初期の名盤4枚が、特典ディスク付きでよみがえる!
かつて中島みゆきに「あの人は男子中学生だと思っていた」と言われたこともあるイルカ(毎回このネタを振って、ゴメンしてね!)。そのイメージは、昨年の「徹子の部屋」やコンサートでもほとんど変わらないように感じましたが、あの冬馬君がはや30半ばといいますからね。長い長い時の移ろいを感じます。
今年は、夫君でありプロデューサーでもあったカメ吉君こと神部和夫さんの七回忌だったそうですけれど、イルカがシュリークスを経てソロデビューして40年目に突入するアニバーサリーイヤーにもあたります。
ということで、うれしいニュースが届けられました。イルカの初期、ソロデビューからのアルバム「イルカの世界」「夢の人」「イルカ・ライヴ」「植物誌」という4枚が装いも新たによみがえるのです。
名付けてイルカのアーカイブ・シリーズ。単品発売ではなく、2枚ずつセットにしてそれぞれ特典ディスクを付けた3枚組の「 イルカ アーカイブVol.1 「イルカの世界」「夢の人」~ちいさなアルバム~ 」と「 イルカ アーカイブVol.2 「イルカ・ライヴ」「植物誌」 ~ちいさなアルバム~ 」という2タイトルになります。
アルバム自体は、廉価盤のCD選書を含め何度かCD化されていますが、廃盤のため近年は入手困難が続いていましたし、今回は当時のオリジナル・アナログマスターから最新リマスタリングの上、各セットに特典として蔵出し音源ディスクがプラスされるという充実ぶり。これを機にそろえる人も多そうですよね。
カンタンにご紹介しておきますと、「 イルカ アーカイブVol.1 「イルカの世界」「夢の人」~ちいさなアルバム~ 」は1975年3月発売のソロ・デビューアルバム「イルカの世界」と、ブレイクを果たした同年11月のセカンド「夢の人」。
“まる顔の人の国”へと誘われる「イルカの世界」は、ジャケットも含め、ファーストにして早くも独自の世界が極まっていますが、まだ内省的な雰囲気が強い分、自信を根拠にした明るさが広がっているとは言いがたく、少しナーバスというか、思春期の人見知りのような印象です。
聴きどころはイルカの妹としてデビューした沢田聖子も カバーした「春」、そして永遠の12歳ぐらいな気持ちになっていつも泣いてしまう名曲「風にのせて」あたりでしょうか。
「夢の人」は、言わずと知れた大ヒットシングル「なごり雪/ラバーボール」のアルバムバージョンを含む出世作。かぐや姫の名曲だった「なごり雪」がイルカの歌として大ヒットするのはもう少し後なのですが、その予感と言いますか、ファーストにはなかった自信や確信が満ちているように聴こえるんですよね。
拓郎作品にして、シュリークス時代のメルヘンを焼き直した「クジラのスーさん空を行く」など、イルカの本質である明るい優しさが満載なのもその理由でしょう。個人的にも、いまだによく聴くアルバムです。
もう一方の「 イルカ アーカイブVol.2 「イルカ・ライヴ」「植物誌」 ~ちいさなアルバム~ 」には、76年6月の初ライブ盤「イルカ・ライヴ」、77年4月のロサンゼルス・レコーディングアルバム「植物誌」。
DJでも鳴らしたイルカはライブこそ本領を発揮するアーティストの1人だと思っていますが、「イルカ・ライヴ」は本当に奇跡のような傑作で、個人的には古今東西あらゆるライブ盤で一、二を争う出来ではないかと思っているアルバムです。
なぜなら、歌や演奏、トーク、拍手などいわゆる音というもののほかに、イルカの人柄というか内面や、ファンの発する雰囲気というか、客席の表情やキャッチボール的な呼吸などなど、そういったものまでが録音されているように聴こえるのですね。フツーならありえないのですけど…。
後にスタジオ録音する「いつか冷たい雨が」に代表されるように、動物も含めみんなのおかあさんになりたがっていたイルカの母性が、機械にも命を持たせたのでしょうか、などと昔から思っております。
続く「植物誌」は、初のオリコン1位を獲得した大ヒットアルバムですが、LA録音ならでは、名うてのミュージシャンが勢ぞろい。
ノリノリの「気ばらしドライブ」をはじめ、とにかくサウンドというか、演奏がさすが本場のウエストコーストという感じで素晴らしいのですが、シュリークス時代を彷彿とさせる和の「タンチョウの詩」がとてもいいアクセントになっていると思います。また、自作曲に混じって正やんの「雨の物語」や、郁恵ちゃんもお気に入りだと言っていた「バラのお嬢さん」(ここから「夏のお嬢さん」は生まれたらしい…)といった提供曲も明暗の両曲で、幅を広げていると思います。
この後、出産休暇というか、ライブ活動などを休むイルカですから、今回のアーカイブもこの区切りになったのでしょうが、ノエルシリーズも含め、この後が続くことを願っています。
スタイルからフォークでくくられることの多いイルカですが、個人的には決してフォークという狭い範疇で聴かれる音楽ではないと思っていますのでね。
ところで、今回の再発で気になるのは、それぞれのディスク3、すなわち「イルカ・ライヴ」には未収録だったライブ音源10曲&トーク、各アルバムからの未収録テイクやアウトテイクを収めるという特典ディスクです。
何でも38年ぶりに再生された16チャンネル・マルチテープから貴重な音源の数々を発掘したそうで、ご本人によると、レコーディングされてない唯一の「夢の人」サビ有りバージョンや、別テイク「ぬけがら」や「ヨウコソ」など、未発表物テイクが満載なのだとか。
なんとスタジオでのハプニングや、愛犬きんのすけ(ノエルと一緒のあの犬のモデルですよ!)の声も飛びすそうで、当時のファンは絶対に感激すること請け合い。
しかも解説もイルカ自身が手がけるといいますから、必携の復刻盤といえそうですね。
毎回言ってますが、イルカの音楽って、一見するとちいさな空に浮かぶ雲みたいにのんびりほんわか、性善説のメルヘンに見えるんですけど、実はそうではない。根底には現実を見据えた厳しい瞳があり、音楽には大地に根を張ってたくましく生き抜く生命力を映し込んでいるような気がします。
だから、これらイルカの旧譜をこれからも大切に聴き続けたいし、イルカの歌う、人間いや生き物である限り持ってる良心みたいな音楽をやっぱり大切にしていかなければと思います。
あのトレーナーにオーバーオールのイルカが、ギター抱えてニカッっと笑って歌ってくれている限り、どんなことがあってもやさしい気持ちを取り戻せるはずだし、八方ふさがりの時だってきっと何とかなると信じられるのだから…。
(2013.5.1)