ナツメロ喫茶店/うたノートvol.10


ナツメロ喫茶店

うたノート.jpg

  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.10

朝陽の中で微笑んで/荒井由実

(作詩、作曲・荒井由実/編曲・松任谷正隆 LP「14番目の月」1976)


形あるこの世界では、永遠に残るものなどありはしない。
移りゆく時の流れや人の心に、抗うことはできやしない。

けれど、ただひとつの何かを信じて、ただひとりの誰かに向かって、歩いていきたい。
それが、つらく険しい道のりでも、重荷を抱えゆく孤独な旅でも。
行く先を、ひとすじの光が照らしている限り。

とは思っていても、その行方すら、確かではないのかもしれない。
焦がれる気持ちが見せる、うたかたの夢なのかもしれない。


信じていても道に迷ってしまうのは、恐れが蝕む、こころのひび割れでしょうか。
それとも、諦念のやるせない甘さや、滅びの美しさが惑わす、哀しい誤解でしょうか。
もう長いこと歩き続けているのに、たどり着く先が遠のいて見える時や、重いため息をついてしまうことさえあります。

そこまでして、どうして行くのか。
道の傍らで出会う人は、肩に食い込む荷物と血のにじんだ足元を見やり、みな一様に憐れみの表情を浮かべます。
一杯の水を差しだし、ともに歩こうと微笑みかける人もいますが、けして道連れにすることはできません。

しばしの休息。足をさすりながら、重荷を背負いなおしながら、また気を取り直して歩き始めます。まるで泳ぎ続けないと死んでしまう魚のように、ただ一人。

そしていつしか気づくのです。
たどり着くことではなく、歩き続けることにこそ、大きな意味があることを。




 荒井由実やハイ・ファイ・セットでおなじみの、このうた。もう長いこと聴いてきたのに、ワタシは今になってこのうたの真実を知りました。それはあの「シャングリラIII〜ドルフィンの夢」が教えてくれた、とても哲学的な思想に基づいた真実です。
 発表された当時、ユーミンの感性がこのうたの出自である映画「凍河」に映し出したテーマとは、まったく違うのかもしれない。30年以上を経た今になって、新たに紡いだ後付けの物語なのかもしれない。
 けれどワタシは、宇宙の真理にも似た、この哲学的なうたが示すものを確信したのです。奈落の闇の上を、重荷を背負いながら、命がけで進む綱渡りの背中に。

(2007.7.19)


note:LP「14番目の月」1976.11.20発売
 オリコン1位を記録した荒井時代最後のアルバムは、ジャケットもサウンドもさらに洗練され、山の手セレブなアーバンリゾート感がたっぷり。引退するつもりだったというのもうなずけるほど、ユーミン渾身の仕上がりとなっています。「朝陽の中で微笑んで」は宇宙観というか、死生観というか、とにかく哲学的な壮大なテーマが感じられる佳曲で、アルバムでも異色のナンバーです。そもそもは中村雅俊と五十嵐淳子が共演した松竹映画「凍河」用に作られたもので、ハイ・ファイ・セットがアルバム「ファッショナブル・ラヴァー」で先にレコード化。2003年には諫山実生がドラマ「動物のお医者さん」主題歌としてカバーしています。

◎いまCDで聴くなら… 14番目の月  


Back Numbers


Archives

現在はありません


Shops


Search Box