出会いと別れが行き来する春の日には、あの名唱を聴きたくなります。
そう、シンシアのこのうたを。
デビュー以来常に引退を考えていたという苦悩と、その悩みをいっときでも昇華してくれるうたへの希望とが交錯し、ある意味絶唱のようにきこえてしまうのです。
それは、冒頭のシンシアが訥々と語る、とても哲学的で内省的なモノローグ(有馬三恵子作)のせいかもしれない。
「生きるという事はひとり、ひとりと思う事はせつないけど、だから愛せるのかもしれない…」
幼い私はこのナレーションを呪文のように唱え、年端もゆかぬ子どもなりに、何となく分かったような気でいました。それはきっと、神々の教えが、理解を持たぬ小さき者にさえしみわたってゆく様子に似ていたことでしょう。
そしてこのうたが示す真理は、もう35年近く経った今でもこの胸にしっかりと刻まれています。
楽曲は、有馬・筒美コンビの最高到達点と言える出来栄え。とにかくスケールの大きなうたで、78年の引退コンサートでもフィナーレを飾った名曲としてもおなじみですが、その魅力には、高田弘さんのお家芸である美しいストリングスが大きく関わっています。
希望は絶望に終わることがない。
うちひしがれてしまった時、道に迷った時、このうたはまるで天からの音楽のように私を導いてくれています。あの頃から、ずっと。
(2007.4.2)
note:LP「ヤングのテーマ 20才まえ」1973.9.21発売
南沙織7枚目のオリジナルLPにして、欲張りで完成度の高い名作。17才から19才までの軌跡を追うヒットメドレーも収録、成長を記録したメモリアルアルバムとしても堪能できます。チャートでは最高5位ながら、セールスでは自己最高をマーク。ナレーションを交え、大人への予感や喪失感、恋人への母性、若者批判に対する弁明…ふたしかな世代の心情を感覚的に綴った作品が並びます。有馬三恵子が構成を担当、まさにヤングの思いの丈をぶっつけた詩集と言える仕上がりです。
◎CDで聴くなら… GOLDEN☆BEST 南沙織 コンプリート・シングルコレクション