つい赤線を引いてしまった一文やフレーズ。
それは、探しあぐねた末にようやく見つけた真実でした。
ページが薄汚れてしまうまで、
貪るように読み返し、胸に刻んだ活字たち。
それは、迷いを消し去り、行く手を照らす福音の言葉でした。
あの頃の松田聖子のうたも、それらに似ている気がします。
「強く生きたいの
時の波を
進んでゆく船のように」
いや、彼女の声が奏でる調べの方が、もっと確信に満ちている。
一つ一つの言葉は宙を流れ、目には見えないのに、
啓示にも似た響きをもって光りはじめたのですから。
ただ感覚的に歌ったにすぎなくても、まっすぐに伝わる言葉。
たとえ嘘偽りだったとしても、信じざるを得ない真実。
それは、傍線など引かずとも、
おのずから浮かび上がる金のレリーフのようでした。
「遠いパシフィック
あなたなしで
生きてゆける自信がある」
何気ない一節でさえ、世紀の金言に変えてみせる錬金術。
あの頃の松田聖子のうたが、彼女の声という楽器だけが成しえた芸当。
80年代の松田聖子って、やっぱり奇跡です。
(2009.6.18)
note:LP「プルメリアの伝説 天国のキッス」1983.7.1発売
先日、チャンネルNECOの“聖子に恋した80's”特集でつい見てしまいましたけど…。中井貴一と共演した同名東宝映画の2枚組オリジナル・サウンドトラック盤。さすが人気絶頂期だけあって、映画は作品の内容や演技を問われることなく大ヒット。このサントラもオリコンのアルバムチャートで1位を獲得していますが、なんてったってこの名曲のすごさよ。ティンパニとホルンが絡むイントロは荒天の太平洋のうねりそのもので、昔よく見た台風前の灰色の太平洋とオーバーラップしてしまいます。詩も曲もアレンジも、崇高の域に達したと言ってもいいほどではないでしょうか。84年のCD特別企画「Seiko・Avenue」で初CD化。以来2000年のBOX「SEIKO SUITE」、06年の10万円BOXと、CDではおそらくこの3タイトルでしか聴けない上、現在はすべて入手困難という不遇の名曲です。むろんBlu-spec CD化からも漏れているので、これはやはり紙ジャケBOX「PREMIUM BOX」を待つしかないですね。
◎いまCDで聴くなら… Seiko Matsuda (完全生産限定盤)