ロックと演歌とブルースと…初の作品集!
まだ小学校低学年だった頃。「不良」や「暴走族」といった言葉を、リーゼントにツナギやグラサンといったビジュアルと結びつけ、目に見える形で初めて認識させてくれたのは、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドだったように思います。
とはいえ、とっても怖かったキャロルとは違い、「スモーキン・ブギ」や「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」にはコミカルな要素も満載でみんなマネしたものでしたし(あきらのトンボメガネの後は宇崎さんのティアドロップを欲しがったものでした)、何より宇崎竜童さんはとても優しい雰囲気だったし、「ぎんざNOW!」などで見せたカッコよく気のいい兄ちゃんぶりは、子どもにとっても十二分に親しみやすいものでした。
モノホンの不良や暴走族とは違う感じがあって、彼らの影響を受けた子どもたちこそ80年代のカッコマン的なツッパリになっていったような気もします。
そのDTBWBがデビューしたのは73年12月1日。ということで今年が40周年のアニバーサリーイヤーにあたり、昨年のアルバムBOX「 EMI イヤーズ BOX 1974-1979 」やCD+DVD-BOX「 DOWN TOWN BOOGIE WOOGIE BAND FROM ONE STEP FESTIVAL 1974.8.5 LIVE+蔵出し DOWN TOWN BOOGIE WOOGIE BAND OFFICIAL BOOTLEG~SPECIAL EDITION~(DVD付) 」をはじめ、SHM-CD仕様でリニューアルされる「 きわめつけ傑作大全集 」など記念の関連リリースが相次ぐようですが、注目したいのが「 宇崎竜童ソングブック 」! ソングライターとしても大きな実績を上げた宇崎さんの作品集です。
一般にDTBWBは、インパクトの強い前述の2大ヒットや、化粧品のCMソングになったラテン系の「サクセス」など、一風変わったイメージがあるように思いますが、基本はブルージー。いずれも宇崎さんのペンによるもので、渋いバラード「身も心も」を筆頭に、清水健太郎がカバーしたデビュー曲「知らず知らずのうちに」や、百恵ちゃんが大好きだったという「涙のシークレット・ラヴ」など泣かせるナンバーがテンコ盛りです。
作家・宇崎竜童としてはドメスティックな歌謡曲や演歌とロックを融合させた作品が目立ちますが、それもそのはず。実は宇崎さんはDTBWBの前に既に作曲家として活動していたり、なんと自作品で歌謡曲歌手としてソロデビューを飾っていたこともあるそうで、レンジが広いのは元々だったというワケなのです。
作曲家として際立っているのは、夫人の阿木燿子さんとのコンビによる一連の作品であることは言うまでもないでしょう。
ヒット曲や名曲は枚挙にいとまがありませんが、今回のCDは1枚もの。よって数に限りがあり、1アーティスト1曲という感じで代表的ナンバーのみのピックアップした全20曲という構成になるようです。
BOXとかでじっくり堪能したいのはヤマヤマですが、せっかくの機会ですから収録順ではなく年代順にちょっと振り返ってみましょうか。
宇崎さんが作家として注目を集めたのは、やはりDTBWBがブレイクしてから。75年には和田アキ子の紅白出場曲「もっと自由に-Set Me Free-」や、DTBWBがバッキングを担当した映画「トラック野郎」主題歌で菅原文太&愛川欽也のコンビが歌った「一番星ブルース」という話題曲が相次ぎますが、最もヒットしたのは研ナオコのキャニオン移籍第一弾にして、本格派シンガーとしてイメージチェンジに成功した「愚図」でした。
そして76年の百恵ちゃんです。彼女の場合は自分から阿木+宇崎作品を所望したといいますし、別にナオコの成功を受けてというワケではないのでしょうけど、結局「横須賀ストーリー」をシングルで切ってイメチェン、見事にオリコン1位を獲得するのですから、結果的にはナオコの轍を通ったことになります。
とはいえ、メイン作家としてヒネリのある名曲を次々ヒットさせていきましたから、百恵ちゃんこそ阿木+宇崎コンビをヒットメーカーとして大きく開花させた存在だったといえるでしょう。
さて、演歌の心はロックの心と同一という説もありますが、歌唱力のある新人からも引く手あまただった宇崎さん。76年度の大型新人・内藤やす子はロック演歌、ブルース演歌というくくりで大ヒットを連発し「想い出ぼろぼろ」でレコード大賞最優秀新人賞を獲得します。
その流れが、77年の高田みづえ(今回は「硝子坂」)や、楽曲においては百恵ちゃんの派生といえる荒木由美子(今回は収録ならず)らの一連の楽曲へと続いていくワケです。
並行して由紀さおりの紅白出場曲「う・ふ・ふ」、水谷豊の「表参道軟派ストリート」、さらには百恵ちゃんのツッパリ路線が極まってきましたから、このへんが黄金期といえるでしょう。
今回は、昭和歌謡マニアに人気の高い豊島たづみのドラマ主題歌スマッシュヒット「とまどいトワイライト」も収録されますが、個人的にはやっぱり太田裕美の紅白出場曲「シングル ガール」。
当時は一部から百恵ちゃんのマネして大失敗と評されたものですが、太田さんは「ぎんざNOW!」時代から宇崎さんととても仲がよく(夫妻が経営してたブギウギハウスですいとんを食べていたそうな)必然の1曲だし、阿木さんが太田さんの舌足らずな音を生かすため必ず入れるラリルレロ(この曲ではル)も入っている力作なのです。まあ路線変更、低迷期の実験作ですし、確かに髪型とか衣装とか振り付けとか、珍しくセクシー路線でイメチェンしてすぐやめたナンバーですが…。
ビッグネームに書いた作品には野口五郎「裏切り小僧」や、桃井かおりにはCBS・ソニー移籍というか復帰第1弾「口説いてくれて」もありますが、百恵ちゃん路線のオファーと言えるのが柏原芳恵の「ちょっとなら媚薬」。「春なのに」の次なので人々の記憶には残っていないみたいですが、昭和最後の歌謡曲歌手・芳恵ちゃんのコッテリした魅力満載です。
あとは、今年、鈴鹿ひろ美として再ブレイクした薬師丸ひろ子の「紳士同盟」。♪なんてねのフレーズはとんねるずにギャグにされたほどですが、構成も含め名曲だと思います。
またカバー作品などもチョイスされていて、DTBWB「乾いた花」の香坂みゆきバージョン、豊島たづみ「寝た子を起こす子守唄」の加藤登紀子バージョン、さらには由紀さおりと競作になった長谷川きよし「TOKYOワルツ」も収録されるとか。
こうして挙げてたら、あの曲もこの曲も聞きたくなってきちゃった。BOXが出る前は、自家製作品集を作って楽しむことにしましょうか。
(2013.9.1)