78年の音楽シーンに衝撃を与えた、不朽の名作!
さあ、発売まで2カ月を切った名盤復刻シリーズ(こちらで紹介)のピックアップ編。今回は1978(昭和53)年に人気、実力ともにナンバー1の新人として脚光を浴びたまっちゃんこと渡辺真知子さん。シリーズのラインアップに入ったファースト「 海につれていって 」と、セカンド「 フォグ・ランプ 」の2枚をプッシュいたしましょう。
まず、まっちゃんがいきなりスターダムにのし上がった78年(デビューは77年11月)という年を振り返ってみますと、振りの完コピを前提としたピンク・レディー人気が絶頂に達するとともに、番組やCMのタイアップを受けたレコード制作の図式もほぼ完成。さらに放送を開始したばかりのTBSザ・ベストテンがうたのヒットをも左右する人気番組になるなど、テレビがヒット曲の舵を取ることが決定的になったといわれる年にあたります。
歌謡ポップスのみならず、カラオケブームを背景にした大人のための歌謡曲や演歌も手堅く支持される一方、ヤングの音楽・フォークも成熟しニューミュージックという幅広い流れとなり、ロック系のアーティストとともにアイドル的な人気を博していました。
各ジャンルがそれぞれに勢力を持ち、流行歌という一つの土俵の上でしのぎを削るという、今では奇跡のように思える出来事が当たり前のように繰り広げられていたんですね。
個人的には、全世代がいろんな方向から楽しめる度量を持っていた昭和の歌謡界が、洗練され、黄金律とも呼べるほど絶妙なバランスを保っていた最後の年だったような感触を抱いていますが、その年に大活躍し、圧倒的支持で新人賞を総ナメにしたのがまっちゃんだったというワケなのです。
少し前に太田裕美さんが切り開いた歌謡曲とフォーク&NMの中道を、追尾するような形で巻き起こった女性ニューミュージックブーム。
自作自演によるナンバーをひっさげつつテレビに出たり、職業作家が手がけた楽曲を自らの私小説のように展開したり、フォーク&NM系から楽曲提供を受けたり、さまざまな形で幾多の女性アーティストが成功を収めましたが、渡辺真知子の場合は、ニューミュージックサイドから歌謡曲へ歩み寄るという、非常に珍しいスタンスに立っていました。
デビュー曲「迷い道」にしても、第2弾「かもめが翔んだ日」にしても、メロディーや歌詞から、クラシックで鍛えた発声とソウルフルなフィーリングのボーカルまで、船山基紀さんによるイントロからのサウンドも含め、斬新かつ衝撃的。
連続ヒットとなったのはいうまでもありませんが、この「 海につれていって 」(オリジナルは78年5月発売)は、その2枚のシングルを収録したデビューアルバムなのです。
まるで潮騒が聞こえてくるようなインストゥルメンタル「海のテーマ」で幕が上がると、そこはまっちゃんの独壇場。クラシカルなナンバーからポップス、ロック、歌謡曲、シャンソンまで、まるで音楽シーンでの彼女の立ち位置そのままに、さまざまなジャンルをクロスオーバーさせたような楽曲がそろっています。
当時もビックリしましたが、今聴いてもとにかく楽曲の完成度が異常に高く、渡辺真知子というシンガー・ソングライターの恐るべき才能をまざまざまと見せつけられるのです。
名ピアニスト・羽田健太郎さんがイントロのスキャットも担当した名曲「片っぽ耳飾り」や、独特のファルセットがクセになる「今は泣かせて」といった哀愁を帯びた作品も素敵だし、コミカルな詩がとってもチャーミングな「朝のメニュー」には思わずクスッとなりますし、素直で乙女チックなバラード「あなたの歌」にはキュートさにドキドキ。
デビュー曲候補だったポップな「愛情パズル」や、関西の有線放送では大ヒットしたドラマチックな「なのにあいつ」(後に可愛かずみがカバー)といったB面曲も含め、1曲も駄曲がないのです。
新人のシンガー・ソングライターの場合、シングル曲のきらめきに惹かれてアルバムを買うと、上回るナンバーが少なくてガッカリしたり、アマチュアというよりも素人という感じの作品群に萎えることも多いのですが、まっちゃんの場合はヤマハでの下積みや、CBS・ソニーで受けた特訓の甲斐あってか、職業作家のようなクオリティ。
やはり鬼才・中曽根ディレクターのシゴキ(?)というか、ディレクションの力が大きかったのではないでしょうか。同時期、長年中曽根さんが手がけていた五輪真弓さんも歌謡曲寄りにイメチェンを図り成功していくのですが、その流れも併せて辿ると面白いかもしれません。
というファーストですが、オリコンのLPチャートでは最高3位、カセットテープチャートでは2位という大ヒットを記録。91年にCD選書としてCD化されてからも、20年以上にわたり驚異的なロングセラーを誇っていましたし、BOX「Machiko Premium 1975-1982」(こちらで紹介、アンコールプレスされました)では紙ジャケ&Blu-spec CD化されていましたから、CDをお持ちの方も多いでしょう。
しかしそんな方も、今回のBlu-spec CD2でまたどんな風に聴こえるか、不朽の名盤ならではの楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。
また、同時発売の「 フォグ・ランプ 」は、第3弾シングル「ブルー/光るメロディー」を含むセカンドアルバム(78年11月発売、オリコンアルバムチャート最高3位)。
海辺の光を感じさせるファーストとは打って変わって、ここに広がるのは内省的な影。ノリノリの「今夜は踊って」以外はとっても暗く地味で、まさに孤独な夜の都会という感じなのですが、しみじみと味わい深い印象で、名バラード「少しはまだ悲しいけれど」は必聴です。
ファーストと一対として聴くと良さがより分かるような気がするので、ぜひセットでお聴きください。
なお、この年から歳月は過ぎ、昨年めでたく35周年を迎えたまっちゃんですが、公約通り、記念アルバムとして集大成的な「 腕の中のスマイル 」(こちらで紹介)と、ジャズ&ラテンの「 Amor Jazz 」という新録2枚を立て続けにリリース。さらに脂の乗ったバリバリの歌声を聴かせていますので、旧譜の後はこれらの新譜もぜひどうぞ。
(2013.2.13)
*名盤復刻シリーズについての詳細は、特設サイトまたは
SonyMusicShop
をご参照ください。
復刻タイトルのリクエストもできます。