ナツメロ喫茶店/うたノートvol.50


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.50

今だけの真実(ほんと)/斉藤由貴

(作詩・斉藤由貴/作曲・MAYUMI/編曲・谷山浩子 LP「ガラスの鼓動」1986)



つがいの小鳥の片方が死んでしまうと、
あまりの寂しさからか、
残された一羽も長く生きられないという。

それは究極の愛を捧げ合った恋人たち。
二人が夢みた、最期の理想のかたち。

それとも孤独で傷を舐め合う者たち。
彼らが得意とする、依存のなれの果て。

さあ同士よ、いったいどちらだと思う?
薄笑いを浮かべた魔性の女が、そう問うてくる。

ファム・ファタル。
刹那的に見えても、永遠の信奉者。
怠惰で投げやりかと思えば、敬虔で貞淑な顔をして。

ならば善良な神の子の顔をして、こう答えよう。

この世で生きる限り、今という一瞬は
すぐに終わり、すべて変わりゆくものなのだ、と。
しかし、だからこそ永遠を信じざるを得ないのだ、と。
そして、それが我々憂き世の民なのだ、と。



「日暮れの海沿いの 小さな部屋に
 熱いお茶 細いランプ
 そしてあなたそこにいた

 悲しい恋だね と 誰も言うけど
 あなたしかいないみたい
 私と同じ人…

 蒼い波 レースのよう よせて散る
 愛してるなんて もう言わなくていい
 全て 知っている 今だけの真実」

(2011.7.13)

note:LP「ガラスの鼓動」1986.3.21発売
名盤中の名盤、そう呼んでも多くの人の賛同を得られるであろうセカンドアルバム(オリコン1位)のラストを飾るナンバー。
恐るべき詩人・斉藤由貴のはかりしれない才能は、この詩で気づかされ、後の「月刊カドカワ」で確信するわけです。でも、その内省的で漫研的な自意識過剰ぶりや、一流の表現者ならではの狂気を孕んだ思考は、それがハッキリと表れた頃の後期より、まだ茫洋というベールで隠していた初期の方が最も色濃いのかもしれません。
ピアニストとして参加した内面的同類項の谷山浩子の伴奏効果も大なるものがあるようですが、ともすると妄想癖や偏執感の方へと傾いてしまう斉藤さん×谷山さんの目盛りを、そっちに振れさせなかったのは、レイミーのお姉さんの力。そういう意味でも絶妙なバランスの上に成り立った、奇跡の名曲だと思うのです。


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