あの乾いた哀しみが、21年ぶりに再復刻!!
佐々木好(このみ)さんを知っていますか?
いいえ、佐々木希さんではなく、北海道出身でCBS・ソニーオーディションで見いだされ、82年2月にデビューしたシンガー・ソングライターの佐々木好さんです。
そう、地元の北海道を活動拠点にして、ギターを中にしたアコースティックサウンドで内省的な女性の心情を訥々と独特の低音でつぶやくように歌って、メディアからは同郷の中島みゆきの再来と称されていた…あの好さんです。
当時、深夜ラジオなんかをよく聴いていた人には、とても有名な存在だったと思うし、ポップで軽いノリの80年代にあって、みゆきサンよりも上を行く「ネクラ」の代名詞といわれたものでした。
それはみゆきサンがだんだんポップでソフィストケイトされていった時期だったので余計にそうだったのかもしれませんがね。
昭和歌謡フリークの方なら、由紀さおりさんに書いた名作「ストレート」の作者としておなじみかもしれません。
個人的にも、やはりAMラジオで聴いた印象が強烈でした。何しろ片耳のイヤホンから流れてきた好さんの歌声があまりにも独特で、英単を書きなぐっていた手が止まったほどゾクッとしたものでしたから。
それからすぐ、レコード店でジャケットを見て、また驚きました。ジャケットは好さんの写真ではなく、味戸ケイコさんのイラストだったのですが、大好きなさだまさしのアルバムジャケット(「風見鶏」「私花集(アンソロジー)」)のトーンとは打って変わって、とても暗くてなんだか不吉な感じがしたからです。
むろん実際の好さん(といっても動いた好さんを見たことはなく、モノクロ写真でしか知らないのですが)はそんな印象ではなく、痩せっぽちの男の子みたいな、まさにルナールの「にんじん」みたいだなと思ったことでした。
けれどその分どんどん惹かれていったのは確かで、日常の情景や心理描写から広がる孤独でネガティブで人間不信でペシミストな詩に、持て余していた自己の内面の陰鬱さを重ねたり、茫洋としていながらも硬質なメロディーと歌声に、ずっと抱えていた他者との違和感やある種の諦めをなぞらえるようにしたり、知らぬ間に深みにはまっていった気がします。
ただ、その世界に沈んでしまうことへの拒否感というか、得体の知れない恐怖も同時に抱きつつ…。
と、個人的に多感な十代半ばの内面的葛藤と隣り合わせだったもので、今では甘酸っぱい気分になってしまう好さんの世界ですが、由紀さんが才能を認めたアーティストですし、ライブで虜になったり、今も静かに密かに聴いたりしているという方はかなり多い模様です。
アルバムは5枚出ていますが、スマッシュヒットとなったファースト「心のうちがわかればいいのに」とセカンド「にんじん」は91年にCD選書で復刻されていたものの、すぐ廃盤となってしまっていますので、探している人は多いとか。
その2枚はもとより、ちょびっとポップになっていたサード「雨天決行」の希少なCDや、CD化されていない4枚目「暖暖」を飛ばしてラストのCD「りらっくす」なども中古市場で高騰していると聞きます。
世相的にも今の方が好さんの世界に合っているし、時代からも求められる気もしたりしますが、そんな背景もあってのことでしょう。
このたびその2枚がオーダーメイドファクトリーで廃盤再プレス対象商品として候補に挙がりました。
まず82年2月発売、鈴木茂さんがサウンドプロデュースを担当、デビューシングル「ドライヴ/春」をオープニングにしたデビューアルバム「心のうちがわかればいいのに 」。
そして83年の1月発売発売、セルフカバーシングル「ストレート/雪虫」を含むセカンドアルバム「にんじん +1 」。
いずれも北海道レコーディングとなった作品です。
もし未聴の方がいらっしゃいましたら、とにかく一度聴いてみてください。
独特の詩と曲構成、そしてあの声…淋しくて哀しくて、優しく傷をなめ合おうと思っていたら突き放されたり、魔や毒が潜んでいるような好さんの魅力に、一度取りつかれたらもう二度と戻れない気がします。
なお、CD化されていたアルバム4枚は、以前からmoraでダウンロードできる状態ではありますが、やはりパッケージが欲しいですもんね。Macなものでmoraを使えないワタシとしては、これを機に好さん人気が再燃して、全アルバム復刻につながればと願っています。
(2012.9.6)