ナツメロ喫茶店/うたノート vol.19

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.19

サヨナラバス/ゆず

(作詩、作曲・北川悠仁 CDS「サヨナラバス」1999)


 
 うたは、歩いてきた過去に落としてきたドロップのようだ。甘いやつも苦いのも、大きさもそれぞれで、なめている間はその時の気持ちがあざやかによみがえる。だから、ときどき振り返り振り返り、拾い集めて同じ缶に入れる。

 過ぎてみれば、どんなものでも味わい深く思えるし、とびきり辛いフレイバーでも明日を歩く糧になることもある。だからいつも缶を振っては取り出して、舌の上で転がしながら生きている。


 あたたかそうで肌寒い、こんな春の日は、ズルして缶の中をのぞきこむ。今日と同じような風が吹いてた、あの日のドロップをなめるために。

 そう、あの日はいろんなものに別れを告げて、ひとりでバスに乗った。もう一人の自分にも、ちぎれるほど手を振って。
 ヘッドホンでこのうたを聴きながら、小さなトランクを網棚に投げ入れた時、決めた。書きためていた小さなメモを、大きな蜘蛛の巣の上にそっとのっけることを。


 あれから9年。鈍行の路線バスは、特急の高速バスになったりしながら、車窓はどんどん変わっていった。蜘蛛の巣の上に置く紙切れもみるみる増えてった。あっという間のような気もするし、ずいぶんと長かったような気もする。

 たくさんうたを聴きながら、たくさんメモを取りながら、今もこうしてサヨナラバスに乗っている。そろそろ下車をしなくっちゃ。それとも次で乗り換えようか。いつでも降りられる準備はできているけど。


 そんなことを考えつつ、もひとつドロップを放り込む。この1個が溶けきって、涙も乾いてしまうまで、もうしばらく揺られていよう。

(2008.3.4)

note:CDS「サヨナラバス」1999.3.17発売
ゆずっ子でなくとも思わず涙ぐんでしまいそうな、永遠の胸キュンナンバー。春という季節だからこそ、胸を打つのだと思います。明るくて悲しくて、楽しくて淋しくて、詩と曲、サウンドのバランスが絶妙な、これぞエンターテインメント。普遍的な青春の世界を、きちんと引き継いでいるゆずだからこそ成しえたうただと思います。オリコン4位。

◎いまCDで聴くなら… Home[1997~2000]  


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