引退騒動もあった87年の名作が紙ジャケ&高音質で再発!
音楽は美しい力です、やっぱり。
確かイトイさんのコピーではなかったかと思いますが、そういう真理も言える素晴らしいキャッチフレーズのもと、87年11月にリリースされた矢野顕子の名盤「グラノーラ」。それがこのたび、紙ジャケット仕様&SHM-CD盤の「 グラノーラ(紙ジャケット仕様) 」として再発されることとなりました。
コレに先がけ、昨年暮れにミディ移籍第1弾にして傑作と誉れ高い「 峠のわが家 」が未発表バージョン入りの2枚組で再発されていましたので、バージョンアップでの復刻に期待していたのですが、今回は内容は変わらず…。
とはいえ個人的なにも10代の終わりに最も影響を受けた大好きなアルバムですし、アッコちゃんのアルバムの中ではとても聴きやすい部類に入るものだと思いますので、ちょこっと紹介させていただくことにしました。
ファンの皆さんの間では、区切りの一枚として知られ、ご本人も集大成、身辺整理と語ったこのアルバム。というのも、家庭の事情で休養を宣言、写真週刊誌には引退と書き立てられるわ、にもかかわらず本人は否定しないわ…ツアーに至ってはさよならコンサートとまで言われた作品なのですから。
当時のアッコちゃんといえば、80年の「ごはんができたよ」以来のほんわかお母さん路線が定着。実際、当時は美雨ちゃんがまだ小学生(メガネをかけてましたけどチャーミングなお嬢さんでした)で、登校時の母親当番やPTAの地域委員なんか学校関係の任務もピーク的に忙しく、家事や育児のため出前コンサートもやめざるを得なかったり、まさに音楽家よりも主婦業という肩書きが似合っていた頃でした。
であるからして、このアルバムはスリリングな前作「峠のわが家」とは一転。朝食のシリアルを冠したタイトル(当時は何度も説明してましたけど今は市民権を得ましたね)や、坂本家の裏庭で撮影されたというジャケットに象徴されるように、力を抜いた内容で、普段使いのお茶碗みたいな日常感が漂う構成となっているのです。
むろんアッコちゃんですから、アットホームとはいっても、はっぴいえんどの「風をあつめて」やホソノさんの「無風状態」、ウェルナーの「野ばら」の新解釈「Roslein auf der heden」といった古今東西の名曲カバーをはじめ、小林薫が出演したサントリーのCMソング「わたしたち」、NHKみんなのうたを新録音した「ふりむけばカエル」(みんなのうたバージョンが好みでしたが)、ガブリエル・バンサンの絵本をベースに佐野元春が詞を書いた「Un Jour」、後に槇原敬之とも歌った元春とのデュエット「自転車でおいで」といったオリジナルまで、いろんなジャンルを取り混ぜていますし、バッキングには当時のご主人であった坂本龍一、デビッド・パーマー、バリー・ジョンソン、エディ・マルチネスら名うてのミュージシャンが参加しいろんなサウンドを繰り広げていますけどね。
いずれにしても、ソロ12年のキャリアがさりげなくまとめられているのは確かで、このアルバムを最後に「ポップスでできることは全部やった」という感じで、ジャズミュージシャンへといったん回帰した後、世界的評価を得たキョージュに伴い一家でアメリカに移住してしまうアッコちゃんですから、矢野顕子の軌跡のターニングポイントという観点でも興味深く聴けるアルバムではないかと思います。
なお、今回は紙ジャケではありますが、LP版ではなく、グリコ協同乳業のイメージソングであり、カバーした杉浦幸との競作も話題となった「花のように」、ブレイクダンスの風見しんごも踊ったTBS「ドキド欽ちゃんスピリッツ」のエンディングテーマ曲(だったけか?)「やがて一人」というシングル曲が追加されたCDバージョンの再発となっています。
昨年にはソニー時代の名盤もブルスペ2で再発(こちらで紹介)されましたし、旧譜も一気に聴きやすくなりましたんで、SHM-CD化となるミディ時代のアルバムもゾクゾク続いてくれることを祈ります。「グラノーラ」の次はこのアルバムをひっさげたツアーのライブ盤(「 グッド・イーブニング・トウキョウ 」として発売)でしょうか。選曲やパフォーマンス、メンバーのプレイも含め、ホントにベスト・オブ・ライブと言える素晴らしい内容ですから。
もちろん今もニューヨークを拠点に、現役バリバリのアッコちゃん。最近は帰国頻度も増え、来月にはエレクトリカルなポップアルバムだという新作「 飛ばしていくよ 」もリリースされますので、現在の活動も応援し続けたいと思っております。
(2014.2.19)