秋のジャパンツアーに合わせ、紙ジャケ復刻第2弾!
2012年後半もまだまだ続く、空前の由紀さおりブーム。
ことし上半期のオリコンアルバムランキングでは、ピンク・マルティーニとのカバーアルバム「1969」(こちらで紹介)が昨年10月発売にもかかわらず10位にランクイン。この快挙はトップ10に顔をそろえた面々—ミスチル、EXILE、いきものがかり、ゆず、Kis-My-Ft2、KARA、ファンモン、L'Arc~en~Ciel—を見れば、いかに異例で凄まじいことか、一目瞭然ですよね。
凱旋公演として6月に千葉、東京、大阪の3カ所だけで行われたジャパンツアーのチケットも即完売。オークションではプラチナチケットと化したようですし、会場は会場でほぼシニア層で埋め尽くされ、大入り満員。由紀さんもピンク・マルティーニも初めてという人も多いようでしたが、トーマスさんをはじめとするメンバーとともに魅了し、素晴らしいステージングを見せてくれたのも記憶に新しいところです。
幸いにも大阪公演を拝見することができましたが、会場を埋め尽くしたシニアのパワーに圧倒されつつも、ピンク・マルティーニの世界に没入。彼らの音とパフォーマンスに子どもの頃に垣間見た大人の音楽のデジャブを体感するとともに、由紀さんのソロやシスターズのコンサートの時には感じたことのないスリリングさと、濃密でリッチな歌姫ぶりに感服した次第でした。
10月からは2度目のツアーにして、なんと20公演以上とスケールアップした全国縦断ツアーも予定されております。なお、回数が多いせいか前回に比べ売れ行きのスピードが遅い模様。まだまだ良席があると思いますし、6月の公演とは異なる内容になるそうですので、ぜひお出かけください。
また、由紀さんの歌が流れるので毎回欠かさずチェックするようになった昼ドラ「ぼくの夏休み」も佳境(先週からの展開とキャストは何なんだ…)に入ったり、ジャズ展開のバックバンドとして結成されたクインテット・夜明けのキャッツが由紀さんをフィーチャーしたアルバム「 夜明けのキャッツ 」を発表することになったり、周辺も見逃せない状況が続いておりますが、ピンク・マルティーニとの秋のツアー開始のタイミングで待望のアルバム復刻第2弾のリリースが決定しました!
それがカバー・アルバム復刻 初CD化シリーズ(こちらで紹介)に続く、オリジナル・アルバム復刻、「 手紙/生きがい-由紀さおりの華麗なる世界 」「 ルーム・ライト -オリジナル・ア・ラ・カルト 」「 銀座万葉集 」「 Love Again -服部良一作品集 」「 昭和艶唱 」という5タイトル。
由紀さんの場合もコンサート会場では、いつも握手会の参加権となるCD即売が行われていますが、この前のツアーではこれまで由紀さんのライブでは見たこともないほど大好評で、途絶えることのないほどの大行列ができておりましたので、そのおかげとも言えそうです。
反面、チケットが入手困難なコンサートに来るほどの人でも、いかにCDを買っていないか(しかも一番売れていたような気がするのが「1969」でしたから)の証明でもありますが、久しく見たことがなかったCDが飛ぶように売れていく光景は圧巻でした。
実は、その場にいて何気なく売り場をのぞき、全部持ってたことに気づいて離れようとしたものの、やれ「1969」だ、やれ「ゴールデン☆ベスト」だ「コンプリート・シングル・ボックス」だと手当たり次第買いまくるオバちゃんたち、しかもおそらく内容をよくわかってないのに紙ジャケまでもを買っていく雰囲気に飲まれてしまい、唯一持ってなかった「1969」のプラケース盤を買ってしまったのでした…。大阪という土地柄のせいかもしれませんがね。
さて、未聴のものもありますが、簡単に紹介させていただきますと、まずは71年の「 手紙/生きがい-由紀さおりの華麗なる世界 」。冠にした2大ヒット曲の通り、川口真さんを中心としたヨーロッパの香り漂う歌謡曲と、渋谷毅さんのソフトロックなエッセンスも漂うアルバムですが、その筋の人にはたまらないであろうピーターみたいな妖艶メイクのジャケットに驚くことしきり。「由紀さおりの美しき世界」に続いて2度目の選曲となるカバー「希望」も入っています。
そういえばこのシリーズ、第1弾はボーナストラックが一切なかったのが残念でしたが、今後そうチャンスがあるとは思えませんので、オリジナルアルバム未収録のシングルぐらいは入れてもらえるとウレシイですよね。
お次は待望の73年「 ルーム・ライト -オリジナル・ア・ラ・カルト 」。森進一の「襟裳岬」よりも早い吉田拓郎書き下ろし、「ルーム・ライト (室内灯)」でフォークとの融合が話題を呼んだアルバムです。
さすが飛ぶ鳥を落とす勢いだったフォークの殿堂、東芝・エキスプレスレーベル所属だけあって、加藤和彦、杉田二郎、小室等、かまやつひろし、クニ・河内といったシンガー・ソングライター勢が集結。
中でも注目は小田和正作曲の「永遠のひととき」でしょう。コーラスもオフコースが参加していますから、彼らのファンへのアプローチによってはこのアルバムだけが突出したセールスを見せるかも。
前回はダブルジャケット再現もなく、帯もオリジナルに忠実でありませんでしたが、このアルバムの特殊パッケージも絶対無理でしょうね。もっともそういう需要もほとんどないとは思いますが…。
そして今回の復刻では、ここからシングルの展開とは一切異なる企画盤が続きますが、そのトップを飾るのが74年の傑作企画「 銀座万葉集 」。
文字通り、銀座に生きる女をテーマに書き下ろされた悲哀のオリジナル12曲を収録。このアルバムはなんでも月刊Pocketパンチ「Oh!」で連載された小説との連動企画で、作家は川上宗薫だったといいますから、推して知るべし。歌の世界も大人の女による銀座の恋の物語が展開されています。
この中ではやっぱり、吉田旺+みなみらんぼう作の「ルイ」に尽きます。由紀さんの4分芝居といいますか、語り部としての歌唱法の凄さが感じられる名作です。まさに銀座の老舗的、さりげないのに際立つ一級品だと思います。
ちなみに「Oh!」は平凡パンチのポケット版で、後のアイドル誌「ボム」みたいに小さなサイズの雑誌で、表紙は当時のアイドル歌手が飾っていましたが、中身はヌードいっぱい、エッチ度バツグンでした。
続く80年の「 Love Again -服部良一作品集 」も傑作と名高い企画盤。
戦前戦後と、昭和のうたを背負ってこられ、詩心も素晴らしく、ある意味シンガー・ソングライターの元祖ともいえる服部良一先生の作品集です。「香港夜曲」「雨のメリケン波止場」「灰色の巴里祭」など、隠れた服部作品のカバーと、書き下ろしで構成された全10曲。
由紀さんは歌謡曲歌手としてデビューした1969年、服部先生が審査員を務めたアテネ国際音楽祭にも参加しているとか。それから11年、オープニングの「ロマンスに乾杯」ではすっかり脂ののった歌声を聞かせますが、若い頃とはまた違ったチャーミングさが素敵です。服部メロディー全盛期の録音ではなく、いろんな意味で日本の音楽シーンのターニングポイントだった80年の録音というのがミソではないでしょうか。
先生の真骨頂は、大陸的な明るさと日本的な哀愁が絶妙のバランスでブレンドされた部分にあると思っていますが、この中では、アテネ音楽祭でロミ山田が歌ったという組曲「君の名はさくら」が代表格だと思います。
ところで服部先生というと我々世代ですと、どうしても日本レコード大賞など権威ある音楽賞の審査委員長という印象が強いのかもしれませんが、70年代後期のナウなヤングにとっては雪村いづみさんの「スーパー・ジェネレーション」や矢野顕子さんの「青い山脈」カバーとかで再評価されていましたっけ。
そういえば戸川純ちゃんが「蘇州夜曲」を歌ってティーンエイジャーに伝播したり、太田裕美さんが先生らが礎を築いた戦前のジャパニーズポップスをお手本にしたり、80年代のニューウエイブ世代にもしっかり伝承されリスペクトされていたのでした。
個人的には渡辺はま子さんの一連のナンバーが大好きですし、服部先生の跡を継いだのが筒美京平先生だと確信しております。
最後は81年発表、前作の流れに弾みをつけたような、昭和に回帰した企画盤「 昭和艶唱 」。日本レコード大賞企画賞受賞、アートワークも素晴らしく、名盤の誉れが高いのですが、アルバム通しては未聴なので、今回の復刻を楽しみにしています。
という由紀さんのアルバム復刻第2弾。いずみたく先生渾身の「23歳/由紀さおり・愛のうた」や、これぞ歌謡曲といった感の「挽歌/季節風」、ニューミュージック路線の「つかの間の雨」、バツグンの安定感が魅力のライブ盤などなど、まだまだ未CD化アルバムは多数ありますので、今回も即予約して、さらなる続編に期待したいと思います。
あ、でもコンサート会場での即売に備えて、全部予約するのは保留にした方がいいのかも…。コンサートに行かれる皆さんにもそのへんを十分ご考慮くださいませ。
もっともピンク・マルティーニとの新作や、映像作品(NHKプレミアムで放送されたライブのブルーレイ化とかどうでしょう)が出てくれたら言うことないんですけどね。
(2012.8.12)