるモールス信号で始まるようにSEも多用、朗読もちりばめたサウンドドラマ的構成となっております。
当時のアイドルの定石らしく、デビューシングル「太陽のくちづけ/ほほえみの天使」以外はすべてカバーですが、A面は南沙織「17才」&天地真理「水色の恋」といった同世代アイドルのデビュー曲と、小川知子「初恋のひと」&黛ジュン「天使の誘惑」という一世代上によるナウ&ゼン・アイドル集。
一方、B面は「ヴァケイション」「パイナップル・プリンセス」といった60年代ヒットで幕を開けますが、特筆すべきは後半3曲にわたって繰り広げられる詩の朗読。歌とは打って変わってナチュラルでかわいくて、まさしくフォトジェニックアイドル・栗田ひろみのイメージのままなんです。特に、本人が書いたという「ママに捧げる詩」は、自分語りのエピソードも相まって、読まされ感ゼロのグーな雰囲気。
特に歌手活動をメインとするアイドルの場合、レコード店の店先で売られていたウィスパーカードに代表されるように、ナレーションなんて小っ恥ずかしいシロモノですし、当時、朗読が一番上手と言われた淳子でさえよく聞くと非常に演劇的でしたけど(気になる方はぜひ朗読アルバム「16才の感情」をお聴きください)、栗田ひろみに限っては彼らとは一線を画す仕上がりで、女優としての資質が豊かだったことを物語っています。
第3弾シングルで語りがメインになったのは、下手な歌を無理矢理歌わせるより、女優としての表現力をレコードでも第一に考えることの表れだったように思います。
なお今となっては陳腐に思われがちですが、当時は音楽と朗読というジャンルはしっかりと確立されていて、石坂浩二のLP(先ごろ「 海 空 大地 」として復刻されました)などは大ヒットしたりしましたので、こういう企画がごく当たり前だったことを前提にお聞きいただければと思います。
という唯一のアルバムにしてオール・ソングス・コレクションですが、SE入りにつき「太陽のくちづけ」は純粋なシングルバージョンではないんですよね。完璧にコレクションしたい場合は、ひろみチャンの全シングル3曲を収録したワーナーのアイドルコンピ「きらめきアイドル~ワーナー70’sコレクション」(こちらで紹介)も併せてお求めください。
(2014.6.17)