それは、タイムマシーンに乗ってあの暑い暑い夏の日からやってきた、若き自分自身からの問いかけです。
モノやカネをたくさん欲しがって、でもどんなに手に入れても全然満たされず、もっともっと欲しくなって…。そんなことを幾度も繰り返し、結局は求めるほど満たされなくなる心の存在に気づきかけた頃。
刹那的な快楽主義が横行する中、詩もメロディーもサウンドも素敵なこのうたは、人生の悟りを説くようにやさしく、甘美な白日夢から早く目を覚まさせるように強く、心に深く深く響いてきました。長い長いうたですが、とても心地よく、聴き終わった後は木陰の風に汗がすっと引くみたいに、清々しい気持ちにさせてくれたものです。
もちろん、それはあの時代、コイズミさんだけが持ち得た圧倒的な説得力があってこそ。このうたにエバーグリーンな真実を感じてしまうのは、楽曲の良さだけではなく、最先端のトレンドとして流行を創造し続けたコイズミさん自身の、とても普遍的だった輝きによるものだと痛感します。あれは確かに、少年少女をはじめ多くの老若男女が共感し、あこがれ、崇拝し、それぞれがめざそうとした姿でした。
もう二十年も経ちましたが、このうたはあの夏からまっすぐにやってきて、あの夏と同じように、やさしく強く、この心を揺さぶります。あの日の自分に胸を張っていられるかどうか…。
二十年経っても、まだまだ迷って悩んで傷ついているし、夢も愛も幸せも、いまだ何色だかわからないし、あの日探してた答えも、いまだ出せないでいるけど。相変わらず努力はできていないけど。
でも、一生懸命がんばっていたあの日の気持ちだけは、けして忘れず生きている。あの日の自分が見たらカッコ悪いと言われそうだけど、この歳になっても、ある意味あの日に負けないくらい、どうにかこうにか一生懸命がんばっている。ならば、あの日の自分は、及第点ぐらいはくれるかな。
そんな風に自問自答する時、心の中のどっか負けそうで、かなり弱虫で、すぐ泣いてしまいそうな隅っこの部分が、このうたに呼び覚まされ、小さな勇気を持って奮い立つのを感じます。
そう、このうたこそが、あの日の自分自身であり、夏のタイムマシーンなのです。厳しくも深い愛情に満ちたお目付け役のような存在として、ともするとすぐ堕落してしまうココロに、この夏も小さな勇気を与えてくれています。
(2007.8.15)
note:12inch EP「夏のタイムマシーン」1988.7.6発売
オリコン2位のワリに知らない人も多いようですが、知ってる人からは大きな共感を集め、根強い人気を誇る胸キュンナンバー。田口俊の詩はノスタルジックな中にも前向きな姿勢が強く出ていて、このうたに励まされるという声は多く聞かれますね。もちろん筒美先生のメロディーも素晴らしいし、川村さんのアレンジも最高です。なお、レコードは時代の寵児であった新人類、コイズミさんお得意の12インチ。それもあってか、このうたは9分44秒と、とにかく長い。プロモーション用に「短編」もあり、コンピ盤で商品化されました。巷のカラオケはさすがに短編となっていますね。
◎いまCDで聴くなら… KYON3