天才メロディーメーカーの提供&自演作品による2枚組!
トノバンがいなくなって、もう3年が経つんですね。
フォークから始まって、ロック、オールデイズポップス、ジャジーっぽいナンバーまで、洒脱なブリティッシュ&アメリカナイズドされたものから、シャンソン、カンツォーネ、イタリアンツイストなどヨーロピアン風味の強いもの、そしてボッサやフォルクローレ…幅広い音楽性といいますか、懐の深い人間性をベースにした、さまざまなスタイル。
同世代の誰も太刀打ちできないスタイリッシュなセンスも含め、まさに天才というべきアーティストだったと思いますが、うたという面では、北山修さん、松山猛さん、そして安井かずみさんら、素晴らしい作詞家とのマッチングによるところも大なるものがあったと思っています。
「帰って来たヨッパライ」の赤いレコードはわが家にありましたし、「あの素晴しい愛をもう一度」や「白い色は恋人の色」も、「花のように」も「遠い遠いあの野原」も、子守りをしてくれたイトコから教わって大好きになったうたでしたが、初めてトノバンという人を意識し、この人のつくるメロディーに惹かれるようになったのは、アグネスの「妖精の詩」が最初でした。
あれから40年、機会あるごとにトノバンのうたを聴いていますが、このたび提供曲を中心にした2枚組「 加藤和彦作品集 」が発売されることになりました。
何度も発売延期を繰り返し、収録曲もかなり変わってしまったようなのですが、一時は出ないんじゃないかとか思ってしまっていましたから、ちゃんと発売できたことが素直にウレシイ感じがします。
まずディスク1は、女性アーティストへの提供作品集。
竹内まりや初のトップ10ヒットとなった資生堂CMソング「不思議なピーチパイ」や、YUKI(岡崎友紀)の「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」と1980年のヒット曲を幕開けに、アグネス・チャン「妖精の詩 」などの名作がずらり。
コロムビアからのリリースですので、規定上コロムビア音源が多いのですが、ベッツイ&クリスの「白い色は恋人の色」「花のように」という大ヒットだけでなく、伊東ゆかり「みんな愛されるため」 、やまがたすみこ「さりげない二人」、佐藤奈々子「チャイナ・ドール」、高見知佳「ジャングル・ラブ」などレアめのナンバーなのが多いのが魅力的かも。
知名度の高いスマッシュヒットとしては沢田聖子の会心作「卒業」、岩崎良美のズズ&トノバン第2弾「どきどき旅行」(当初は第1弾「愛してモナムール」も収録予定だったのですが…)あたりでしょうが、宮本典子「シルバー・レイン」がさりげなく入っているのも見逃せません。
また、アニメ「超時空要塞マクロス」劇場版の主題歌、飯島真理「愛・おぼえていますか」はともかく、石ノ森章太郎先生による「がんばれ!!ロボコン」直系路線の「もりもりぼっくん」主題歌、伊藤かずえの「ぼっくん!キミがいなきゃ」、東芝日曜劇場オープニングテーマ、ジュディ・オング「愛のめぐり逢い」、シマダヤ・鉄板麺のCMソング・WINK「いつまでも好きでいたくて」など、タイアップ曲も唸っちゃうようなものすごいチョイスですよね。
なお、ディスク2は、自演作品や男性アーティストへの提供作品、カバー作品などが集められていて、北山修さんとのデュエット「あの素晴しい愛をもう一度」やフォークルの「悲しくてやりきれない」、ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」、近年もCMで歌い継がれているソロ「家をつくるなら」などおなじみの自作自演曲に始まって、ユニコーンの民生が歌う「悲しくてやりきれない」、バービーの杏子さんによるアグネスの「愛のハーモニー」の元歌「シンガプーラ」などのカバー曲や、木村カエラをボーカルに迎えた新生ミカ・バンドの「Big-Bang,Bang!(愛的相対性理論)」、アルフィーの坂崎幸之助と組んだ和幸の「不思議な日」、小原礼、屋敷豪太、土屋昌巳の各氏にANZAをフィーチャリングしたVITAMIN-Q「スゥキスキスゥ」など晩年のユニットのナンバーなどがバラエティー豊かに収まっています。
心和むトワ・エ・モワの「初恋の人に似ている」と、ズズの詩と稲垣さんのせめぎ合いがスゴイ「愛のスーパー・マジック」の落差もすごいものがありますが、ぜひチェックしておきたいのが映画主題歌。「幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬」から、吉田拓郎とデュエットした「ジャスト・ア・RONIN」も入っていますが、ここはやっぱりトノバンと出演者たちの競作となった「だいじょうぶ マイ・フレンド」でしょう。
このCDには当初収録が予定されていた広田玲央名ではなく、なんとジャPAニーズの“のおちん”こと乃生佳之のバージョンが入っているんです。チャチャ人形以来のファンとか、コレを目当てに買う人も中にはいるかもしれませんね。
ちょっと残念だったのは、トノバンが力を入れたアイドルシンガーや、ビッグネームのスマッシュヒットが漏れてしまったこと。
当初は高岡早紀「薔薇と毒薬」、伊藤つかさ「夕暮れ物語」、武田久美子「噂になってもいい」、西村知美「わ・た・しドリーミング」、高田みづえ「愛のイマジネーション」などの収録が予定されていただけに、ちょっと不完全燃焼的な部分も否めません。
とはいえ、トノバンの提供作品を考えたら、2枚じゃとても収まりきらないと思いますので、これが評判となって、次はキャリアを網羅した提供作品BOXが編まれることを祈ってます。
(2012.9.12)