MCも収録! さよならコンサートの音源が2枚組でCD化!
1984年の晩秋、結婚休業を控えた太田裕美さんは、独身最後の“Bye-Byeシングル ガール”をサブタイトルにしたHIROMIC WORLD IIツアーと、メモリアル・ジャンボ・シングルと題した10周年記念の12インチ「雨の音が聞こえる」のプロモーションに力を注いでいました。本人は引退を強く否定しましたが、事実上のさよならコンサートになるだろうというとらえ方をされていたのでした。
時を同じくして、もう1人、こちらはきっぱりと引退を宣言した人がいました。“フェアウェル コンサート”と題したさよならコンサートと、ラストアルバム「夜の底は柔らかな幻」のプロモーションを淡々とこなしていた久保田早紀さんです。
お2人ともCBS・ソニー所属ということもあって、そろってラジオなどの媒体に出演して、ファンに向かってさよならを言ったりしたこともあったのです。
根っからケロケロな上テクノ期だった太田さんは、ホントにサッパリ明るくって「いつになるか分からないけど、また必ず戻って来ま〜す」と笑い、久保田さんは大人しいけれど毅然とした雰囲気で、まるで他人事のように「音楽は何かの形で続けると思いますけど、久保田早紀さんとお別れすることになりました」みたいなニュアンスのことを話したのですね。
その後、正直かつ真面目でファン思いのお2人は約束をちゃんと果たしてくださいましたが、ワタシがあの時心底ビックラこいたのは、久保田さんの発言でした。
前に書いたこともありますが、それまでの自己がまるで別の存在であるかのような発言を聞いたのは「最後にこの人にもありがとうを言いたいと思います。南沙織さん、長い間ありがとう。そしてお疲れさま」と言った人以来でしたので…。
しかも、自分の言いたいことを作品にこめている自作自演系のアーティストですからね、久保田さんって。本当に驚きました。あれは久保田早紀という人が孤高の異邦人だった印象をより強くしただけでなく、作られたアイドルだったんだと実感した出来事でした。
さて、そんな風にして84年11月26日、久保田早紀さんは東京・九段会館でさよならコンサートを開いたのです。ラストアルバム「夜の底は柔らかな幻」をサブタイトルに配したフェアウェル コンサート。
夫君となられた久米大作さん、仙波清彦さんらがバックを務め、84年らしいファッションとサウンドで固めた中、引退を惜しむファンにこれまた淡々と別れを告げたのです。
このライブの模様は翌85年にビデオ発売された後、2005年にはCD&DVD THE BESTシリーズ「 CD&DVD THE BEST 久保田早紀シングルズ(DVD付) 」(シングルジャケットも復刻されていてオススメ!)で一部がDVD化され、さらに06年にはオーダーメイドファクトリーでDVD化が実現。オーダーメイドファクトリーの女王と一部で称された彼女ならでは、未CD選書化だった3枚のオリジナルアルバムとともに、何度もアンコールプレスを繰り返したのでした。
そして、今。あのコンサートを録音したテープが発見されたというのです! しかもCD2枚組に収められ、オーダーメイドファクトリーのスペシャル企画商品「 フェアウエルコンサート 1984.11.26 (CD2枚組) 」として、復刻候補に挙がったのです!
ビデオは編集が施されたダイジェストでしたが、今回のCDにはそちらに収録されなかった「9月のレストラン」「メランコリーのテーブルクロス」「ねじれたヴィーナス」「冬の湖」「ナルシス」「寒い絵葉書」「サラーム」「ピアニッシモで…」やトークも入るとのこと。
スタジオ録音盤とはまた違い、愛する人と同じステージで軽やかに別れの日を送る姿が聴けますし、音楽伝道師となった久米小百合にはない魅力がパッケージされていることと思います。
なお、DVDでは初期のファンからは久保田さんのファッションやメイク、アレンジに賛否両論の声が巻き起こったみたいですが、CDならそこまでのイメージはないと思いますので、安心してお聴きください。
きっと熱心なファンの力で、すぐクリアするとは思いますが、ぜひ皆さんもご協力くださいますようお願い申し上げます。
内省的で哲学的で、苦悩がにじみ出たような名盤の数々はオーダーメイドや紙ジャケで復刻されましたが、再評価が高いものの今では手に入らなくなりましたし。
これからも久保田早紀という人の音楽を正当に評価し、後世に残していくためにも、ぜひご協力いただければと思います。
(2010.6.2)