RCAを含む不遇のアイドル3人をコンプリート!
ご存じソニーミュージックのオーダーメイドファクトリー。アイドルものも近年はCBS・ソニー黎明期はもとより、吸収したRVCにビクターやワーナーといった他社のアルバム(最近では「 森下恵理オールソングスコレクション 」がレアだそうです)も復刻候補に挙がっていますが、元祖といえば、やっぱりアイドル・ミラクルバイブルシリーズ。市販商品だった頃より活発で、いろんな寄せ集め、抱き合わせものもスペシャル企画として商品化されてきました。
ユーザー層的に80年代がどうしてもクリアしやすい感じですが、今回、商品化の候補に挙がったのが70年代の「アイドル・ミラクルバイブルシリーズ 77・78 Girls 久木田美弥・小山セリノ・久我直子 」!
1977~8年にかけてデビューした3人、RCAレーベルがソニー系になったゆえの企画となる久木田美弥、そしてCBS・ソニーの小山セリノ&久我直子というセットです。
まずは「スター誕生!」出身、ホリプロ所属。1977年4月にRCAからデビューした久木田美弥。落ち着いたアルトの歌声と、伊藤咲子みたいな発声法で、スタ誕では歌唱力系に挙げられる1人です。
今回はデビューシングル「少女自身/てのひらの恋」から、「幸せメモリー/ほうせんか」「シンデレラなんかじゃない/クリスタル・ラブ」「ミスター・グッドバイ/想い出泥棒」、そして起死回生をかけ久々に出たラストシングル「エーゲ海のリーザ/誰も愛せない」までのコンプリート。
「少女自身」以外は初CD化だと思いますが、これまで友人にレコードから焼いてもらったCD-Rを大事に聴いておりましたので、今回候補に挙がったことを心からうれしく思っています。
それにしても、池田満寿夫+モリコーネによる「エーゲ海のリーザ」は、映画「エーゲ海に捧ぐ」テーマ曲の本命カバーという触れ込みだったのですが、単なるインスパイアソング「魅せられて」があそこまで大ヒットしてしまうと、いくら純正の本命盤でもエーゲ海の藻屑と化してしまわざるを得ませんでした。
楽曲という点では、基本的にA面は声質や歌のうまさを生かしマイナー調でいってしまったのが敗因のような気がしますが、美弥ちゃんの場合は、デビューが遅れ77年組になってしまったのが運の尽きといえます。
スタ誕では76年組の浦部雅美や神保美喜とともにスカウトされたはずですし、歌唱力もデビューを伸ばすほどレッスンが必要な新人ではなかったでしょうに…と深く同情してしまいますよね。
というのも、ホリプロの77年は、1億円と社運をかけて始めたスカウト・キャラバン優勝者の榊原郁恵を大々的に売り出すことが決まっていましたし、スタ誕の77年イチオシは、じっくり時間をかけてデビューのタイミングを決めた期待の大型新人・清水由貴子だったのですから(ホリプロって、河合夕子といい河上幸恵といい大器のタイミングを外すこと多し…というイメージが強いですよね)。
郁恵ちゃんが「賞レースでも何でもホリプロが押すのはスカウト・キャラバン優勝者の私だから、同期の三谷晃代ちゃんや久木田美弥ちゃん、荒木由美子ちゃんには申し訳なくって…」と述懐していたように、同じ寮で暮らしているのに明暗が分かれた4人。
郁恵ちゃん自身も最初はキワモノっぽくて、人気の出足も遅かったですから、美弥ちゃんのスケジュールもバンバン差し替えられていったであろうことは想像に難くありません。
ホリプロらしくドラマも「赤いシリーズ」に出ていましたが、最初こそ百恵ちゃんと姉妹という設定で、重要な娘役だったのに、次のシリーズでは…という感じでしたから、やっぱり美弥ちゃんは化けるタイプでもなかったんですよね。
しかし、今回のCDは美弥ちゃんが主役ですから、商品化が実現すればそんな無念も晴れそう。個人的にもそういう無念から松田聖子を応援するようになったのですし(前から何度も書いていますが、初めて見た時、美弥ちゃんの再来かと思ったのです)、感慨深いものがあります。
次は78年3月デビュー、丹下キヨ子の娘ということが話題に上った小山セリノ。
「ぎんざNOW!」で歌っていた記憶がありますが、多くの人にとってはNHKの少年ドラマシリーズ「未来からの挑戦」の記憶が鮮烈のよう。そういえば荒木由美子主演の「燃えろアタック」ではバレー部部員(岡本プクちゃんはお元気でしょうか)の1人として出ていましたよね。
そんな彼女ですが、今回実現すれば「ツー・ツー・ツー/ナルシスの丘」「ボーイハント’78/オー・マイ・センチメンタル」という2枚のシングルが初CD化となります。
そして78年4月デビュー、女優やモデルとしても活躍した久我直子。
以前リクエストした時、通常とは契約が違うらしいと聞いていたので、半ばあきらめ、こちらも友人にレコードから焼いてもらったCD-Rを大事に聴いておりましたが、今回そのへんの権利関係はめでたくクリアできたようで喜ばしい限りです。
彼女もよく「ぎんざNOW!」に出ていましたが、シングルは、タヒチ島をテーマにしたデビュー曲「ノアノア気分/南からの手紙」から、阿木+宇崎コンビの「初めが肝心/ステディ」、「ミス・グッドバイ/スプリング・ミラー」という3枚。
ちょっとやけっぱちな歌唱がクセになる異色アイドルですが、特筆すべきはやっぱり「ノアノア気分/南からの手紙」でしょう。
というのも、それは電通の藤岡和賀夫さんが企画した、南太平洋の島をめぐる旅から生まれた歌だから。資生堂やワコールがスポンサーだったというこの旅行には、CBS・ソニーのプロデューサー酒井政利さんをはじめ、作詞家の阿久悠さん、写真家の浅井慎平さん、池田満寿夫さんや横尾忠則さんら各界の名だたるクリエーターが招待され、タヒチやサモア、イースター島を巡ったといいます。
この旅から酒井さんと阿久さんが生みだしたのが、フォト・バイ浅井慎平さんのシングル「ノアノア気分/南からの手紙」というワケなのです。
酒井さんがタヒチを訪れノアノア気分を感じなければ、「春の予感-I've been mellow-」や「時間よ止まれ」といった資生堂ソングも、ワコールの「エーゲ海のテーマ 魅せられて」から始まり、シルクロード、アフリカ、モロッコへと続いた海外の旅シリーズもきっと生まれなかったでしょうし、個人的には阿久さんが岩崎宏美に書いた「南南西の風の中で」(「シンデレラ・ハネムーン」のカップリング)は「南からの手紙」の姉妹編であり、タヒチの旅が阿久さんにインスピレーションを与えた歌ではないかと思っています。
と意外に奥が深い、今回のアイドル・ミラクルバイブルシリーズ最新作。
切望してた人はかなり多いようですし、ワタシなんかがクドクド言わずともすぐに達成するでしょうが、70年代ですから油断は禁物。もし二の足を踏んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひ投票してください。
今回のラインアップは、いかにもB級アイドル的な安い楽曲だったワケでなく、ただ売れなかったというだけですので!
(2013.4.6)