ナツメロ喫茶店/うたノートvol.33


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.33

ピカデリー・サーカス/松任谷由実

(作詩、作曲・松任谷由実/編曲・松任谷正隆 CD「そしてもう一度夢見るだろう」2009)



逢わなくなって、もう何年もたつひとが
突然いなくなったとしても、
そばにいないのだし、
もう何年も逢っていないのだから、
胸は痛まないはずだ。

昨日までは、確かにそう思っていました。


「ピカデリー・サーカスに出れば
 バスやタクシーひしめき合い
 まるで昔と変わらない夕暮れ」

このうたを初めて聴いたのは、今から3カ月ほど前。
ぬるい風が吹く春の夜のことでした。

「心に書き溜めた歌と
 胸に刻みつけた炎と
 他に何も持ってなかった昔」

初めてなのに懐かしい。
過去のようで未来みたいな、
まるであのひととの思い出のようなうたでした。

「今も探してるあの頃を
 戻らないけど
 失くさない憧れの街」

映画と音楽と舞台が大好きで
ユーミンのうたを心から愛していたあのひとから、
小さな便りが届けられたのは、ちょうどその頃のことです。

「どこに忘れたのあの歌を
 雨に濡れても弾いていた
 ギターケースの底」

そこには、このうたを聴いてとても勇気づけられた、
もう一度夢見る決心をしたと書かれていました。

新しい人生のトランジットは、
若い頃とはまた違った、力強い希望にあふれていたと思います。
あの時と同じく、親指を立てて満面の笑顔を見せていたと思います。

「ピカデリー・サーカスに出れば
 初めてこの場所に来た時の
 何も怖くない自分のように」

みんなそれぞれに、限りある今の人生を歩いています。

出会ったり別れたり、正しかったり間違ったり、
手に入れたり失ったり、愛したり憎んだり…。

相反することを繰り返しつつ、前に進む日々の中で、
最期だとしても、もう一度夢見ることができたのならば
きっと幸せな人生だったと思えるはずですよね。

しくしくと痛む胸を押さえながら
このうたに問いかけると、
「そうだよ」という声が聞こえてくるような気がします。


「誰もまだ知らぬ歌と
 雨に灯りだす街の灯と
 そしてもう一度夢見るだろう」

dedicated to S.T

(2009.7.17)

note:CD「そしてもう一度夢見るだろう」2009.4.8発売
これはまるで、21世紀の「時のないホテル」。初めて聴いて久々に魂を奪われたユーミンの1曲です。オリコン最高4位をマークした最新アルバムのオープニングを飾っています。老成した若者みたくもあり、無垢な老人のようでもある…魔女・ユーミンだけにしか説けない陰陽学が、ここに極まったような気がします。きっと多くの人に、老いてもなお湧き上がる新しい勇気の存在を気づかせ、多くの人を奮い立たせたことでしょう。

◎いまCDで聴くなら… そしてもう一度夢見るだろう


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