25周年のザ・森高、初のシングルA面コンプリート!
のっけから個人的なハナシですが、森高千里さんがデビューした1987年はワタシが20才になった年。
まだ昭和だった時代ですから今年で25年がたったのは間違いないのですが、あらためて森高25周年と聞くと、彼女の変わらなさと我が身の変貌にあらためて驚愕しております。
というワケで、このほど発売決定がアナウンスされた、森高の25周年記念3枚組シングルコレクション「 ザ・シングルス(初回生産限定仕様) 」をックアップしましょう。
初のコンプリートとなるこのベストには、87年の記念すべきデビュー曲「NEW SEASON」から、産休前の99年にCMタイアップでセルフカバーした「一度遊びに来てよ'99」まで、レーベルの垣根を越えたシングルA面(両A面含む)全45曲を完全収録。
森高ってバージョン違いやミックス違いがやたら多いタイプなので、純粋なシングルコレクションとなる本作は、ファンならずとも青春の思い出としてコレクションしておきたい内容といえるんじゃないでしょうか。
初回限定盤「 ザ・シングルス(初回生産限定仕様) 」は未発表カットを含むフォトブックレット封入という特別パッケージだそうですが、通常盤「 ザ・シングルス(通常盤) 」とさほどお値段が変わりませんので、できれば初回盤マストバイといきたいものです。
さて、彼女をいちばん最初に見たのは糸井重里さんと出演したポカリスエットのCMですが、最初に意識したのは87年の銀色夏生さんの詩集「わかりやすい恋」で、最初にCDを買ったのが89年の「17才」。
銀色夏生さんが好きになったのは太田裕美さんからで、「17才」はご存じシンシアのカバーですから、なんだか森高のファンになるのは必然的な気がしたものです。
ここ10年ほどは、ポロシャツの襟を立てムースで髪をセットしてた頃が恥ずかしくもあり、その時代の歌をあんまり聴き返すことをしていませんでしたが、コレを機に森高づくしで再発見といきたいところです。
特に、あの打ち込み全開の初期のユーロビートサウンドは正直、当時の音盤を聴くのはつらかったりしますから、どんな音にブラッシュアップされているかも大いに期待したところであります。
DISC 1では、ビジュアルも含め語り継がれている「ザ・ミーハー」や「ザ・ストレス」のインパクトが目立ちますし、「17才」は世間を本家シンシアに再注目させてくれたという意味で感謝しても足りない気がしていますが、個人的には初々しくトンガっている「NEW SEASON」や、気取ったブランドのダサイ奴だったので揶揄されたよーな気がした「GET SMILE」、イントロから胸キュンになる「 ALONE」あたりはハズせません。
ドラマ「時効警察」でカバーされて何年ぶりかに聴いて涙した「雨」、熊本弁が印象的で今でも人差し指の振りが自動的に出てくる「この街(HOME MIX)」、筒美京平先生書き下ろし「八月の恋」もいいですが、最も好きだったのは「道」。
本当に大好きな相手と過ごした日々なら、単に通った道ばたの石ころやゴミでさえも忘れられない大切な想い出になる——そんなテーマと言葉のチョイスに衝撃と感銘を受けたものですが、後になってつくづく実感して、何度も何度も繰り返し聴いたこともあったりして…。
この曲で森高の詞のスゴさを体感したワケですが、例えば職業作家の先生方の詞が小説で、シンガー・ソングライター勢の詞がエッセイだとしたら、森高の詞はやっぱり個人の日記。
でも、当時、同世代の若者として同じ時代を生きてきた感覚としては、まだホンネとタテマエがきちんと区別され両立してた頃、ホンネを徒然なるままに綴った日記の方が、とてもリアルで心に響いたのは確かだったと思います。
20年ふた昔、誰もがブログやツイッターで、いつでも平気で発信できる今とはある意味まったく違う世の中だったワケですから。
ただ、大人から見たら稚拙で常識外れな日記だったとしても、ザ・森高ダイアリーには、社会や人間に対するしっかりとした風刺の視点がありました。
かの聖子もセルフ時代へと突入した時期、詞を書くアイドルなんてまったく珍しくありませんでしたが、森高との決定的な違いはこの点にあったと確信しています。
実際、最初はミニの脚線美とか、過激でヘンテコだったアイドル的要素ばかりが注目され、オタク文化の象徴のようだった森高ですが、次第に歌詞が共感を呼び、高く評価されて支持が広がったように思います。
もちろんその詞をサポートし、森高の音楽性を高めた作曲陣、斉藤英夫さんをはじめ、高橋諭一さん、安田信二さん、伊秩弘将さんらの力も大なるものがありましたよね。
森高がドラム、キーボード、ギターなどを演奏し、ミュージシャンとしての色もアピールしていったのも、彼らのバックアップあってこそだったでしょう。
続くDISC 2は、もはや怖いものなしの全盛期の大ヒットがズラリ。
20才の時すでに21才をオバさんと言っていた森高ですが、「私がオバさんになっても」や「ハエ男」「ロックン・オムレツ」のようなコミカル風刺系と、初のオリコンNo.1「風に吹かれて」や「Memories」「夏の日」などいい旅・夢気分な叙情的名曲の対比は、時代がすべて味方しているというか、ある意味神がかっているような気さえします。
その最高峰があの名曲「渡良瀬橋」であり、多くの人が意外がりつつもあの曲を森高の本質としてとらえたのでした。
また、ANAのフライトで沖縄に行くといまだに口ずさむ「私の夏」をはじめ、ビアガーデンの乾杯やカラオケでもよく歌われてた「気分爽快」や「素敵な誕生日」、イントロからさんまの顔が出てくるドラマ主題歌「二人は恋人」など、天下のビッグヒットが満載なので、とにかくパワーが感じられます。
そしてDISC 3は成熟期といいましょうか、熟練の域ともいえるナンバーがいっぱい。
ジンを飲みながらクリスマスに口ずさんだCMソング「ジン ジン ジングルベル」や代表曲といっても過言ではないめざましソング「ララ サンシャイン」、ホソノさんとのコラボ「ミラクルライト」、ローソンへ行きたくなる「Let's Go!」「SWEET CANDY」、久保田利伸が曲提供の同名ドラマ主題歌「海まで5分」と見事に強力タイアップばかりです。
ただ、時代の寵児になった者の宿命で、次第に新鮮味は薄れ、消費されていくたびにアーティストパワーも感じられなくなっていったのも事実。
森高が牽引してたはずの時代が森高に追いついてしまったというか、こう企画先行の完全タイアップばかりになってしまうと、どうしても瞬発力勝負の感があった森高は…という感じだったような気がします。
顎関節症での休養などもありましたし、その間に世紀末のめまぐるしさが森高を追い越してしまったのでしょうか。
しかし、それだからこその名曲も多くて、引き続きの叙情路線「休みの午後」からの静や陰の部分、すなわち「銀色の夢」や最後のトップ10ヒットとなった「SNOW AGAIN」のはかなくて切ないこと。
後期の名作「冷たい月」「私のように」といったシブめのナンバーもオススメです。
なお、25周年企画はこのベストだけではなく、YouTubeの公式チャンネルでの200曲セルフ・カバー企画や、全シングル曲着うたフルの配信がスタートしているほか、秋にはオフィシャル本やオリジナルアルバムのCD-BOX、さらに来年にはライブ映像ソフトのBlu-ray化(BOX)も予定されているのだとか。
シングル曲以外にも、初期の名作「GOOD-BYE SEASON」や王道胸キュンポップス「さよなら私の恋」とか、早見優の「赤いサンダル」を焼き直しちゃったような「短い夏」とか、はっぴいえんどのカバー「風来坊」とか、逆に城之内早苗にカバーされた「酔わせてよ今夜だけ」とか、まだまだ聴きたい曲がたくさんありますんで、やっぱBOXにも期待、みたいな感じです。
なんだか、これを機に本人もファンも本格復帰しちゃいそうな、ザ・森高の25周年ベストです。
(2012.6.1)