CDでは初!37年ぶり、待望のベスト盤がついに登場!
帝国蓄音器という老舗の意地だったのか、昨年に入って初めてゴールデン☆ベストシリーズへの初参入となったテイチク。昭和のスターの宝庫ですから、順調にリリースが進み、実績という点においては弱かったヤングアイドル勢も80年代を中心に続々と発売されております。
この7、8月にも12タイトルがラインアップされていますが、なんと8月がスゴイ! マニアの皆さんが泣いて喜ぶ人たちのベストがようやく出るのです。
注目はこれまでオムニバス盤で数曲しかCD化されていなかった人たちですが、その中でもダントツなのが牧葉ユミ。淳子(「見知らぬ世界」)や百恵ちゃん(「回転木馬」)がスタ誕で歌い合格したことでも知られ、彼女たちのファンも含め、もう数十年もの間、復刻が待ち望まれていた歌手です。
とはいえ「 ゴールデン☆ベスト 牧葉ユミ 」は皆さん間違いなく即買いでしょうから、こちらではこの人をクローズアップすることにしましょう。
ハートを騒がせる―風の国からやって来た噂のジュン。そう、今や演技派女優の一人に数えられる風吹ジュンの「 ゴールデン☆ベスト 風吹ジュン 」です!
モデル活動やグラビア、CM出演などを経て、南沙織の有馬三恵子+小柳ルミ子の平尾昌晃という布陣による「愛がはじまる時」で、テイチク・ユニオンレコードから歌手デビューしたジュンちゃん。明るくヘアダイしたロングヘア、ホットパンツ、ユニチカのマスコットガールならではのボインな肢体、タヌキみたいな丸顔にマスカラ、オレンジの口紅…アンバランスな魅力といいますか、エッチで不良のナオンっぽい雰囲気もあるのにとってもキュートで、不思議な魅力を放っていました。
歌の方は早々に音痴というレッテルを貼られてしまいましたが、舌足らずでささやくような歌い方と、やたら多い息継ぎも相まって、コケティッシュなフレンチポップスのムード。
夜より昼間の陽ざしを感じさせるほどで、後に発覚したいかにも水商売という雰囲気はなく、例えるならかわいいシャトン・ミミに連なるジャンルという感じでした。
こう書くと男好きのする感じといえますが、子ども心にはどっちかというと仮面ライダーに出てた頃のちょっと頭の弱そうな山本リンダ的イメージ(そういえばミミも…)。そのへんは「がきデカ」のジュンちゃんしかり、「グレートマジンガー」の炎ジュンしかり、人気漫画で彼女をモチーフにしたキャラクターが描かれたことでも証明できるかも。
余談ですが、「ガラスの仮面」のハミルとアユミに、ハミルトンとジュンの関係を重ねて見てしまう人っていません…?
いずれにしてもティーンアイドル全盛のさなかで抜群の個性と魅力を放っていたのは間違いないでしょう。ただ、今みたいにホステスさんやキャバ嬢がファッションとして同性からもてはやされ、10代のギャルが堂々とホステスに憧れることを公言できる世の中ならいざ知らず、やっぱり同性からの支持は低かった印象があります。
さて、ジュンちゃんの歌手活動はデビューの74年5月から、翌75年にかけての約1年間。
それでも、シングルは「愛がはじまる時/夏のふれあい」「涙に微笑を/愛の雨音」「ふたりの舗道/私はかもめ」「23才/こころ半分」の4枚、アルバムは、ファースト、セカンドともにナレーション入りでなぜか同じタイトルの「ジュンとあなたの世界」、そして新曲を含むベスト「オリジナル・コレクション16」という計3枚がリリースされております。
オススメはCD化済みではありますが、騒動ですったもんだの後、ファーストアルバムからのリカットとなった公式では3枚目のシングル「ふたりの舗道」。急転直下、ダーティーなアイドルへと一気にイメージダウンした頃でもあり、前の2曲とも路線が全然違っていたもんで惹かれることはありませんでしたが、今では高い再評価の通り、彼女の歌唱力にバッチリマッチした名曲だと思っています。
それと当時から大好きな「寺内貫太郎一家2」の劇中歌「23才」。スキャンダルに襲われたものの久世光彦さんに見いだされ、人気ドラマ続編の主要キャストに抜擢されたジュンちゃん。それまでの浅田美代子に代わって、劇中歌まで歌うことになったのですが、その歌がコレでした。
劇中歌として安井かずみ+三木たかしという新コンビによって制作されたものですので、従来の路線とはまったく違ったほのぼのカントリーポップ。ズズが書いた“ごはんも炊けてます”というフレーズに大層驚いたものですが、このドラマでの好演が縁で向田邦子さんのお気に入りとなり、女優開眼していくわけですから、縁は異なもの。最初のイメージのままではすぐ限界が来ていたでしょうから、まさにピンチをチャンスに変えていったといえるでしょう。
ミヨちゃんと同様、本人はイヤイヤやっていたという歌ですが、音痴と侮ることなかれ。レコードではとっても味のある歌唱を聴かせていますし、作家陣は有馬三恵子+平尾昌晃を筆頭に、馬飼野俊一、森田公一、松本隆、穂口雄右ら実績ある諸氏がずらり。風吹ジュンという素材を見事に生かし切った佳曲が並んでいます。
結局は「23才」が歌手活動の最後になってしまいますので、このベストにはこの1年間の音源からチョイスされるということになりますが、ゴタゴタで発表されなかったという幻の第3弾「四つの手/愛の前奏曲(プレリュード)」やカバー曲なんかも含め、ざっと数えても30曲はあるはずなので、今回たとえリミットがなくとも全曲収録は無理の模様。
でも、天地真理の「恋と海とTシャツと」やアグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」のカバーとか、久世さんが歴代の水曜劇場出身者―真理ちゃんやミヨちゃん、南ちゃんたち―にしたと同じように詩を書いた「美しい冒険」「別れたあとも」とかも収録されればいいなあ…などと思っています。
あれから35年以上、歌手をやめてからもイロイロあっても見事にカムバックを果たし、10代からの「キャンティ」の常連を経てかの川添象郎夫人だったことも今は昔となりましたが、なんと今年で還暦なのだとか。60代になっても高保潤、フランスのマダムみたく年相応の美しさを身につけてらっしゃいますから、今しか知らない人がこのベストを聴いたら、今の風吹ジュンと同一人物だとはとても思えないような気がする。
とはいえ、70年代のマニアックなアイドルは、80年代と違って全然数字が出ない傾向にありますもんで、ジュンちゃんのアイドル時代をご存じないという若い皆さんにも、ぜひ手にとっていただければと思います。
(2012.6.19)
*収録曲は、23才/愛がはじまる時/夏のふれあい/涙に微笑みを/愛の雨音/私はかもめ/ふたりの舗道/古い日記/優しい関係/ロマンチスト/美しい冒険/別れたあとも/涙ひとつぶ/風に似た人/恋は不安/恋のかけひき の16曲となっています。