オススメ復刻盤「永遠のアイドル」


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 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#604

永遠のアイドル

(2013.1.30発売、MHCL-2224、¥3,000)

70~80's女性アイドルポップス網羅のミニ百科!

 もしもアイドルポップスというものにめぐり逢わなかったら、どんな人生になっていたでしょう。
 私事をいえば、幼児の頃から青春時代までの日々は、とても味気なく淋しいものになっていたと思います。
 それは70年代から80年代というアイドルポップスが生まれ発展していった時代と、小学生から中高生、そして大学生という自らの成長期がぴったり重なっていたのが要因でしょうし、何より70年代前半の72~74年、80年代前半の80~83年という2つの空前のアイドルブームを、幸運にも両方とも体験できたことが大きかったと思います。

 こういうサイトをやってると、根っからのマニアでまったく売れなくて誰も知らないようなアイドルを珍重してしまうタイプだと誤解されがちなのですが、ワタシの場合はそうではなく、王道がイチバンという主義。楽曲もそうですし、アイドル自体にしても、子どもの頃から、例えば新人でも「明星」や「平凡」のカラーグラビアでプッシュされる人の方に魅力を感じる的な嗜好だったのでした。

 むろん、そうは言っても通好みを気取っていた若い時代は、聴き飽きたヒット曲や代表曲をスルーし、王道アイドルでもマニアックな曲を偏愛することが多かったものですが、立派な中年となった今では、同時代を生きてきた人たちと共有しているうたが、さまざまな思い出を蘇らせる道具になることを日々実感するにつけ、ヒット曲の魅力と本当の意義を日々再認識している次第です。

 そんなワケで、自分の生きてきた日々とアイドルポップスの歴史をリンクさせて聴き返す、というようなことも増えていたりして。そういう時は手軽なコンピ盤が重宝するもので、ここ数年はポニーキャニオンの決定盤!!シリーズとして出た「 決定盤!! 「歌謡ポップスの時代」ベスト 」や「 決定盤!! 「アイドルの時代」ベスト 」が、メーカーの枠を超えざっくり網羅している感じで愛聴しておりましたが、このたびもっと愛聴できそうなアルバムが登場することになりました。

 それが2013年の幕開けを飾る2枚組、「 永遠のアイドル 」。カラーテレビをステージに展開された女性アイドルの歌、すなわち70~80年代のアイドルポップスの変遷を学ぶミニ百科とでもいえそうコンピ盤です。

 ディスク1が70年代、ディスク2が80年代という構成ですが、よくあるデビュー順ではなくチョイスされた楽曲の発売順に収録されているので、ひと味違う面白い感覚を味わるような気がする編集となっています。

 70年代編のディスク1には、J-POPアイドルの元祖、我らがシンシア・南沙織「17才」から、異常人気とまでいわれ社会現象となった国民的アイドル・真理ちゃんの「ひとりじゃないの」、予約だけで数十万超えというその後のアイドルビジネスを予感させた“第二の天地真理”・ミヨちゃん「赤い風船」というソニーのビッグアイドルたちを筆頭に、錚々たる顔ぶれ。

 特筆すべきは、いつも選ばれる定番の代表曲とは違うヒット曲がかなり入っていることで、アグネスならば唯一のナンバー1ヒット「小さな恋の物語」、百恵ちゃんなら最初のナンバー1ヒット「冬の色」、サッコなら最初のトップ10ヒット「木枯しの二人」、ヒロリンなら1位を獲っているのに影が薄い名作ディスコ「センチメンタル」、キャンディーズなら結構ハードな「ハートのエースが出てこない」、太田さんなら木綿に続く大ヒット「赤いハイヒール」、淳子なら中島みゆきによるイメチェンヒット「しあわせ芝居 」、ピンク・レディーなら最後のNo.1シングル「カメレオン・アーミー」というようにとっても新鮮で、金太郎飴化してしまいがちなこの類いのコンピ盤とはちょっと異なる趣があるのも魅力です。

 70年代後半に人気を二分した榊原郁恵と石野真子が漏れているのが唯一ザンネンだといえますが、NM全盛のあおりでオリコンのトップ10ヒットがないものですから、しょうがないのかも。
 その代わりといってはナンですが、記録より記憶に残るという点での名曲も入っていて、それがザ・ピーナッツの後継として登場した双子のザ・リリーズ「好きよキャプテン」、スタ誕期待の大型新人だった清水由貴子「お元気ですか」、アイドル不作の79年にあって新人賞を総ナメにした倉田まり子「HOW!ワンダフル」。これで70年代は終了します。

 そういえば70年代アイドルポップスの再評価が本格的に始まったのは、81年のリバイバルブームを経て83年に廃盤ブームが盛り上がったあたりだと記憶していますが、それは80年代頭に爆発的アイドルブームが到来したこととも無縁ではないでしょう。
 しかし、70年代と決定的に違ったのは、アイドルとニューミュージックとの融合。ターゲットは重なっていたものの以前は棲み分けがなされていた両者ですが、次第に垣根はがなくなり、アイドルポップスもシンガー・ソングライターからの提供曲が当たり前という時代になっていったのですから。

 ということで、80年代のディスク1はデビューからカバー曲だった高田みづえの返り咲きヒットにしてサザンのカバー「私はピアノ」からスタート。
 他にも石川ひとみのユーミン作品「まちぶせ」、柏原よしえによるアグネスのカバー「ハロー・グッバイ」とブレイクナンバーが続くほか、制度としてニューミュージックとの融合を成功させた松田聖子の細野晴臣作品「ガラスの林檎」を筆頭に、映画女優アイドルとして一線を画した薬師丸ひろ子の大瀧詠一作品「探偵物語」、ロリータな伊藤つかさの南こうせつ作品「少女人形」、ヤマハ系の自作自演アーティストだった松宮恭子が石川秀美に書いた「Hey!ミスター・ポリスマン」、70年代アイドルの香坂みゆきが84年に放ったEPO提供の初ヒット「ニュアンスしましょ」と、NM系が並んでいます。
 職業作家さんの出番が少なくなった80年代ですが、河合奈保子「エスカレーション」、早見優「誘惑光線・クラッ!」と、筒美京平先生が気炎を吐いているのも見逃せませんよね。

 人選では、明菜やキョンキョンといった花の82年組のビッグネームが漏れているのが気になるところですが、80年組のMMK(聖・順・奈)から、異色のわらべやおニャン子などテレビ番組の企画から生まれた面々、パンツの穴の菊池桃子「もう逢えないかもしれない」、スケバン刑事の南野陽子「楽園のDoor 」ら女優系まで、80年代らしいアイドルがそろっているのでよしとしましょうか。

 今日まで続くヤングポップス、アイドルポップスは、かつての新興レコード会社CBS・ソニーが創り上げたニッチなジャンルと言っても過言ではないと思いますが、それは、70年代の百恵ちゃん、80年代の聖子と、両時代を象徴するトップアイドルを輩出していることが証明しているといえましょう。
 この2人に加え、いろんな意味で伝説の存在となったキャンディーズは、さすが別格扱い。ここでは2曲ずつ選曲されていますが、ソニーからのリリースでなくとも納得という感じです。

 こうしてアイドルの変遷を追ってみると、70年代と80年代というダブルディケイドって、大きく時代や価値観が変化し、その当時ですら隔世の感が大きくあったのに気づきます。

 例えば70年代アイドルに代表されるのが大流行したストレートロングのセンターパーツというヘアスタイル。あの頃は、毎日シャンプーするなんていうこと自体がとんでもなかった時代です。
 ミヨちゃんや百恵ちゃんのカオーフェザー、ヒロリンのスウィング、松本ちえこの資生堂バスボン、PLのシャワランビューティなどなど、ここに出てくるアイドルもCMに出てましたし、明星のヘアケア特集なんかでも、ロングヘアのアイドルなんかは1週間に1回というコも多かったものです。
 リンスを洗面器で溶いていた時代、髪を大事にするコたちはみんなシャンプーを薄めて使っていたりしたんですよね。

 それが80年代になると、パサパサな質感が素敵だったサーファー・段カットや、聖子ちゃんカットのパーマヘアの定着とともに、ヘアケアの常識も一新。エッセンシャルの明菜いわく「2人に1人が毎日シャンプーしてるんだって」という時代から、優ちゃんの髪にもコロン、薬師丸さんのちゃん・リン・シャンへと、朝シャンが習慣化する事態にまで進化していったのですから。

 そういえば聖子がサラサラのストレートに変身した83年あたりからはストレートパーマが普及したように記憶していますけど、70年代、マコのような縮毛のコたちは高価な漢方薬シャンプーで髪質改善を図っていたんですよね…。

 と、余談が長くなりましたが、なんだか、このコンピで歴代アイドルの変遷を聴けば、その中に忘れてしまった時代のシーンが確かに見えてくる気がしますし、そういう意味でも意義のあるCDといえそう。
 時代を映す鏡である流行歌の中でも、アイドルポップスにはヤングの世相風俗がしっかり反映されているのですから、そういうことも含んで聴くのが最も理想的な聴き方ではないかと思っています。

 確かにこのアルバムはアイドルポップスの歴史を学ぶのにもうってつけですけど、ここはぜひリアルタイム世代の皆さんに、感慨にふけりながら聴いていただければ幸いです。ホント、メロディーのすきまから親や先生の小言までもがよみがえってくるかもしれませんから。

(2013.1.4)

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