裕美、真知子、純子にナンノも参加! 新録7曲は必聴!
わたしは、アルパでありオメガである。初めであり終わりである――まさにヨハネ黙示録21章6節に記された真理を地でゆくように、時が経てば経つほど、新たな商品で蘇れば蘇るほど、ますます真実味を帯びてくる「山口百恵」というアポカリプス。
それはやはり、現世が幻の都・バビロンの終焉に似ているからなのでしょうか。今春刊行された豪華本をめくりつつ想い出のミラージュに浸っていると、百恵ちゃんの横顔を救世主の菩薩や卑弥呼に見まごうてしまったり、なんだか自分自身もいまだあの伝説と神話の中にとどまってしまっていることを実感するこの頃です。
と、百恵ちゃんのことになるといつも支離滅裂、意味不明なことを口走ってしまいますが、新たな預言のごとく関連商品のリリースが決定したのですから、それも無理もないことではないでしょーか。
その関連商品とは、百恵トリビュートの最新作にして、新録音と既発音源で綴るスペシャル企画「 山口百恵トリビュート・セレクション 」!
セレクションと名付けられてはいるものの、新録もちゃんと入っているので、2004、5年に発売されそれぞれオリコン3位、6位と、この種のアルバムでは驚異的なヒットとなった「山口百恵トリビュート Thank You For…」シリーズの第3弾といえそうな今作。
思えば第1弾がCCCDだったことも今は昔、今回は高品質CDでおなじみ、Blue-Spec CDでのリリースとなっています。
構成は新録7曲、既発10曲の全17曲というものですが、特筆すべきは新録で参加したアーティストたち。
中でも、百恵ちゃんと同時代、同じCBS・ソニーでともに活躍した太田裕美や同郷でもある渡辺真知子に、レコード会社は違いますがザ・ベストテンなどでよく共演していた八神純子が参加しているのです。このニューミュージック3人娘の参加を喜ぶ人は、きっとかなりの数に上るんじゃないでしょうか。
昨今もてはやされるトリビュートアルバムの多くが、現役時代を知らない若手や、畑違いのアーティストが中心なので、トリビュートされる側のファンにとっては、雰囲気的になかなかなじめないことも多いのですけれど、こういう同時代のメンバーならきっと大歓迎されることでしょう。
それと、時代は下がりますがCBS・ソニーのアイドルという意味では直系の後輩にあたる南野陽子。アラフォーユニット・Blooming Girls(プレミアム・ライブDVD「 PREMIUM LIVE 2012 [DVD] 」も発売決定!)ではなく、ピンでの参加となります。
こちらは一見、百恵ちゃんとは無関係で、シリーズを手がけてきた吉田kaku格プロデューサー(百恵ちゃんを手がけた酒井政利さんの直属の部下でいらしたこともある方です)の采配の賜物のように見えますが、ナンノナンノ。
引退後も後輩アイドルを気遣ったりしていたという百恵ちゃん。例えばテレビで荻野目ちゃんのお肌が荒れ気味に見えたからと漢方薬を贈った逸話もあるほどですから、ナンノともしっかり交流があったそうなのです。
そういう意味でも必然性が感じられるこの4人は、選曲もスゴイ。白盤を拝聴させていただいたところ、新録のメンツはサプライズな選曲も相まって飛び抜けた出来となっております。
例えばナンノは百恵ちゃん初のNo.1ヒット「冬の色」。
百恵ちゃんが15才だった時のうたを現在45才のナンノが歌うというのも感慨深いですが、あの一途に思い詰めたように頑なで潔癖で、エゴイスティックな少女性を見事に表現しているのですから、恐るべし南野陽子!といったところ。
百恵ちゃんの中後期のアレンジャー・萩田光雄さんはナンノも手がけてきた人ですので、「楽園のDoor」を思わせるアレンジの妙もマル。イントロからして、都倉さんらしいブラスが効いた原曲とは打って変わって、上品でクラシカルなナンノらしいサウンド。そして歌い出しの低音にゾクッとすること請け合いです。
また、阿木+宇崎コンビとも仲のよかった太田さんですが、彼女の選曲も聞いて驚くなかれ。
まさかの百恵ちゃん二十才の記念碑「曼珠沙華」なのです。百恵ちゃんの中でも一、二を争う女の情念系の名曲ではないかと思いますが、最も無縁な感じがする太田さんが選曲するなんて…。
あの凄みのきいた世界を内に秘めた形で表現する太田さんの熱唱と、たゆとうような二胡っぽい響きとのマッチングに注目です。
例えはよくありませんが、かつて百恵ちゃんの世界を意識して失敗といわれた「シングル ガール」の仇を取るような出色の出来ではないかと思います。
さらにデビュー時から出身地が同じということで、よく取り沙汰され、明星などでは百恵ちゃんとの仲良し対談もよく企画されていた渡辺のまっちゃん。
同じヨコスカ育ちだからこその「横須賀ストーリー」です。
とは申しましてもそこはラテン真知子の独壇場。熱帯JAZZ楽団サポートを受け、独自の世界を展開します。自身も35周年を迎えてますます猛進、あの“これっきり…”のフレーズがどう味付けされているか、その甘い裏切りは聴きものですぞ。
そして活動再開もすっかり定着した八神純子さんは、百恵ちゃんの現役ラストシングル「さよならの向う側」。慈愛に満ちたまろやかな歌声で、余裕の歌唱です。
やはりこの4人はそれぞれの百恵秘話もありますし、百恵ちゃんのファンおよびそれぞれのファンの皆さんは、そのエピソードなんかが記されたブックレットも見逃せないのではないでしょうか。
そのほかの新録でも、EPOの「乙女座 宮」ではかわいい声色にドッキリしますし、BEGINのまったりとした「夢先案内人」のゴンドラは沖縄の海をすべるよう。それぞれに新たな解釈に驚きと発見があっったりして。
だからして、ワリと予定調和っぽい中村あゆみ「絶体絶命」やSCANDAL「ロックンロール・ウィドウ」のロックテイストも、ちゃんと際立って聴こえてくるんです。
ここ数年盛んすぎて食傷気味だったトリビュート企画ですが、このアルバムではあらためてトリビュートというものの価値が見直されそうな気もします。
一方、既発表曲は、トリビュートpart1から、百恵ちゃんを崇拝してた中森明菜「愛染橋」(初出は94年のカバーアルバム「歌姫」)とパフィーの「ひと夏の経験」。part2からは、親友アン・ルイスの「イミテイション・ゴールド」、今ではセンセイとなったポスト百恵・三原じゅん子「愛の嵐」 。
シリーズからのセレクトは極力抑えていますので、前作を持っている人への配慮もバッチリです。
その分、JR西日本のキャンペーンソングとして歌詞が書き直された鬼束ちひろ「いい日旅立ち・西へ」、花王SegretaのCMソングでおなじみ、ケイコ・リーの英語版「美・サイレント~Be Silent」というシングルでリリースされたナンバーや、德永英明の「秋桜」、藤あや子の「謝肉祭」、みんな忘れてるけど本職は歌手のmisono「プレイバック part 2」と各々のカバーアルバムに収録されていたバージョンが収められています。
カバー曲もコレクションしたいけど、なかなか手が回らなかったファンにも拍手されそうですよね。
という今回のトリビュートアルバム、カバー曲には厳しいコアな百恵ちゃんファンもかなり満足できそうに思いますが…いかがなものでしょう。
また、今月リリースされる谷村新司さんの40周年記念コラボアルバム「 NINE 」には、チンペイさん作で百恵ちゃんのさよならコンサートのオープニング曲としても知られる「This is my trial(私の試練)」が天海祐希さんとのデュエットでセルフカバー収録されているとか。
天海さんが主演ドラマ「カエルの王女さま」でこの曲を歌ったことからの企画だそうですが、今回のトリビュート盤と併せて聴きたいですね。
なお、百恵ちゃん関連商品としては、11月19日の挙式日に初発売されて以来、何度も形を変えてリリースされてきたさよならコンサートのライブ盤がお色直しされて同時発売されます。
またかとお思いの方も多いでしょうが、侮ることなかれ。
なんと新たに5.1chでミックスされた音声を収録という、ハイブリッド盤CD「 伝説から神話へ 日本武道館さよならコンサート・ライブ 」、とブルーレイ「 伝説から神話へ 日本武道館さよならコンサート・ライブ [Blu-ray] 」が登場するのです。
音源のみのハイブリッド盤は、SACD層に5.1ch音声を収録。2006年のライブBOXでは紙ジャケ化もされましたが、単体ではCD選書以来、なんと19年ぶりのCD発売となりますし、臨場感あふれる5.1chですのでSACD対応機器を持っている人は買い増しまたは買い換えをオススメします。
そして映像の方は、一番最初のベータからVHS、LDやVHDを含み、ショートバージョンが出たり、ノーカットの完全オリジナル版が出たり。DVD時代になってからは歌詞内容による自粛で「謝肉祭」がカットされてしまったり、復活したり…ほぼ3年周期ジュエルケースにトールケース、そして紙ジャケと、内容もパッケージも変わって再発されてきましたが、今回は待望の5.1ch&ブルーレイ化。
旧い映像でもブルーレイで見ると全然違いますし、大きめの液晶テレビでDVDの粗が気になる人は、やっぱり買い増しまたは買い換えをどうぞ。
(2012.9.3)