筒美アルバムを含むアメリカ四部作、タワレコ限定再発!
しかしながら一般的には、あのビブラートとボーカルの湿度のせいでドメスティックなコテコテの歌謡曲というイメージが強いようで、ちょっと残念なのですが、全盛期を知る人の間では昔から凄いテクを持つギター小僧なのは周知の事実だし、若いうちから自らのスタジオを持つなど極めて洋楽的で強いサウンド志向を持っていることもきっと常識のはずだと思います。
そんなゴローですが、デビュー40周年に突入した2010年にはエイベックスに移籍。カバーアルバム「GORO Prize Years,Prize Songs ~五郎と生きた昭和の歌たち~」(こちらで紹介)が久々のヒットを記録したほか、昨年には約10年ぶりのニューシングル「 僕をまだ愛せるなら(DVD付) 」がオリコン34位をマークするなど気炎を吐いています。
来月には、来日するサンタナの特番「サンタナ対談~ギタリスト野口五郎が語る~」がスカパー!でオンエアされるとのことで、健在ぶりをメラメラに証明するニュースも届けられておりますが、実はベスト盤以外の旧譜もひっそりと復刻や再発がなされていたりして。
それがタワーレコード限定の企画で、独自の積極的な復刻で知られるタワレコ良盤発掘隊・Tower To The Peopleシリーズ。
最近はJ-POP編と題して、対象が邦楽、それも通好みのシティポップスの名盤のみならず、朱里エイコやら石川セリやら、お洒落な歌謡曲系までに拡大されていますが、そこにゴローのアルバムも加わったというワケなのです。
今回復刻となるのは、ゴローのオリジナルアルバムの中でも70年代後半に定例化されたゴロー・イン・USAの金字塔、アメリカ録音盤の四部作。モノホンのサウンドが今も語り草になっているアルバム群です。
先陣を切って昨年12月に78年発表の「 L.A. EXPRESS ロサンゼルス通信 」(オリコンアルバムチャート最高13位)が発売済みですが、来月には、76年の「 GORO IN LOS ANGELES, U.S.A. -北回帰線- 」(同2位)、77年の「 GORO IN NEWYORK -異邦人- 」(同5位)、79年の「 ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES'79. +1 」(同19位)が一挙リリースとなるのだとか!
1ドル360円の時代を過ぎ、円高が叫ばれていた頃。確かに歌謡曲系のビッグアーティストの間でもご褒美的な海外録音がもてはやされてはいましたが、ゴローの場合、早くから新御三家随一のコンセプトアルバムづくりを進め、明確な制作意図を持った上で恒例化していますので、別格の出来という感じがします。同じポリドールの先駆者・ジュリーの後を追ったのか、先にロンドン録音も経験していますしね。
いずれにしても、アメリカでのレコーディングの様子やオフの風景などは、同行取材した明星とかのグラビアで報告されていましたし、この4枚のダイジェスト・ベスト盤「野口五郎アメリカ4年の歩み GORO IN U.S.A PAST 4YEAR STEP」も出たくらいなので、ファン以外にもよく知られた企画ではなかったかと思います。
さてゴローの場合、Q盤ブームのCD叢書で「GORO IN LOS ANGELES, U.S.A. -北回帰線-」と「GORO IN NEWYORK -異邦人-」はCD化済みですので、今回初CD化となるのは「L.A. EXPRESS ロサンゼルス通信」と「ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES'79.」の2枚。
長年のファンにとってはこの2枚こそが悲願といえますが、ここではやはり筒美京平先生渾身の2作、すなわち「GORO IN NEWYORK -異邦人-」と「ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES'79.」をプッシュさせていただきましょうか。
まずは77年9月リリース、ニューヨーク録音盤「 GORO IN NEWYORK -異邦人- 」。
ニューヨーク・スーパー・セッションと名付けられたバッキングには、マイケル・ブレッカー、デビット・サンボーンら我々でも知ってる奏者が名を連ねていますが、このアルバムで特筆すべきなのは筒美先生がプロデュースとアレンジ、そして指揮も執ったという点。
作曲は先生以外にもゴローとお兄さんも加わっていますが、70年代後半からはアレンジまでを手がける作品はぐんと少なくなっていますので、フリークにはらまらないアルバムといえそうです。
当時の筒美シングルは映画主題歌「季節風」からフォーク歌謡「風の駅」という流れですが、ゴローのアルバムならでは、シングル曲は一切含まず、流行のディスコのムードも漂うクロスオーバー・フュージョン系でまとめられています。
そしてもう一つ注目したいのは、作詞が松本隆さんで、インストを除き全曲を担当しているという点。当時のシングル「むさし野詩人」「沈黙」を手がけていた流れでの起用でしょうが、松本隆+筒美京平というゴールデンコンビのファンも必携といえましょう。
余談ですが、ここでの松本さんの路線は、のちの藤井隆の作品へとつながっているような気がします。
ところで流行歌手としてのゴローにとって、この直後の78年から79年にかけてという時期は、苦戦を強いられ始めた頃にあたります。
たのきんトリオの出現までは、他の男性アイドルを一切駆逐してきた新御三家ですが、洋楽カバーで自己最高のメガヒットを飛ばすヒデキ、ドラマがらみの企画で歌のファン層も拡大させたひろみを横目に、ゴローだけは目に見えて勢いがなくなっていったのです。それは、リクエストで何とか巻き返していたTBSザ・ベストテンの印象も大きいでしょうけど。
そのせいもあってか、シングルではヒデキっぽいスケールの大きな組曲風の「愛よ甦れ」や、有線から火がつくのを狙って演歌寄りの「泣き上手」が制作されるなど、試行錯誤が目立ってきます。
デビュー以来2曲と空くことはなかった筒美作品にしても、それまでのフォーク&ニューミュージックっぽい路線を大幅に見直し。「送春曲」以外は、AORの「グッド・ラック」、ギターガンガンのソウル&ディスコ「真夏の夜の夢」(どうしてもコロッケが…)と、会心作ではあるけれども作風の変化が目立っていたのですね。
むろん3人の中では最も器用なゴローですから、どんな難曲も見事にこなすのですが、当時の感覚からすればチグハグな印象があったことも確かです。今その流れを聴くと、あまりの豊かなバリエーションと全部モノにしているゴロー節に感動するんですけどね。
そんな79年、7月にリリースされたのがLA録音の「 ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES'79. +1 」というワケなのですね。
しかしゴローの場合、シングル曲は一切含まないコンセプトアルバムづくりをしていますので、こちらは変わることなく安心して聴けるクロスオーバー・フュージョン系でまとめられています。
相変わらず豪華なバッキングは、ロサンゼルス・スーパー・セッションと名付けられていますが、ゲストプレイヤーのラリー・カールトンを筆頭に、TOTOのデビッド・ハンゲイトやマイク・ポーカロ、ジェームス・ギャドソン、トム・スコット、ラリー・ナッシュ、デビッド・サンボーン、デビッド・スピノザらまたまた一流ミュージシャンが集結。
今回も筒美先生が全面的に参加し、お兄さんの2曲以外を作曲していますが、作詞はすべて阿久悠さんにチェンジ。
等身大路線から大きくイメチェンした「真夏の夜の夢」と、このアルバムと同月発売ながら未収録だったフュージョン歌謡「女になって出直せよ」(今回は+1のボーナストラックとして追加)というシングルを書いた流れでしょうが、断筆宣言直前ということもあってか、阿久さんお得意の名画座風ダンディズムが炸裂という感じです。
ただ、それまでゴローが歌ってきた青年像とは人が変わったようになっていて、詞世界にはちょっと違和感もあったりして。それはちょうど、阿久さんのジュリーとヒデキの中間のようでして、その印象はアレンジに一連のジュリー作品を編曲した船山基紀さんもが加わっていることも大きいかもしれません。
という、目からウロコ、耳からゴローのアメリカ録音盤。いずれも2013年デジタルリマスターということなので、音質の面でも期待できるんじゃないでしょうか。
この筒美系2枚に納得された方は、東海林修先生プロデュースでラリー・カールトン参加の76年作「GORO IN LOS ANGELES, U.S.A. -北回帰線-」、深町純さんプロデュースでリー・リトナー参加の78年作「L.A. EXPRESS ロサンゼルス通信」へと進んでいただければと思います。
また、筒美系アルバムでいえば、ロンドン録音の傑作「GORO!LOVE STREET IN LONDON/雨のガラス窓」もありますが、やはり未CD化の方が先決だと思いますので、お次は80年の全曲筒美作品「スマイル」や、72年のセブンティーン歌詞募集オリジナル・アルバム「青春の旅路 新しい汽車」の復刻に期待したいところですね。
あ、どんどんマニアックに走るのもいいですが、シングルコレクションBOX「FACE-GORO A SIDE STORY-」(こちらで紹介)で流行歌手としてのゴローの足跡を追うのもお忘れなく!
(2013.2.18)