ナツメロ喫茶店/うたノートvol.46


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.46

さよならなんて云えないよ/小沢健二

(作詩、作曲、編曲・小沢健二、CDS「さよならなんて云えないよ」1995)



 たいてい11月のはずなんだけど、今年は遅めで12月に入ってた。風が冷たく透き通ってきたのを頬じゃなく肺で感じて、このうたを思い出し、やがてサビを口ずさんで少しだけ哲学的になったのは。でも、まるで年中行事じゃん、去年もおとどしもそう思ったよなと自嘲気味に笑うのはまったく同じだったりして。

「美しさ; oh baby ポケットの中で魔法をかけて/心から; oh baby 優しさだけが溢れてくるね」

 美しい日々を反芻してみては実際よりもより記憶に美しく残ってゆく所以を考えたり、毛糸の手袋と心の優しさにおける温もりの相似性を結びつけたり、ときどきは背伸びして遠くの山を見つめたりして、ひとしきり思索して。そして思い出したように本棚を漁り「劣等感が深刻な人も絶えず褒められていないと気持ちがもたない。褒められないことを批判されたと受け取る」という箇所に赤線を引いた「心の『とらわれ』にサヨナラする心理学」(エレン・ランガー著、加藤諦三訳)の訳者解説を読んで、みえみえのお世辞の心地良さと目には映らない思いやりの厳しさの刹那的な差異などについて熟考するうち、グーグー居眠りしたりして午後を終え。

「南風を待ってる 旅立つ日をずっと待ってる/“オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら/本当は分かってる 2度と戻らない美しい日にいると/そして静かに心は離れてゆくと」

 そうして、やらなければならないことを止めた人や、休んだ人や、再開した人や、いろんな状況や立場の人たちのことをまたつらつら思い出しつつ、今年という、ホントはさほどじゃなくても、やがて美しさを伴って思い出す日々を見送る支度に入る。2度と戻らないから美しいのだということにとっくに気がついているのに、1日1日を大切にしてきたとはいえない体たらくを少しだけ悔やむやいなや、すぐに赦したりしながら。

「いつの日か; oh baby 長い時間の記憶は消えて/優しさを; oh baby 僕らはただ抱きしめるのか?と/高い山まであっというま吹き上がる/北風の中 僕は何度も何度も考えてみる」

(2010.12.13)

note:CDS「さよならなんて云えないよ」1995.11.8発売
渋谷系なんていう言葉も懐かしいフリッパーズ・ギター解散後、1993年にソロになった小沢くん。シングルリリースの頻度が高かったんで、コレが早くも10枚目でした。「12個だからダースです。」、そんなセリフが条件反射的に出てきてしまうのは、オザケン自身が出演した森永チョコレート「ダース」のCMが鮮烈だったからです。今も「ダース」を食べる時、無意識につぶやいちゃうもの。楽しい日々が過ぎ去ってもへっちゃらだったことに気づくのは、二度と訪れない今日という貴重な時間を実感した日——そんな青春の光と影が過不足なく表れた名作ですね。そのノスタルジーは、詩の素晴らしさだけじゃなく、体育会系男声コーラスの賜物かも。マイケル・ジャクソンの「Black Or White」クリソツのイントロのフレーズも話題になりました。オリコン最高14位。
なお、97年にはリアレンジの上「美しさ」と改題、一部改詩してジャジーにレコーディング、シングル「ある光」のカップリングに収録されました。この歌も2003年に出たベスト盤「刹那」では「さよならなんて云えないよ(美しさ)」というタイトルに変更されています。2010年に開かれた13年ぶりのコンサートツアー「ひふみよ」でも歌われました。

◎いまCDで聴くなら… 刹那


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