少年と青年の間で揺れ動く、千里の青春ダイアリー!
昨年、ジャズピアニストとして発表した全米デビューアルバム「 Boys Mature Slow 」が、「NISSAN PRESENTS JAZZ JAPAN AWARD 2012」でニュー・スター部門のアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。国内でも新しい活動が認められた、我らが大江千里クン。
昨秋拝見した凱旋ライブのステージではさすがスターオーラが全開で、スイッチが入るとホントに違うものだなあと、今さらながら感心した次第です。
むろんジャズアルバムも素晴らしい出来ですのでヘビロテしておりますが、秦基博さんが5月公開の映画「言の葉の庭」の主題歌として名曲「Rain」をカバーするというニュースを耳にしたりすると、やっぱり“ポップスの大江千里”も聴きたくなってしまうのが人情というもの。
特に青春を彩ってくれた初期のアルバム群は、個人的にとても大切で、懐かしい母校のような存在になっておりますのでね。
とはいえ、旧盤はすべて廃盤になっていますし、2008年にオーダーメイドで発売されたリマスターBOX「Senri Premium~MY GLORY DAYS 1983-1988」(家宝のようにしておられるという声も頂戴しますが、ホントにこちらこそ感謝です!)もアンコールプレスを繰り返してはいますが現在は入手困難。
過去のCDを持ってない人にとってはおいそれと聴けない状況にあり、気軽にオススメすることができませんでしたけど、このたび件の名盤復刻シリーズ(こちらで紹介)に、サードアルバムから順に数えた3タイトル「 未成年 」「 乳房 」「 AVEC 」が仲間入りすることになりました。
千里ファンの方から、なぜサードからの3枚だけなのかという質問を頂戴しましたが、それは至極簡単でして、名盤復刻の第1回ラインアップは中身がイイだけでなく、セールス的に成功したアルバムに限られているからだと思います。
であるからして千里クンの場合もブレイク以降ということで、85年からの3作品というワケなのです。それでも今回のシリーズでは3枚同時発売が最多ですんで、かなり優遇されていると思いますし、今回のセールスいかんによっては必ず後も続いていくと思いますから、後発をご希望の方はぜひとも早めのご予約を。
個人的には初期のアルバムではセカンドの「Pleasure」がイチバン思い出深いのですが、この3枚となると、やっぱり85年3月発売の「 未成年 」でしょうか。
味覚糖のCMソングとして、シングル初のチャートインを果たした「十人十色/真冬のランドリエ」と、先行シングル「REAL/渚のONE-SIDE SUMMER」というスマッシュヒットを含む出世作ですからね。
当時の状況というか、千里クンがブレイクしてゆく過程のワクワク感というか、来る来る感というか、あのビッグウェイブは相当なモノがありましたよね。
実際、個人的な思い出をひもといても、前年11月「十人十色」の発売直前に地元の女子大の学園祭に来て大盛り上がりして以降、EPIC主催のビデコンには千里クン目当ての女性ファンが毎月倍々ゲームのように増えてったり、行きつけのレコードショップでは高価なビデオソフトの予約がスゴイという話を聞いたり、もうブレイクしない方がおかしいムードが漂っていたのです。
そしてその通り、オリコンのLPチャートではなんと5位をマークする大ヒットとなり、全国的ブレイクを遂げたワケですけど、アルバムの中身はといえば、ポップな中にもリアルな苦悩が見え隠れし、早くも一筋縄ではいかない千里哲学が醸し始めていた感じがします。
サウンドプロデュースが大村憲司さんから清水信之さんに交代し、テクノサウンドを取り入れたりしてるので、音的な変化も顕著なのですが、アマチュア時代に書きためたモノが少なくなり書き下ろしがほとんどになったせいなのか、大学を卒業して音楽一本になったライフスタイルのせいなのか、千里クン自身の作風にもそれまでとは大きな違いが見られるのです。
「WAKU WAKU」「Pleasure」という前の2枚がポスターカラーで描いたものだとしたら、「未成年」はポップアートに見えても心をガリガリと削ったエッチングのような…オーバーかもしれないけれど、他の追随を許さなかった千里手法の萌芽の瞬間ではなかったかと思っています。
ラストの「♮ナチュラル」なんか、その後の内にこもっていく世界を予感させますよね。
その分、爽やかな「渚のONE-SIDE SUMMER」や「赤茶色のプレッピー」など、スクールデイズ的な従来路線も、よりくっきり鮮やかに聴こえるのでしょうね。
個人的には「A MOONLIGHT EPISODE」が当時の心境にマッチしてたもので偏愛しておりますし、PVのニューウェイヴ千里に驚いた「SEXUALITY」はライブでその迫力に二度ビックらこいた記憶があります。このへんの音がブルスペ2でどう聴こえるか、そこにも注目したいと思います。
という「未成年」。多感であるがゆえに自意識過剰で、気弱で繊細なのに、意地っ張りで理屈っぽい。そんな少年と青年の振り幅の大きい日々の揺らぎを、日記をつけるがごとくスケッチした作品群は、千里クンの専売特許であり、数多いたフォロワーが誰一人としてたどり着けなかった境地です。
そう考えると、仮性、真性なんのそののジャケットも含め、“ポップスの大江千里”にとって、ある意味記念碑的な位置づけの作品ではないでしょうか。
なんだか思い出が深い分、今聴くと青春と人生に苦悩する青年とともに彷徨した時代を思い出し、少々気恥ずかしくなることもありますけれど、本格的な転換期となった「乳房」、詩人・千里の文学作品といえる「AVEC」を含め、今回復刻される3作は内省的3部作といえそう。
実は「OLYMPIC」からの抜けた千里クンの方が好きだという人にこそ、絶対に聴いてほしい千里哲学の原点だと思っています。
(2013.3.15)
*名盤復刻シリーズについての詳細は、特設サイトまたは
SonyMusicShop
をご参照ください。
復刻タイトルのリクエストもできます。