ポルトガル録音による本場のファド収録のサード!
“擦り切れるほど愛聴した名盤をもう一度聴きましょう”を合い言葉に、今春から展開されているソニーミュージック・日本の名盤復刻シリーズ。そう、かつてのCBS・ソニー、EPIC・ソニー、アルファ、RCA、ファンハウスと、現在ソニーミュージックから販売されているレーベルから出た歴史的名盤の復刻・再発です。
CD選書の再来を思わせる1枚1,890円というナイスプライスなのに、アナログ時代の名盤がより一層原音に忠実なBlu-spec CD2でよみがえるとあって、各アーティストのファンからは大いに歓迎されている模様。
7月24日リリース分はこちらで紹介していますが、今回はピックアップ編ということで久保田早紀さんをば。
第1期で衝撃のデビューアルバム「 夢がたり 」とセカンド「 天界 」がリリースされ、今回は続く「 サウダーデ 」と「 エアメール・スペシャル 」と順番通り、順調なブルスペ2に進んでいる早紀さん。現役時代よりもスゴイ再評価が続いている気がしますが、それもそのはず。
ここ十年ぐらいの状況を見ても、オーダーメイドファクトリーで未CD選書化だった後期3作が何度もアンコールプレスされたり、フェアウェルコンサートの映像ソフトのDVD化や、そのライブ音源をCD化したスペシャル企画が実現したり。CD選書にしても20年以上ロングセラーを続け、延々と生き続けるタイトルがあったり、最終的にはオリアル全タイトルが紙ジャケ化され即完売したりするなど、「異邦人」しかなかったように扱われてた頃の飢餓状態がウソのように、切望されちゃんと数字が出るアーティストになっていたんですよね。
それもまた孤高の異邦人・久保田早紀らしいなとひとりごちる次第なのですが、とはいえ早紀さんのアルバムの中でイチバン聴いたのはやっぱり「夢がたり」。クオリティ的な部分でも、作品に映し出された早紀さんの状態にしても、最高傑作という称号はその通りと言えるでしょう。
シングル「異邦人」でKOされ、LPを買い求めた小6のクリスマス以来、CD選書、紙ジャケ、ブルスペ2と、メディアが変わっても特別なアルバムとして愛聴し続けていますし、「帰郷」とか「星空の少年」とか、何度聴いても飽きることがありません。
しかしながら、最も衝撃を受けたアルバムというと、早紀さんのルーツとも言えるファドの世界が色濃いサードアルバム「 サウダーデ 」なのですね。それも「異邦人」のファドバージョンを含むポルトガル録音のA面です。
個人的な事を申せば80年11月、このアルバムを聴いて初めてファドという音楽があることを知ったのです。むろんファドと言ってもトラディショナルではなく日本で作った久保田さんの作品をポルトガルの有名な奏者のバッキングで録音したものですが、その祈りにも似たギターの響きは、ゆるやかなのに激しく迫ってきて、当時13歳のワタシの魂をドーンと揺さぶったのでありました。
中でも「アルファマの娘」の狂おしいまでの悲哀は小品だけに余計に染み入って、取り憑かれたように何度も何度も聴いたりしたものです。
あの歌というか、このアルバムの根底にあるのは、本場のポルトガルギター奏者による演奏の素晴らしさだとか、紡ぎ出す物語の哀しさというものだけでなく、まぎれもないファドの魂だと思うのです。人生というさすらいの旅に寄り添い、どんなときも苦楽を共にする調べ…。
それは、歌謡界という異国を彷徨した久保田早紀のサウダーデそのものだったからこそ、ここまで胸に響いてくるのではないでしょうか。そしてその分、ジプシーの性というか、業というか、旅を終え荷をほどく間もないうちにまた旅立つような、東京録音のB面も余計に味わい深く聴こえるのだと思います。
きっかけは大ヒットのご褒美のポルトガル録音だったとしても、きっと運命的で必然的だったファドアルバム。久保田早紀のうたの神髄が感じられるこの名作が、今回のブルスペ2化でまた1人でも多くの人に聴き継がれていくことを願っています。
(2013.6.14)
*名盤復刻シリーズについての詳細は、特設サイトまたは
SonyMusicShop
をご参照ください。
復刻タイトルのリクエストもできます。
*ソニーミュージックのオーダーメイドファクトリーでは2005年に復刻されたアルバム「
見知らぬ人でなく
」「
ネフェルティティ
」「
夜の底は柔らかな幻
」(通常CD)および2010年に商品化された引退コンサートのライブアルバム「
フェアウエルコンサート 1984.11.26 (CD2枚組)
」(こちらで紹介)も、ケイゾク販売商品として限定再販売!