EPIC時代の名盤9タイトルがブルスペ2で再発!
昨年のさとがえるツアーはなんと清水のミッチャンと敢行し、大好評を博したアッコちゃん。
ミッチャンはアッコちゃんのモノマネで認められたといっても過言ではない筋金入りのファンですし、アッコちゃんファンは自然とミッチャンファンになるという図式があるとはいえ、ゲストではなく2人でのツアーなんて、まさに懐の広さを見せつけた感があります。
ますます精力的な活動は続くようで、今月には、アッコちゃんをママと慕っていた忌野清志郎トリビュートのニューアルバム「 矢野顕子、忌野清志郎を歌う 」をリリース。
さらに4月からはそれをひっさげたピアノ弾き語りツアー「 矢野顕子、忌野清志郎を歌うツアー2013 」も控えていますが、このタイミングで、90年代から2000年代頭にかけ、EPICレーベルに残したオリジナルアルバム9タイトルが、Blu-spec CD2のウレシイ廉価盤(名盤復刻シリーズではない模様)として再発されることになりました。
映像作品も昨夏のブルーレイBOX「 1980's 矢野顕子ライブ Blu-rayセット 」(こちらで紹介)、暮れの初DVD化「 矢野顕子S席コンサート [DVD] 」と復刻がゾクゾクと進んでいますので、コレクションするファンにはウレシイ悲鳴を上げる人も多いことでしょう。
さて、アッコちゃんの90年代というと、キョージュとともに一家でアメリカ・ニューヨークに移り住んだ時期。EPICということからもわかるように、それまでの自由奔放さとはひと味違い、売れ線というかポピュラリティも意識したかのようなアルバムづくりを進め、ファン層を拡大した時代だといえるでしょう。
それはチャートアクションを見ても明らかでありますが、ビギナーの方にもオススメしたいのが、ピアノが愛した女ならではの弾き語り3部作。
古今東西、自らの価値観で選んだ曲たちを、自らのものさしでアレンジしたお家芸ともいえるカバー集ですが、とてもナチュラルで聴きやすいのです。
事実、アッコちゃんにアレルギーを持つ人でもこれらのアルバムだけはOKという人も多いですし、形骸化した日本のコンサートシステムに疑問を呈して出前コンサートを興し、全国のへき地を回ったピアノヤキコの真骨頂ともいえるアルバムですからね。
むろんジャズのスピリットをルーツとするアッコちゃんですから、即興的で原曲をとどめてないものもありますが、いずれも卓越したタッチと洗練された構築力による有無を言わせぬ仕上がり。
何より研ぎ澄まされた感性と、張り詰めた演奏空間の空気まで録音(エンジニアはもちろん吉野金次さん)されていますから、緊張と緩和のバランスといいますか、スリリングな味わいがクセになってしまう出来なのです。
まずは92年、オリコンアルバムチャート10位にランクインした「 SUPER FOLK SONG 」。盟友・糸井重里のタイトル作をはじめ、あがた森魚「大寒町」、佐野元春「SOMEDAY」、大貫妙子「横顔」、山下達郎「スプリンクラー」、THE BOOM「中央線」、イッセー尾形「おお、パリ」など、まさに交友録といえる選曲が秀逸。
東京と長野のホールという場所にもこだわり、一発録りで気の済むまで行われたレコーディングの模様は、今は亡き坂西伊作さんによるフィルム「SUPER FOLK SONG - ピアノが愛した女。」として世に出ています。
次は、オーストリアのお城とロンドンでレコーディングされた95年の「 Piano Nightly 」。オープニングはコラボが続いていたTHE BOOM「虹が出たなら」で、いきなりのヴォーカルから始まるのですが、録音が良すぎて、わが家のチンケなステレオでは音が割れることもありましたが、ブルスペ2でどう変わるか、また楽しみです。
大貫妙子「突然の贈りもの」、小坂忠「機関車」、細野晴臣「恋は桃色」、加藤和彦「ニューヨーク・コンフィデンシャル」など渋い作品が素敵ですが、アイドルフリークにオススメなのは、シングルカットもされた「想い出の散歩道」。オリジナルは、アッコちゃんがスタジオミュージシャン時代にピアノを担当していたアグネス・チャンでした。あとは薬師丸ひろ子に提供した「星の王子さま」のセルフカバーといったところでしょうか。
選曲における最大の特長は、友部正人作品がとにかく光っていること。石川セリへの提供作「フロッタージュ氏の怪物狩り」、涙なしには聴けない「愛について」は、ピアノはアッコちゃんの体内器官ではないかと思えるような演奏と相まって特に秀作だと思います。オリコン21位。
そして2000年の「 Home Girl Journey 」。
山下達郎の「Paper Doll」、大貫妙子「会いたい気持ち」をはじめRCサクセションの「海辺のワインディング・ロード」、パール兄弟の「世界はゴー・ネクスト」ら旧知の仲のナンバーはもとより、槇原敬之の「雷が鳴る前に」から、ORIGINAL LOVE「夢を見る人」、奥田民生「さすらい」、そしてSMAPの「しようよ」まで、新しい面々も選曲されていますが、全体的にワビサビに通じる世界観が貫かれています。
であるがゆえ、音も含めかなり内省的で、リスナーにとっては敷居の高いアッコちゃん家で聴いてるみたいな、ある意味閉鎖的な雰囲気も漂うのですが、それはNYのプライベートスタジオでレコーディングされていることと関係しているのかもしれません。
オススメは、Beautiful Songsコンサートからおなじみとなった、ムーンライダーズのカバー「ニットキャップマン」。常田富士男さんの笑顔がほっこりさせてくれる名曲です。オリコン38位。
ちなみにこの流れのアルバムはヤマハへ移籍後も展開され、2010年には「 音楽堂 」を発表。百恵ちゃんの「いい日 旅立ち」などもカバーされています。
なお、残りの6枚は、天才バカボンを歌った傑作「BAKABON」が入った「 LOVE LIFE 」(91年、21位)、夏やすみの子供にむせび泣く「CHILDREN IN THE SUMMER」の「 LOVE IS HERE 」(93年、12位)、イトイさんとの最高傑作ではないかと思う「にぎりめしとえりまき」の「 ELEPHANT HOTEL 」(94年、16位)、渚ゆう子「京都慕情」の新解釈が楽しめる「 Oui Oui 」(97年、21位)、ジブリ映画(「ホーホケキョ となりの山田くん」)の主題歌が入っているるもののかなりテクノに回帰した「 GO GIRL 」(99年、29位)、大貫妙子とザ・ピーナッツの「ウナ・セラ・ディ東京」を演った「 reverb 」(02年、64位)という作品。
いずれも世界の天才ミュージシャンたちとともに、ホントにカッコイイ音楽というものが妥協なく追求されていますので、とりあえず弾き語りから入って、ほかの多彩なアルバムへと進んでいただくのがイチバンではないかと思っています。
(2013.2.4)